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「個展をする」と決めたそのあと、何をしたか。後編

個展をしようと決めたら、考えることや決めることがたくさんありました。
しかし、個展をしたことがないわたしは右も左も分からず、立ち往生。
そんな過去の自分へ向けて、そしてこれから個展をしようと考えている方へ向けて何かのヒントになればいいなと思い個展開催までの道のりを数回に分けて記事にしていく予定です。
前編ではテーマ、ギャラリー、日程、メインの作品などを決めたり制作したりしましたが、後編ではDMを作るところから実際に個展を開催するまでにどういう準備をしていったかを書いていければと思います。

( 前編はこちら )


  1. テーマを決めた

  2. ギャラリーはどこにしよう?

  3. ギャラリーと契約、開催日程を決める

  4. メインになる作品を描く(前編はここまで)

  5. DMを作る

  6. 自分を紹介できるツールを作っておく

  7. やりたいこと、作りたいもの、アイデアを出していく

  8. 納期や部数、金額をチェック、実際に作っていく



5.DMを作る


"DMを作る"個展を開催するのにとても大切なことで、とても楽しいことです。
今回の個展では「やりたいことを全部やる」と決めていたので、私はずっとやりたかった活版印刷で作ることにしました。
とはいえ、活版印刷は初めて。どこで印刷してもらえるのか、料金はどれくらいで納期は…と分からないことだらけ。
HPで活版印刷所さんを探しているとコースターにも印刷していただけるというのを知りました。今回のテーマが"花とエン"だったので丸型のDM、めちゃくちゃ良いのではと思いつきました。(こういう思い付き、とても楽しくてワクワクして好きです)
そこでとても素敵なプロダクトをされている活版印刷所さんに見積もりをお願いしました。
お見積もりいただいた料金はポストカードサイズのフルカラー印刷と比べてもかなりお高かったのですが、その価値はきっとあるだろうとお願いしました。
(初めての個展でこんなにDMにお金をかける人はいないかもしれません)
データの作成でかなり四苦八苦しましたが、印刷所の方のおかげでなんとか完成、印刷していただけました。

そして完成したのがこちら。

コースターの厚紙に2色の活版印刷

とても素敵に仕上げていただけました。
凸凹とした活版印刷ならではの手触り、インクの色もマットな感じでイメージ以上の仕上がりに感動したのを覚えています。ぜひ手に取って触ってみて欲しい。

日程変更のためそのまま使うことができなかったのですが、修正はシンプルに二重線にして、コースターのデザインが見えるようトレーシングペーパーに変更後の日程を印刷して封筒にしました。(この作業、なかなか骨が折れました)

完成したDMはギャラリーさんとギャラリー近くの喫茶店などDMを置いているお店に持っていきました。

このDMを作るときに1点だけ悩んだことがあります。
それは"展示する絵が伝わらないのではないか?"ということ。
今回の展示では"日本画の画材を使用して描く"というのを決めていたので、その雰囲気が伝わらないのではないか?と。
しかし、表現の違いはあっても、このDMの雰囲気から私の絵のイメージはちゃんと伝わっていたようでした。
そしてDMを手に取ってくださった方が皆さん「こんなDM見たことない」「とても素敵」と喜んでくださって、DMをきっかけに個展に興味を持っていただけました。

今回活版印刷をお願いした桜ノ宮活版倉庫さん、本当にありがとうございました。


もしどんなDMを作りたいか迷っていたり、イメージが湧かなかったりする場合は、ギャラリーさんや喫茶店などに置いてあるDMを集めてみてください。
実際に完成された素敵なDMをたくさん見て触って、そして改めて自分の絵や個展のテーマに立ち戻り、イメージを膨らませてみると面白いかと思います。
私たちの周りにはすでに素敵なものがたくさんあるので、私は困ったら周りを見渡してみるようにしています。そうすると、刺激を受けて自分の中にも何かが生まれる気がします。



6.自分を紹介できるツールを作っておく


ギャラリーに個展の相談に行くとき、DMを店舗に置いていただくとき、初めて使う印刷所さんに連絡をするときなど、個展をする際に「自分はこういう者です」と言えるツールがあるととてもいいです。
名刺、HP、イラストを掲載しているSNSのアカウント、ポートフォリオ、ZINE、プロダクトしたもの、などなど。
私はギャラリーに行くときに名刺はあったのですが、個展のイメージに近いようなポートフォリオを作っていなかったので、Instagramのアカウントを見ていただき、「こういう者です」と自己紹介しました。
掲載しているイラストが個展で描こうとしている作品とイメージが離れている場合は、1作でも個展で飾りたい絵を描いておくのもいいかもしれません。


