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2021年 54冊目『ワイズカンパニー』


名著『知識創造企業』出版から25年。その続編にあたるのが『ワイズカンパニー』です。


前著を読んだ人が、知識創造を一度行っただけで、企業が生き残ることができると勘違いされたそうです。それを受けて、この本は、知識創造をやり続ける「実践本」として出版した本という位置づけです。

前著では、知識には形式知と暗黙知の2種類あり、この暗黙知をきちんと取り上げたこと評価されました。そして、個人の暗黙知が形式知へ、そして組織の形式知へと変換され、それが次第に組織的知識につながる様子を、SECI(セキ)モデルをとして表現していました。

SECIは、共同化、表出化、連結化、内面化という4要素を2×2のマトリックスで表し、これを時計回りに回せば知識創造につながるというモデルです。
そして、今回の本では、スパイラルSECIモデルと進化させて説明しています。
 ホンダは、70年以上の歴史の中で4回ものイノベーションを起こしています。ピストンリングからオートバイ、そしてオートバイから自動車へ、さらに自動車から飛行機(ジェット)へと、イノベーション領域を移しています。

 これはホンダだけではありません。日本の長寿企業を研究すると、知識創造を繰り返し行っていることがわかりました。この「持続的」(Continuous)が本書のキーワードの一つです。これをスパイラルSECIモデルと表現しています。従来のSECIモデルが二次元だったものに時間軸を加えたわけですね。

 そしてこの時間軸でSECIを動かすのが、実践知(Practical Wisdom)だと言います。実践知を備えたリーダーをワイズリーダーと呼び、そのリーダーに率いられた組織をワイズカンパニーと呼んでいます。これが本のタイトルです。

 実践知とは、経験から得られる暗黙知であり、賢明な判断を下すことや、価値観とモラルに従って、実情に即した行動を取ることを可能にする知識のことです。ギリシア語ではアリストテレスの提唱した「フロネシス」に語源を求めています。

そしてこのフロネシスには2つ意味があり、一つが共通善(Common Good)、つまり社会全体のグッドネスを追求すること。もう一つが「いま・ここ」(Here and Now)という発想です。不確実性が高まる時代においても、いま・ここに集中して、リーダーは判断を下すのです。

 東日本大震災や新型コロナウイルス感染症等、想定外のことが起きたとしても、その時々で賢明な判断を行わなければならない。そのためには形式知だけでは役に立たない。実践知が求められているのです。

 →中尾はリーダーに品性を求め、中尾塾では判断軸を作るのをサポートしています。まさにこのことですね。

 リーダーが、よりよい社会のためにという高い目的に向けて行動する。すると、知識がスパイラルに波及して関わる人もどんどん増えていきます。
 それまでの戦略論がどちらかというと、静的な捉え方をしていたものに対して、この本での戦略論は動的に捉えているのです。

知識は陳腐化するため、SECIで一度創造したイノベーションも陳腐化してしまう。そこで、繰り返し実践して知恵を高め、実践知を得て、持続的なイノベーションにつなげていくという考え方です。まさに動的ですね。
 
これらを実現するには、社会との共生や共感が必要です。

セールスフォースの創業者のマーク・ベニオフは、「サンフランシスコが抱える一番大きな問題はホームレスであり、我々のような大企業から税金を取ったらいいのではないか」と答えています。これは米国企業からはなかなか出てこない発想です。

 マイクロソフトCEOのサティア・ナデラも同様です。インド出身の彼には、障害を持つ2人の子どもがいます。彼は、その子育てから社会と共生していくことを学び、「共感はイノベーションの一部である」と述べ、共感の持つ力を組織に取り入れています。

 日本においても、伊藤忠商事が商売の原点に立ち返ろうと伊藤忠グループの企業理念を「三方よし」に改定し、展示会まで開いています。

やはりトップが企業のミッションとして何を掲げているのかがとても重要です。「俺たちはこのために存続するんだ」と。それが社会のため、世のため人のためにつながっているかどうか。そのメッセージがあるかないかで、人材獲得にも差が出ています。

バーチャルにおいてもリアルな場と同等の文脈(Context)をつくることができると考えています。その時、何が肝となるかといえば、相互作用(Interaction)です。

ワイガヤにしても、なぜ酒を飲むかといえば、本音を引き出すためですし、コンパをなぜ畳の上でやるのかといえば、それは動きやすくするためです。

これをバーチャルに置き換えてみるとどうでしょうか。IT化が相当進んでいますから、大規模なミーティングから個別のチャットルームまで、相互作用を促すためにさまざまな仕掛けができるでしょう。

日本の会社はピラミッドのような階層型組織となっています。そのため、皆で自由に言いたい放題言う場が必要です。

ワイガヤやコンパの本質は、階層型組織とは異なる文脈をつくろうということにあります。異なる階層の社員たちが意見交換をして「お前、そんなこと考えていたのか」などと気づくことができる。それが共感のある組織になっていくわけです。

たくさんの会社の事例も載っていますが、底を流れている考え方は、日本企業の生きる道を指し示してくれている気がします。


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