ぶらりとヨーロッパひとり旅


一息ついて、遠くを見つめよう。

人生の目的、この広大な世界での自分の役割について、深く考えるひとときを持つことの重要性を感じた。

私の人生の次なるフェーズへと繋がる、約30万円という予算で計画された「30日間の節約ヨーロッパ探索旅行」。手頃な値段の復路航空券とフランスの鉄道パスを手に、未知の地へと旅立った。その旅路は、ミシェランの地図とトーマスクックの時刻表を頼りに、目的地を決定していくものだった。

計画なしの自由な旅は、日々の不安との闘いであり、次に何が起こるかわからない緊張感に満ちていた。しかし、その一方で、道中で出会った息をのむような景色や、地元の人々の暖かい心遣いに触れ、心からの元気をもらった。旅の毎日が、日記に綴るほどの感動的な瞬間となり、私の心を惹きつけた景色はスケッチブックに記録された。南フランスの静かな田舎町では、数百年にわたる時の流れを身近に感じ、大きな河や湖のほとりで穏やかな時間を過ごした。スペインの小さな村では、地中海の冷たさに身を委ね、2500メートル級のアルプス山脈に挑み、自然の厳しさと美しさの両面と向き合った。そして、途中で出会った新しい友人たちは、この旅をより豊かなものにしてくれた。

この旅を通じて、自分らしさを大切にし、日々を豊かに生きるためのさまざまな工夫を知ることができた。私の経験を綴ったこの記録は、いつでも私に力と勇気を与えてくれる。それは、「心配するな。強い意志があれば、どんな夢も叶う」というメッセージを常に私に伝えてくれる。そして、それは新しい人生の章への挑戦を促す、変わらぬファイティングスピリットとなっている。

2004年6月の旅は、私にとってただの旅行ではなく、自己発見と成長の旅だった。未知への恐れを乗り越え、新たな地平を目指す勇気を得た。この記録は、未来への道標となり、私の心の中でいつまでも輝き続けるだろう。中村陽子のこのエッセイは、時間が経過しても色褪せることのない、価値ある人生の一片を刻んでいる。

6月9日「空港のトラブルと新たな旅立ち: 一人で挑むヨーロッパ冒険」

前夜は夜更けまで忙しく動いていた。一ヶ月の長旅に出るために、家を留守にしても問題ないように、細かな準備に追われたのだ。荷造りを終え、疲れ果ててベッドに倒れ込むと、あっという間に夜が明けていた。朝6時、ほんのわずかな睡眠を終え、予約していたタクシーで空港へと向かう。長い間念願だった海外旅行の出発日が、ついにやって来た。案内人もいない自分だけの冒険に、心は期待でいっぱいだが、同時に緊張で引き締まってもいた。

空港でのチェックインは、予想外の問題から始まった。日本特有の小型ガスボンベがセキュリティチェックで引っかかってしまったのだ。この旅では節約を心掛けていたため、携帯コンロは必需品。しかし、この小型ボンベがなければ、コンロを持って行く意味がない。ヨーロッパで一般的な大型ボンベは、その重さとサイズが問題である。一時は「ガスを抜いて空の缶だけ持って行くならどうか」と提案したが、係員は困惑しながらも規則を説明してくれた。「申し訳ありませんが、安全規則上、ガスボンベの搭載は許可できません」とのこと。周囲にはチェックインを待つ人々が列をなしており、焦りが増すばかりだった。しかし、このコンロはヨーロッパでの食事を自炊する上で不可欠なアイテム。ボンベなしでは旅行の計画に支障をきたす。

結局、空港の外でガスを抜いて缶だけとして持ち込むことになった。急いで外に出て、ガスを安全に抜き、再びチェックインの列に戻る。まるで時計の秒針が早送りされているかのような急ぎ足で、心臓はドキドキしていた。しかし、何とか無事に搭乗することができた。

乗り継ぎ空港のソウルに着いた時、30日後の帰国チケットを持つ自分が、この長い旅の始まりに立っているという実感が湧いてきた。帰れない旅、その重さに一瞬、息が詰まりそうになった。パリへはまだ10時間のフライトが残っている。「どんな場所に、どんな人に出会うのか、全ては未知数。だからこそ、旅に出るのだ」と自分に言い聞かせ、不安を振り払った。これまでの勤務生活で積み重ねたストレス、時には更年期の影響で感じるパニック症状に打ち勝つための旅でもある。旅路の中で時折訪れる不安との闘いは続くが、毎回「負けない」と自分に言い聞かせた。

