フランス食堂
短歌 中西まさこ
歌舞伎座の裏に安くて美味いフランス食堂があるのですよ
「フレンチですか」ときいた私に「いやいやフランス食堂なんです」
「レストランじゃなくて食堂?」「食堂とか居酒屋という雰囲気です」
4人各々その日の仕事を終えて東銀座に向かう そのフランス食堂に
欧州の冬並みに冷え込んだ日 白い木枠のガラス戸は結露していた
一歩入ればパリの大衆食堂そのままに 葡萄酒の香と談笑の渦
隣のテーブルのグラスを倒さぬように気をつけて通るくらいの狭さ
他人の顔に当たらぬようにコートを脱いで「よいしょ」と掛ける
箱形のイスの蓋を開け 中の空洞にバッグを入れ 閉めた蓋の上に座る
薔薇 キール リエット 酒 フォアグラ ポトフ ドミタッス 彼
初出:『未来山脈』2015年4月号
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