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朝の脳裏

5歳の僕に銭湯の入り方を教えてくれたおじちゃんの背中には鷹の紋章があった。

25歳の僕が腕立て伏せやダーツをして遊んでいたオッサンの背中には龍の紋章があった。

そして、45歳の僕の前を歩く米兵の二の腕ではマリアの紋章が微笑んでいる。


米が炊けるタイマーの音で僕は目を覚ます。

米を蒸らす時間の間にベランダでコーヒーと煙草。

17度の寒い沖縄の朝、熱いコーヒーを啜り、まだ薄暗い空へ煙を吐く。

白い煙と赤く燃える火種。

スナイパーのスコープ発する赤い焦点と仕事を終えた後の消炎。

10代から20代前半に掛けて訪れる天才性。

フラストレーションと未来への訴えかけ。

言葉は世界の共感を産み、ビートは聴く者の奥底に振動する。

昭和生まれの僕等の世代に共通するあきらめにも悟りににも似た境地は皆無継続性を強要され続ける捕らわれた身の僕等には無いグランドライン。

100%の自我に革命軍の唯我独尊。


嫁がやかんを火にかけお湯を沸かす。

コトコト音を立てるやかんと時計の針の秒針の音。

腹が減っても戦は出来るが、極端な腹の虫は時に暴力的な食欲を産む。

そんな僕は今日も変わらぬ朝食を食べる。

誰が決めたかTKG、単純に卵かけご飯。


洗面所に向かい僕は歯を磨く。

目の前には石灰石で白く汚れた四角い鏡。

鏡に映るは大口を開けた僕の顔、時より嗚咽をかまし涙が流れる。

親戚のオバちゃんにジャニーズ系と言われた少年時代。

目じりの皴さえも日に焼けている現在の僕。

人は時が経つにつれ何かを失っていく。

ニュースから流れる失われた何十年かは関係ない。

去るものは追わず、来るものは拒まず、自分の感覚に正直に。

世界の人々にはno giveかもしれないけれど、身の回りにはfor give。

チャレンジ精神は忘れない、ロッキーバルボアな毎日。


真っ赤なハイビスカスは今日も太陽に向かって花を咲かす。

歯を磨いた後の一服。

Best3に入る煙草の旨い瞬間。

キレイになった物を汚すようで漂う罪悪感にも似た感覚。

ベランダから見るリゾートホテルが朝焼けに照らされる。

イオンの街燈が消え、道行く車のライトも消える。

ジョギングする外国人、昨日の夜を生き抜く事のできたオッちゃん。

仕事に向かう人々、世界の今日が動き出す。


着替える僕はクローゼットを開ける。

選ぶ洋服は3パターンの中の1パターン。

いつからかシンプルになった身なり。

皆と同じ服はダサい、洋服は個性だと自己主張を勘違いしファッション雑誌から出てきたまがい物の個性。

俺は皆とは違うと思いながら皆と同じ格好をしていた20年前。

VANSにオクトパスアーミーが定番の過去から、魚サンにユニクロが定番の今。

カートコバーンを聴いて懐かしむ年でもないが、レコード屋でジャケ買いがワンピースだった大航海時代。


隣の部屋から僕を呼ぶ嫁の声が聞こえる。

しめ切った部屋に寝汗のこもった匂い。

そこに交わる炊かれたお香の香り。

携帯がメールの着信を知らせる音を発する。

ここは098、日本の南端。

パスポートは過去の話だが、歩けば辺りには広大な基地が広がるジャックポット。

雑多と多様性。

色が違い、匂いが違う、感覚の相違が朝の挨拶。


出かける僕は帽子を被り玄関へ向かう。

嫁にハグをし、頬にキスをする。

肩にはカメラバッグ、ポケットには携帯とお気に入りの財布。

扉を開けると、眩しい朝陽が部屋の中に射し込んで来る。

天気は快晴、僕はサングラスを掛ける。

世界はもう動いている。

僕の世界はゆっくりと今日も幕を開ける。


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