飛行機が離陸してからしばらくすると、赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。しかし、ある瞬間、その泣き声がピタリと止んだ。振り返ると、スチュワーデスが赤ちゃんを優しく抱きしめ、機内を歩いている姿が見えた。赤ちゃんは彼女の温もりに安心しているかのように見えた。この光景は、他者への純粋な優しさが如何に心を温めるかを教えてくれた。その瞬間、私の心の不安もどこかへ消えていった。

この旅の記録は、2004年の夏に、一人の中年女性が体験した冒険の物語である。準備の段階から始まり、未知の地への出発、そして旅の中での大小さまざまな試練と発見。それぞれが、私の人生における大切な一ページとして記憶されていく。

6月10日「パリ郊外でのサプライズ: 夜のホテル探しとドネルケバブ」

PM6:00シャルルドゴール空港に着いた。疲れていたけれども、荷物をしっかり持ち気を引き締めた。案内表示に目を懲らした。パリ北駅行きを探した。切符を買うのも初めてだから、かなり時間はかかった。時刻も遅いことだし、北駅付近は大きい町なので、今からホテルを探す自信はない。ホテル代も高そうだ。迷った末、二つ手前の小さそうな町Bourgetに泊まることにした。

知らない駅に降りた。不安だけれどとにかく歩いた。降りてみたら、活気のある町でたくさんの小さなファーストフードの店があり、労働後のおじさんたちでいっぱいだった。通りを黙々と歩いてホテルを探した。勇気を出して入った最初のホテルは満室だった。がっかりして次へ向かって歩いていたら、咳が出て吐きそうになった。緊張と車の排気ガスのせいかと思う。夜8時過ぎだし、今日泊まるところはまだ決まっていない。やけくそだ。通りすがりのおばちゃんに「Je chercher hotel.」とあやしいフランス語で聞いてみた。おばちゃんは、親切に通りの向こうを指さして「ああ○○ね。(ホテルの名前らしい)ここをもうちょっと行くとあるよ。こっちだよ。こっちだからね。」(たぶんそう言った)と言うから、お礼を言ってそちらへ向かった。見つけた。そこは三つ星のホテルで65ユーロだ。仕方がない。もう遅いし、はじめから安宿を探すのはあきらめて、そこへ落ち着いた。

シャワーを浴びて、10時頃食べ物を探しに外に出た。愛想なしだが人のよいおじさんのドネルケバブ(大きなパニーニの中に削いだ羊のローストと野菜とフライドポテトが山ほど入っていてチリソースとサワークリームの味付け)は、とてもおいしかった。

ちょっと蒸し暑かったけれどシーツにくるまって眠った。時々目が覚めてまた不安になった。行き当たりばったりの旅で心配だったから、一晩心地よく眠らせてくれたその部屋に感謝した。

6月10日 パリ郊外Bourget…宿65€ Kiriod

6月11日「パリの日常と非日常:ケチケチ旅行の冒険」

時差ボケをほとんど感じずに、新しい一日が幕を開けた。ホテルの窓から望んだあの壮大なロケットの正体については、謎のままLe Bourgetと別れを告げた。10日間自由にフランスを旅できるレールパスは、まさにこの旅の強力な味方だった。チケット売り場で並ぶことなく、直接電車に乗り込むことができるのは、何とも言えない快適さである。
パリの北駅に到着し、まずは情報センターを探し始めた。周りにはすでにいくつかの列ができており、私もその一つに加わった。ドキドキしながら自分の番を待ち、「30~40ユーロで泊まれる部屋を探しています」とメモ用紙に書かれた文を見せた。インフォメーションのスタッフは、少し無理そうな表情を浮かべながらも、「54ユーロならありますよ」と、熱心に地図を広げて説明してくれた。現在地から行き方を丁寧に示してくれる。後ろに待っている人たちもいるが、スタッフは一人一人に丁寧に時間をかけて対応しているのが印象的だった。この場所での時間の流れと人々の急かさない態度に、ふと感心してしまった。結局、提示された54ユーロのホテルに妥協し、少し自信を失いつつもそのホテルへと足を運んだ。
地下鉄の回数券であるカルネを購入し、Corentin Cariou駅で下車。そこから歩いていくと、Canal de l'Ourcqの近くに位置する、非常に魅力的なホテルにたどり着いた。
その場所がいかに素晴らしいかを後に痛感することになった。運河沿いに広がる公園、その中に佇む現代的な建物や球体の映画館が、東京のお台場を思わせるような雰囲気を醸し出していた。旅の疲れを癒し、これからの計画を練るのに、3日間ここに滞在することに決めた。
ホテルに落ち着いたのは午前中。少し休息を取った後、両替と買い物のため外出した。ワイン、アプリコット、洋梨、トマト、チーズ、パン、サラミ、オリーブといった品々を少量ずつ購入。量り売りで価格も手頃、買い物がとてもしやすかったことに感心した。果物が豊富な時期に訪れることができ、本当に良かったと心から思った。パリの夜10時頃にやっと日が沈む中での、遅い夕食は手作りサンドイッチであり、それがまた一層の喜びを加えてくれた。
この3日間のパリ滞在は、宿泊費が予想以上に高くついたものの、その価値は十分にあった。心地よいホテル、周辺の美しい景色、そして自分で準備した食事は、このケチケチ旅行を特別なものに変えてくれた。2004年6月11日から13日までのパリでの日々は、旅の記録に新たな色彩を加えてくれた。