7.やりたいこと、作りたいもの、アイデアを出していく


今回の個展ではやりたいこと、作りたいことがいくつかありました。
箇条書きにあげてみると、

  1. 岩絵具を使って作品を描く

  2. 活版印刷を使う(これはDMで実践できました)

  3. 紙雑貨を作る

  4. 似顔絵屋さんをする

  5. 布を展示する


「岩絵具を使って作品を描く」
このために岩絵具を揃え、大きな和紙を発注しました。この時に感じたのはこういう画材は専門店で揃えるのが良い、ということ。
比較的近くにあった画材店を訪ねても私が希望しているような和紙や画材はありませんでした。ネットで検索すると画箋堂という日本画材も豊富に取り揃えている画材店が京都にありました。
そしてオンラインショップもある、早速注文。(種類などよくわからなかったのでお店の人に聞いて教えてもらいました)
画材から揃えるというのはとてもわくわくして楽しい作業でした。

個展会場にも持っていった好きな岩絵具たち

「紙雑貨を作る」
紙雑貨の質感がとても好きなので、自分も作ってみたくて個展に合わせて一筆箋とマスキングテープを作りました。
一筆箋はレトロ印刷さん、マスキングテープはカモ井加工紙株式会社さん。
マスキングテープはロットが大きいのでとても迷いましたが、最初の1つを"えいや!"と作って販売してみるとなかなか好評いただけたので、最終的に3種類作りました。
個展でも販売できるからとロットが大きいのを勇気を出して作ったマスキングテープですが、結果としてはWEBSHOPを多くの方に利用していただけた感じになりました。

質感が大好きなマスキングテープ

マスキングテープや一筆箋は余裕を持って作っていたんですが、個展開催1ヶ月前を切ったある日、"缶を作りたい熱"がカッと湧き上がってきて(かわいいクッキー缶をたくさん見ていた時期があったので多分そのせい)ずっと作りたかったフレークシールを中に入れる缶を作ることにしました。
缶は印刷所さんにお願いしたものの、マステ生地のフレークシールを印刷してくれる印刷所さんが見つからない。
普通のシール生地にするか…となるところなんですが、質感を捨てられずにシール台紙をネット注文して自宅のレーザープリンターで印刷、手切りしました。
夜な夜なシールをハサミで切りながら"作品も描かないといけないのに私はいったい何をしているんだ"となったんですが、完成したものをクラフト封筒に貼ったり、缶に入れるととてもいい。やってよかったと思いました。(でも次は印刷所にお願いします、大変だった…)

夜なべして作ったミニ缶入りフレークシール

そうして個展当日はなかなか賑やかなグッズ販売スペースになった気がします。
陶芸教室で絵付けした陶器も並べたりしました。
ギャラリーの方が岩絵具を使った作品やこのグッズを見て「質感が好きなんですね!」と一言。
そうなんです、質感が大好きなんです…
デジタルが進んでいる今の時代ですが、手で触った時やそこにまとった空気感がやっぱり好きなんです。

個展のグッズ販売スペース

「似顔絵屋さんをする」
個展を開催する時期はまだまだ遠方から気軽に来れる状況ではありませんでした。
来てくださる方も、遠方の方も楽しんでいただけることがしたいと思い、似顔絵屋さんをすることにしました。
当初、会場では1人30分など時間を決めてお話ししながら描く予定でしたが、感染対策の為お写真を撮らせていただき後日郵送という形にしました。
この似顔絵屋さん、私が想像していたよりもたくさんの方に楽しんでご参加いただき、最終日の時点で60名を超える方の似顔絵を描かせていただけることに。
誕生日の記念に、ご家族で、飼い猫を描いて欲しいとご依頼くださった方々、遠方で行けないのでせめて似顔絵をとオンラインからご希望くださった方など。
本当に似顔絵屋さんをしてよかったと感じる出来事がたくさんありました。
(現時点でまだお送りできていない方もいらっしゃるので引き続き頑張ります)

