誕生
短歌 中西まさこ
おなかの大きさが目立ってきて「父親は誰?」ときかれる少女
若者は彼女に裏切られたと思う もう別れようと決意する
「ああ、なぜだ」 眠れない夜に不思議な声〈結婚してあげなさい〉
「おなかの子に罪は無い 君を捨てるなんてできない」
「本当にいいの?」涙ぐむ彼女の手を取り「一緒に育てよう」
身重の妻を連れて故郷へ帰る若者 貯金をはたいても貧乏旅行
高速道路も通っていない ガタガタの山道を行く小さな乗りもの
「あの星、大きいなあ、きれいだね」「そうね、あ、痛い」
急に産気づいた妻のために宿を探すがどこにも見つからない
ベツレヘムの馬屋に産声が上がる 小さな男の子 飼葉おけに眠る
初出:『未来山脈』2015年2月号
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