ホテルメモ
6/11~13 Paris …宿54€ Ibis

マルシェで初めてのお買い物:赤ワイン、チーズ、アプリコット、ニンジン、ヤングコーン、ラディッシュ

6月12日「セーヌ河畔でのピクニック:新鮮な味わい」

朝5時、夜明けと共に目を覚ました。運河の水面が朝日に照らされてキラキラと輝き、その美しさにしばし見とれた。本当に息を呑むほどの美しさで、心から美しいと感じた。これからの二日間の滞在先がすでに決まっている安心感からか、非常に平穏な気持ちで一日を迎えることができた。

朝食は、バゲットに切り込みを入れて、トマト、フロマージュ(チーズ)、オリーブ、サラミを挟んで楽しんだ。そして、旅の相棒である携帯コンロで湯を沸かし、淹れたてのコーヒーを一杯。このコンロがあればどこでも自分の手で温かい食事や飲み物を作れることに、再び感謝した。

今日の目的地はムフタール市場。昨晩、パリの地図を広げてじっくりと計画を練った。Corentin Cariou駅から地下鉄に乗り、Censier Daubenton駅で降りた。駅から市場へはわずか1分。マルシェ(市場)に到着するやいなや、色とりどりの新鮮な野菜や海産物が目に飛び込んできた。日本の市場も味わい深いが、こちらの市場はさらに色鮮やかで華やか。赤や黄色、緑といった野菜たちがお互いを引き立てるようにディスプレイされており、見るだけで食欲をそそられる。市場の人々のセンスと技術には、まるで芸術家のようだと感心させられた。

坂を登り、パンテオンへ向かった。フランス革命で亡くなった人々を祀るこの場所は、何とも言えず胸が痛む。パンテオンを後にする際には、そこで眠る人々の冥福を祈り、しばらく目を閉じて手を合わせた。

ノートルダム寺院に向かう途中、もう一つの市場に出会った。ムフタール市場に比べるとやや価格が安いように感じた。マイナーな市場ほど、節約旅行には味方してくれる。

歩き疲れたので、ノートルダム寺院近くでドネルケバブを購入し、セーヌ河沿いのベンチで食事をした。市場で手に入れたラディッシュにマヨネーズをつけて食べたところ、その新鮮さとシンプルさが絶妙で、体が喜ぶ美味しさだった。安さに釣られて買ったが、結果的には大正解。しばらくはラディッシュが我が家のテーブルを飾りそうだ。

遊覧船がゆっくりとセーヌ河を行き交うのを眺めながら、この旅の贅沢な一時を満喫した。

帰路、ホテルの近くのパン屋さんで、翌日の朝食用にバゲットとクロワッサンを購入。この日の歩き回った疲れが一気に襲ってきて、夕食を食べずにそのままベッドに倒れ込んだら、朝までぐっすりと眠ってしまった。旅の疲れを癒す深い眠りは、また次の日への活力を与えてくれる。2004年の夏、パリでの日々は、記憶に新たな彩りを加えてくれた。

6月13日「セーヌ河畔でのピクニック:新鮮な味わい」

朝の光が部屋を優しく照らす中、ゆったりとした朝食を楽しんだ。バゲットにはチーズ、サラミ、オリーブ、そしてマヨネーズを添えて、先日市場で手に入れた新鮮なラディッシュも挟んでみた。さらに、温かい卵スープを作り、香り高いコーヒーも淹れた。この朝のひととき、まるで神様への感謝の祈りのようだった。

