ハイエナに会いに行く。~ホーチミン~ミトー#3~
ミトーの市街地に着いてからというもの暑さにのぼせ上がってロッテリアから一歩も動ける自信がない。
コーラを一気に飲み干してから、バーガーセットを頼み今度はアイスコーヒーで喉を潤している。
もうかれこれ一時間は粘っているだろうか
早くここから出なければと思うのだがそう簡単に身体は言うことを聞いてくれないのだ
それにしてもわざわざミトーにまできてロッテリアに滞在しただけで帰るのは映画館で寝ているようなものである。
僕はホーチミンでは見れないベトナムの田舎の生活をこの目で見たくてミトーにまでやってきたのだ
そう自分に言い聞かしようやく外に出ることに成功した。
しかし、外に出たはいいが、何をしたらベトナムの田舎の生活が見られるのかわからなかった。
とりあえず川の方に歩いて行くと、メコン川とバオディン運河が交わる場所に行きついた。
そこからバオディン運河沿いに歩みを進めると、向こう岸にトタン屋根の家々が複雑にひしめき合って建てられていて、水上まで突き出したベランダをいつ崩れてもおかしくないようなもろさのコンクリートがかろうじて支えているようだった
それに建物自体も平衡を保てていないようで、隣の家が隣の家を支えていて、持ちつ持たれつの関係を上手い具合に築いている
それによってどこからどこまでが一つの家なのかわからなかった。
ベトナムは地震が少ない国らしいが、それにしてもひどい構造である。
日本なら間違いなくアウトだろうなぁと思った。
日本でアウトでもベトナムならセーフを探せば切りがないのだがこればっかりは驚きだった。
それからまた歩みを進めるとマーケットが開かれていたが、平日の十五時を回ったこの時間では惰性で開かれている店が多いようで、活気はすでに失われていた。
もともと計画などなくミトーに来てしまったからこういうことになってしまうのだが、これもミトーの住民の日常と捉え、期待感は弾まなかったが散策することにした。
まずマーケットに近づくにつれ、魚の腐った匂いが鼻を突く
そして中に入るとドリアの匂いが加わってしだいに鼻が利かなくなった。
売っているのは魚や肉や青果といった生鮮食品や調味料が主だったがたまに生活雑貨が売られていた
なるほど、スーパーマーケットの原型がこういうものなのか
そこからまたさらに歩みを進めると、特に面白そうなものは何もなかった。
ふと、もういいかなと思った。
ここからメコン川まで引き返すこともできたし、他の観光名所だってそう遠くない距離にあるのだから行けただろう
しかし、体力の限界がきているということもあったが、それよりも僕の求めているものがお門違いなことに気が付いたのだ。
僕はミトーでベトナム人がどんな日常生活を送っているのか知りたいと思ってここまで来た
きっと観光地化された今まで行った都市にはないベトナム人の”素顔”が見えるのではないかと思っていた
しかし、そんなものは僕の幻想に過ぎなかった。
本当に素顔が見たいのなら、何年も住んでみるべきだろう
こちらが観光客である以上、それは対等な立場にない
僕は上から目線でベトナムの人たちの素顔を求めていたのだ
そんな当たり前のことに今更気づいた僕はもうこのままホーチミンに帰ることにした。
おとなしくバイクタクシーを見つけ、今日歩いてきた道を帰るのだ。
しかし、バイクタクシーが一向に見つからないのである。
歩いていればそのうち捕まるだろうと高を括っていたが一向に見つからない
また来た時と同じである。
陽はだいぶ傾いていたが、それでも直射日光が身体に堪えた。
半分まで来てようやく一台のバイクタクシーを捕まえた。
ミトーのバス停まであっという間についてしまった
初めからこうしておけば、と思わないようにした。
帰りのバスは眠っていて記憶にないが、ホーチミンのバス停に着いた頃にはすでに日は落ち薄暗くなっていた。
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