似顔絵屋さんのsampleモデルはお友達ご家族

「布を展示する」
個展を開催しようと考えていた時期、テキスタイルを描くのに凝っていたのですが、せっかく個展をするなら何か布を展示したい、そう考えました。
個展会場にはベランダにつながるガラスの引き戸が2つあります。
会場を見学に行ったときにギャラリーの方とこのスペースをどうするかお話しして「大きな布を上から下げるのがいいんじゃないか」という案が出ました。
大きな布に何を描こう、と考えた時にGULIGULIさんの素敵なお庭を思い出し、お庭を描かせていただいたものを布に大きく印刷していただきました。
この布、本当に作ってよかったです。
3Fなので、ガラスの引き戸を開けた隙間から心地よい風が入ってきていたのですが、その風になびいて布がふわふわと揺れるのがなんだか気持ちよかったです。

右の布です。ダブルガーゼ生地なの向こう側が透けて綺麗でした。



8.納期や部数、金額をチェック、実際に作っていく


個展会場に展示する作品、グッズなど実際にどれくらいの数を"どれくらいの期間やお金をかけて用意するのか"とても大事なことです。
DMやグッズのことは先に書かせていただいたのでここでは省略します。

  1. 会場の広さから展示する作品点数を決める

  2. 額を決めて発注する

  3. 作品の価格を決める

  4. 告知、広告をどこに出すか

  5. 支払い方法を決める

  6. 備品や申し込み用紙の準備

5と6はギャラリーさんがしてくれる場合が多いかもしれません。
今回は借りた側がお金のやり取りまで全てするという契約だったので、現金の他にPAYPAYで支払いができるように準備したりしました。


「会場の広さから展示する作品点数を決める」
ぎゅうぎゅうでもバランスが悪い気がする、点数が少なすぎても物足りないんじゃないか、作品点数はとても重要だと思います。
会場を実際に見てみて、作品の大きさを考慮して何点作品を展示するか決めます。
今回廊下にも展示できるスペースがあったのでそこも含めて考えました。
余裕があったら多めに描いて搬入の時に調整してもいいかもしれません。(なかなか難しいですが)
窓があったり、ピクチャーレールが使えなかったり壁面に釘が打てなかったりとギャラリー、会場によって状態が違うのでそこは注意が必要かと思います。

「額を決めて発注する」
今回私が展示で使用した「MOBE」というメーカーの額。
私は今回の展示で"自分の岩絵具で描いた絵に似合う額はどんなものだろうか"と悩みました。シンプルなものが好きなので、そこは外せない。
日本画はしっかりした額に入れられているものが多い気がしますが、気軽にお部屋に飾ってもらいたいなあという思いから今回の額を選びました。
オーク材の雰囲気がよかったこと、両面ガラスになっていて絵を小さく入れると隙間が見えたりしてそれもいいなぁと。
なので今回はマットは使いませんでした。
マットを使う場合は額装してくれる額縁屋さんもたくさんあるので、そちらを利用すると綺麗な仕上がりになると他のイラストレーターさんから聞きました。
それとキャンバスに直接水張りして、額を使わない方法もあったり。
額については私はまだまだ知らないことだらけなので、もっといろんな方からお話しを聞いてみたいです。

今回使用したMOBEの額

「作品の価格を決める」
ここが一番難しかったです。
スッと自分の作品に値付けをできるイラストレーターさんはなかなかいないのではないでしょうか。しかも値段をつけるのは今回が初めてです。

絵の価格は、画材代や額代の他にそのイラストレーターさんの制作時間やこれまで積み上げてきた実績、練習に費やしてきた時間など、いろんなものから構成されていると思います。
そして安いからといってその絵が売れるわけではなく、その絵が欲しいと思ってくれる人がいるから売れる。その人が"この値段なら納得"と買ってくれないと絵は売れない。

今回画材の岩絵具や和紙がなかなかに高価なのと、額にもこだわったのでそんなに安くはできない、でも初めての個展で、できれば欲しいと思ってくれた人に手に取ってもらいやすい値段にしたい。

個展をする時、会場のレンタル代と、場合によっては作品やグッズの何割かをギャラリーに支払います。東京などでは地価が高いので会場のレンタル代だけでもかなりかかるような話も聞いたことがあります。
そして個展の売上は作品・グッズの売り上げ。(今回の場合は似顔絵の売り上げも入りました)
今後も制作を続けて、できれば個展をしようと思った時に赤字では続かないのでできれば黒字にしたいところ。