9時半を過ぎ、一日の計画を立てようと思いつつ、ふと窓外に目をやると、空の買い物袋を持った人々が行き交っているのが見えた。よくよく観察してみると、彼らの反対方向からは、野菜や果物でいっぱいのかごや袋を手にした人たちが戻ってくる。この光景から、近くに市場があることに気づいた。しかも、歩いてすぐの距離に。

人々の流れを追ってゆっくり歩いてみると、案の定、昨日訪れた市場とはまた違う新たなマルシェが目の前に広がっていた。この市場はさらに活気に満ちており、果物や野菜が山積みにされて売られていた。興奮しながら市場を一周し、ネクタリンを1キロ購入。その値段は日本のそれと比べて格段に安く、少し得意気になった。周りを観察し、情報を得ることの重要性を改めて感じた。

市場の後は川沿いを散策し、やがて広い近代的な公園へと続いていた。川岸には並んだベンチがあり、そこに腰を下ろして、久しぶりに風景画を描き始めた。時間を忘れるほど没頭し、何年ぶりかでこんなふうに風景を眺めながら絵筆を動かす至福の時間を味わった。周りの景色、穏やかな時間がゆっくりと流れていく。

昼食は、自分で作った特製サンドイッチと温かいコーヒーを楽しんだ。この時もう一つの旅の相棒、保温機能付きの小型水筒が大活躍。日本から持参して本当によかった。

この日一日は、パリでの滞在中、心からリラックスし、自分自身と向き合う時間を持つことができた。市場での発見、川沿いの散歩、公園での絵画、そして静かな昼食。全てが2004年の夏、フランスでの旅の貴重な思い出として心に刻まれた。日々の忙しなさから離れ、自分の内面と対話する時間を持てたことは、この旅の最大の贈り物だった。

パリの運河沿いで久しぶりに風景を描いてみた

6月14日「ジャンヌダルクに会いに:オルレアンへの旅」

フランスの朝はいつも特別なものだ。この日も例外ではなく、SNCFの列車に乗り込み、オルレアンを目指す。心の中では、勇敢なるジャンヌ・ダルクに会いに行くという一種の使命感が芽生えていた。彼女の伝説に触れ、その勇気と愛に満ちた精神を自分のものにできればと願いながら。

列車の窓から見える景色は、まるで北海道のよう。果てしなく広がる麦畑と、時折現れる小さな集落。それぞれの集落には、高くそびえる教会の塔が見える。赤茶けた屋根と白い壁、そして窓辺や庭には色とりどりの花々が。ヨーロッパ特有の石造りの家々が、長い歴史を物語るように、堂々としていた。新しい家を次々と建てるのではなく、長年にわたって大切にされてきた家々には、先人たちの知恵と物語が詰まっているに違いない。

しかし、オルレアンに着いたとき、私は少し途方に暮れた。インフォメーションセンターが閉まっていて、どこに行けばいいのか分からなかった。それでも、ふとした瞬間に、ジャンヌ・ダルクの銅像がある広場に辿り着いた。馬に跨り、剣を振りかざすジャンヌ・ダルクの像を前にして、何か大きな力をもらえるような気がして、黙ってその姿を見上げた。そこに立つだけで、彼女の強い意志と勇気が伝わってきたようだった。

今日の宿をまだ見つけていない現実に戻り、荷物を引きずりながら再び歩き始めた。ロワール河の静けさと、遠くに見える石の橋や古城跡の美しさに少し心を落ち着けてから、再び宿探しの旅に出た。

ダウンタウンを歩き、いくつかのホテルを見つけた中で、「Hotel de Paris

」に足を踏み入れた。フランス語で空き部屋の有無を尋ね、提示された27ユーロという価格には驚いた。しかし、部屋を実際に見せてもらうことにした。廊下の暗さ、壁紙のはがれ、ギシギシと音を立てる床。それでも、シャワーと奇跡的にバスタブがあること、トイレが廊下にあるものの鍵がかかることを確認し、2泊することに決めた。

初めての☆なしホテルでの宿泊は、少々古びてはいるものの、シンプルで愛らしいと感じた。夜間のトイレ使用は少し心配だったが、誰もいないことを確認してから、まるで忍者のようにそっと廊下を渡った。

この旅は、単なる観光旅行以上のものだった。ジャンヌ・ダルクの不屈の精神を肌で感じ、フランスの田園風景の美しさに触れ、そして人生のささやかな冒険を味わった。オルレアンで過ごした時間は、勇気と冒険の精神を改めて私の心に灯した。

