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奏法、様式と習得のステップ

バイオリンに限らず、音楽する技術を習得する上で大切なことは「音」だと思います。

正しく音を響かせる。ストレスなく身体を使わないと、せっかく長年努めても故障してしまいます。
その上で音程の取り方であったり、音色の在り方を考えたいと思います。

今回書いてみるのは、奏法と様式です。
そして指導の時に、どうするか、です。

多くの古い音源は19世紀後半くらいから残っています。そこからでも構いません、この2020年までの音源をたくさん聴いてみると...同じ曲でも何通りかの様式、奏法の違いがあると思います。
※ここでいう様式、奏法は、曲の解釈とはまた違う次元の話です。

民俗音楽の中にもやり方の流行り廃りがあります。誰々がこうやって人気になってる、真似してみるか!みたいなことはどんな音楽圏にもあります。

クラシック音楽の場合、奏法は楽器の進化とも連動します。
バイオリンでいえば、指板を伸ばしたり、ネックの付け方を変えたり...弓の反りや長さも変わってきました。

たとえば、動画ではバッハやヴィヴァルディを弾いてみましたが、当時の楽器とはやや違うのが現代の楽器です。

教材を見てみると、多くのバロックの楽曲はロマン派の奏者によってアレンジ(校訂)されています。
作られた当時楽譜に書き込まれていない、即興だった箇所を書き加えていたり、音をオクターブ変えてダイナミックにしてあったりします。

いろんな考え方がありますが、弾く人の時代の流行りや楽器に合わせてその流れになったんだろうと思います。

その一方で、古楽器、ピリオド(時代)楽器を専門に使う演奏家も増えてきました。
実際に弾かせてもらうと、発音のタイミングや自然につくイントネーションが現代の楽器とは違います。

ポンっとはじくように鳴り、音は消えていきます。話しかけるような感じです。
今の楽器は最初から最後まで同じ音量で弾き続けるコントロールが可能です。演説のように弾くことができます。

ここまでは右手の話ですが、左手のことに話を変えましょう。

ヴィヴラートをかけるのも、クライスラーの登場までは大事な音だけでしたし、ヴィヴラートのご先祖様は音程の幅の狭いトリルだったと言われています。

たとえば、今国内の一般的なコンクールやオーディションをバッハで受けるときは、シェリングのような弾き方が評価の大前提ということが多いと思います。これから変わるかもしれませんが。

たしかに、Zさんは「バッハの曲は響きの豊かな教会で弾かれていたんだから、それをホールで再現するためにはヴィヴラートが欠かせない」と答えていました。
また、I先生は「すべての楽器が銘器のように響くわけではないのだから、自分の楽器の弱いところは隠し味のヴィヴラートでケアすべきだ」 と仰っていました。

こういう話、言葉は沢山あります。

一方で重音の弾き方(右手)は沢山の試みがされてきました。
拍子を強調するために一気に弾く人、
バスの声部を特定の響に揃えて階層的に聴かせるためにやや分割する人、
特定の声部(パート)のつながりを大事にするために、重音を上の音から弾く人などです。

音楽に正解はないといいますが、バロックの演奏で現在もっとも重要視されているのは、イントネーションです。

現代の楽器で、古楽器のようなイントネーションを作り出す。

多くの大家のインタビューではこの言葉がでてきます。実際に、昨今リリースされる録音はそういう考慮が多く含まれています。

つまり、今楽器のお稽古をしている子達が大人になった頃にはそれが当たり前かも知れませんし、もっと沢山のやり方があるのかも知れません。

でも、ずっと変わっていないこと、今後も変わらないであろうこともあります。
弓の毛で弦を掴んで離し、楽器のボディに振動を循環させるというバイオリンの基本構造です。

弦を毛で掴む。離す。発音。

たまに飛び込みの生徒さんで、バロックの曲だと「ピリオドっぽい弾き方のお手本を見たんだろうなぁ」という方がいます。大抵、勘違いしていて弓を吊り下げてしまって弦の音しかしていなかったり、発音のタイミングがズレて左手も弾きにくそうです。

そういった自分の経験を踏まえて考えると、
習得の順序としては、現代の楽器にあったアレンジや奏法から始めて、その右手の感覚を突き詰めていって、やっとできるのが時代を考慮した弾き方なんだろうと感じています。

嗜好や好みだと思うのですが、演奏するなら、その時に自分で良い、と思うやり方を選びたいと思います。
なので、教わってきた、教える立場のときのやり方、自分で弾く時のやり方の二つを使い分ける必要性を感じているこの頃です。

長かったですねぇ(苦笑)
お読みいただいた方はありがとうございました。


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