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東京影 中野

中野での記憶といえば、いつも夜のことになる。

もう十数年も前のことだ

私は中野の駅近くにあるカラオケ屋で働いていた

勤務時間はだいたい深夜0時から明け方の5時で、サラリーマンが出勤のために家を出る頃には布団の中に入って眠りに着くころだった。

家とカラオケの往復だったからほとんど日の目を見ることがなかった。


深夜のカラオケで働いているといろいろなトラブルに巻き込まれることが多々ある

一番多いのが悪酔いしすぎてトイレから出てこれないという客を引っ張りだす作業だろう

最悪の場合救急車を呼ばなければならない事態に発展することもあるが店側としてもそれだけはなんとか避けたいところだ。

ある日、大学生の女の子二人が深夜に来店してきた

特に目立って悪酔いしている感じも見受けられず、担当したフロントのスタッフも普段通り部屋に通した

すると一時間もたたないうちに片方の女の子がトイレにこもってしまい出てこなくなった

こちらのスタッフも深夜とあって男しかいないものだから女子トイレに入るわけにもいかずしばらくの間様子を伺いもう一人の女の子にどうにか頑張って出してもらうことにした

しかし、それから数分と経たないうちにフロントにやってきて、先ほどよりさらに困ったような、何か言いづらそうな顔で

「ちょっと…… 来てもらっていいですか」と言いに来た

近くにいたスタッフに無線で指示が飛びトイレに向かわせた、するとすぐにそのスタッフから無線でこう応答があった

「ちょっと誰か手伝えますか? 一人じゃ無理です」

そのスタッフはかなり焦っていてどうしたことかと、もう一人の近くにいたスタッフが駆けつけ、そのスタッフもすぐさま無線でこういった

「フロントさん、救急車を呼んだほうが……」

何事かと皆が一斉に駆けつけた。トイレの中を覗くと一同言葉を失った。

一瞬皆理解できなかったのだ

しかし、周囲に漂う異臭と目の前に広がる異様な光景と無線から聞こえたスタッフの焦りようが瞬時につながりスタッフ同士顔を見合わせた

トイレの個室にこもっていた女の子がなんと大便まみれになって倒れているではないか

皆、何から手を付けてよいのかわからなかった。

社員も帰っていて、その場を仕切るものは皆無だった

とりあえず救急車を呼んで、指示を仰ぐことにした。

私はなぜトイレにいて大便が便器の外にあるのか不思議でならなかった

最初のうちは泥酔して吐いていたが、だんだんとお腹の方の調子も悪くなり便意を催したが、すでに立って便器にまたがる気力すらなくそのままの状態で漏らしてしまったということだろうか。

そのあとすぐに救急車がやってきて隊員数人がかりで引っ張り出してもらい搬送されたが、周囲は異臭が充満し我々深夜番のスタッフが数時間かけて掃除することになったのは言うまでもない。

そのあと大掃除が終わり、外に出ると久しぶりの太陽が身体に突き刺さってうっとうしかった。






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