作品やグッズが売れるかどうかは会期が始まってみないとわかりませんが、何割売れたら黒字になるなどの収支の計算はしておいた方がいいと思います。

私はめちゃくちゃ悩みました。そしていろんな人に聞きました。
そして他のイラストレーターさんの付けられている値段も参考にしながら悩みに悩んで今回価格を付けました。そしてこれからもきっと悩み続けると思います。

今回の個展で作品やグッズを買ってくださった方には本当に感謝しております。これからも制作頑張ります。


「告知、広告をどこに出すか」
個展を開催することをより多くの方に知っていただきたい。
そこでDMを作り、ギャラリーとご近所の店舗などに置かせていただきました。
その他に私がしたことは"SNSで繰り返し告知する〃ことと"制作風景をアップする"こと。SNSは見ている人の時間帯も違うので1度や2度告知しただけではフォロワーさんにも伝わっていない場合があるかと思います。しつこいかなと思いつつ、何度も告知をしました。制作風景をアップしていたのは"岩絵具楽しいですよ!"という気持ちと"制作段階から個展を楽しんでもらいたい"という気持ちから。
私自身制作風景を見るのが大好きなので、描いているところを写真や動画でアップしたりしていました。

広告として出していたのはInstagram。投稿した告知を広告費用を払って宣伝しました。合う合わないはあるかと思いますが、Instagramの広告は結構見ていただけていた気がします。
より多くの方に知っていただく努力は惜しんではいけない気がします。

「支払い方法を決める」
今回お金のやり取りは私がしなければいけなかったので、現金の他にPAYPAYでも支払っていただけるように申請を出しました。
実店舗を持っていなくても、こういった単発のイベント用に申請できるので必要な方は聞いてみてください。
実際に私の個展では3割くらいの方はPAYPAYでのお支払いでした。

「備品や申し込み用紙の準備」
これがなかなか時間がかかりました。
作品やグッズを準備するだけでなく、キャプションボードや申し込み用紙(似顔絵)、BGM(CD)、送料表、おつりの用意、包装資材などなど。
細かいものでは、お金の受け皿や芳名帳、当日の流れをシュミレーションしてみてあれがいるこれがいると書き出してから準備しました。

備品の中で用意してよかったと思ったのが一眼レフカメラ。
持っていなかったので1ヶ月間だけレンタルしました。
作品を撮るのにも使いたかったし、似顔絵を描かせていただくときにお写真を撮るのでその時にも使用したかった。でも買うには知識も乏しく、資金もない。
レンタルしてよかったです。レンタルするカメラでさえ迷いに迷ったのに買うときはどうしたらいいのか…
カメラ詳しい人教えてください。

レンタルした一眼レフ。制作風景や個展風景などもバッチリ撮れました。


個展が始まってしまうとなかなか荷物を取りに帰ることができなかったので、忘れ物はないか何度も確認しました。
準備、大切です。


"どれくらいの期間やお金をかけて用意するのか"
私が今回、作品制作にかけた期間はひと月ほど。前後に他の仕事があったのでぎゅっと詰め込んで制作しました。3月中旬の開催だったので、1月中に他の仕事を終わらせて、2月に入ってから取り組みました。
少しずつ描いていく方や私のようにぎゅっと詰め込んで描かれる方、いろんな方がいらっしゃると思います。自分に合った制作方法や期間を選んでもらうといいと思います。

一方でグッズなどは納期があるので、マスキングテープなどは何ヶ月も前から印刷をお願いしていました。単納期にしてしまうと価格が上がってしまう場合もあるので要注意です。何より作りたいものが個展当日に並ばなかったら悲しい。

作品をどれくらいのお金をかけて描くかは今回あまり考えませんでした。
描きたいもの、表現したい質感や色、形をどうやったら出せるかを考えて制作し、販売価格を後で考えました。
グッズはその逆で、今度の展開も考えて売値の何割が原価になるかをしっかりと考えて作りました。

"お金をかけるところとかけないところを意識する"

私はDMにお金をかけましたが、今はWEB上やSNSでの宣伝のみでDMを作らない方もいらっしゃいます。どういう形が自分に合うのか、やりたいことは何かというのが大事だと思います。


最後まで読んでくださってありがとうございます。
あくまで私の場合の個展準備の話でしたが、少しでも参考になれば嬉しいです。

空間を自分がプロデュースできる機会というのは人生においてもなかなかないので、もしこれから個展をされる方がいらっしゃいましたら精一杯楽しんでもらえたらいいなと思います!

次回は個展風景や、個展中にあった嬉しいことなどを写真いっぱいでお届けできたらと思います。

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