ホテルメモ
6月14日~15日 オルレアン「Hotel de Paris」…宿27€

オルレアンのノートルダム寺院(ノートルダム・ド・レクリュ)は、フランスのオルレアンに位置する壮麗なゴシック建築のカトリック教会です。見事なステンドグラスや彫刻が施され、地域の宗教的中心地として重要な役割を果たしています。

6月15日「オルレアンでのホームシックな朝」

その朝は、遠く離れた家族のことを思うと、どうしても心が落ち着かなかった。部屋の中にいると、ホームシックの感情は一層強まるばかり。もしかすると、この旅の緊張が私の想像以上に大きいのかもしれない。涙が勝手に溢れ出し、一人きりの部屋で、その感情にただただ押しつぶされそうになっていた。

しかし、そんな状況から逃れるように、重い腰を上げて外に出た。ふと見つけたホテルの近くの手芸屋が、心の救いとなった。店内に足を踏み入れると、店主のおじさんが温かい笑顔で迎えてくれた。彼の優しい雰囲気が、少しずつ私の心を解きほぐしてくれるようだった。店内にはビーズで作られた繊細な花が展示されており、その美しさに思わず「Tres joli.(とてもきれい!)」と声を上げた。おじさんはその反応を喜び、更に他の作品を見せてくれた。特に印象的だったのは、奥様へ贈られたというビーズで作った花嫁のブーケ。その物語と美しさに感動した。

結局、おじさんとの交流を通じて、友人へのお土産にぴったりのチョーカーとブレスレットを購入した。友人がこれを見たときの喜びを想像すると、私自身も幸せな気持ちに包まれた。店を出るときには、おじさんに心からの感謝を伝え、「Au revoir(さようなら)」と笑顔で別れを告げることができた。その一件で、気持ちに大きな変化が訪れ、再び前を向いて歩き出せる力を得た。

その後、ジャンヌ・ダルク広場近くの大聖堂の横にあるベンチに座り、絵を描くことにした。集中して絵に没頭するうちに、徐々に心が落ち着いてきた。時間はかかったが、持参した温かい紅茶とサンドウィッチの昼食を楽しみながら、絵を仕上げることができた。絵を描くという単純な行為が、私にとってどれほど心を癒してくれるかを再認識した瞬間だった。

この旅での経験は、私に多くのことを教えてくれた。一時的なホームシックや不安もあったが、それを乗り越えた先には、新たな発見と成長が待っていることを。人との温かい交流や、創造的な活動が心を豊かにすることを改めて実感した。2004年の夏、フランスのオルレアンで過ごした時間は、私の人生における大切な一ページとして、いつまでも記憶に残るだろう。

広々とした小麦畑に感動して路傍の花と一緒にスケッチする

6月16日「地図との格闘:目的地への道のり」

旅の始まりは、レンタカーの予約から。友人と前夜にかけた苦労が実り、計画通りに出発することができた。私たちの目的は、ロワール河沿いに点在する、古の息吹を感じさせる古城群を訪れること。未知の地での運転、地図との格闘、そして遺跡への憧れ。これまで経験したことのない一連の出来事は、不安でいっぱいだったが、同時に見たい、触れたいという情熱が、私たちを勇気づけ、前進させる力となった。

Michelinの地図を頼りに、「D951」などの国道や県道を辿りながら、表示板に一喜一憂する日々。何度も道を間違えながらも、その都度立ち止まり、方向を定め直す。目的地への固執を捨て、どこかに辿り着けばそこが今日の宿という、流れに身を任せる旅のスタイルを楽しんだ。視界一面に広がる麦畑が、旅の静かな伴侶となってくれた。

そして、127の橋が架かる運河の町、Montargisに到着。運河に浮かぶ花を積んだ小舟が、この場所特有の穏やかな空気を醸し出していた。ここで、私は時間を忘れ、運河沿いの風景を描き始めた。筆を動かすうちに心は穏やかになり、旅の疲れが癒されていくのを感じた。

しかし、古城訪問の夢はまだ叶わず、小さな町に足を踏み入れる。夕暮れが近づく中、宿探しの旅が始まった。見つからない不安の中、たどり着いた写真屋のご夫婦は、私たちの窮状を見かねて、心を尽くして助けてくれた。彼らの親切に感謝して、折り紙で作った鶴と風船をプレゼント。その小さな交流が、旅の記憶に新たな光を加えた。

結局、BriareのPon canal近くのホテルに落ち着いた。ホテルのレストランで味わったレバーソーセージの煮込みは、この旅での最高のご馳走となった。お任せコースとワインの飲み放題で、その日の疲れを癒やした。

この数日間の冒険は、予期せぬ出会いと経験に満ちていた。初めての地での運転、古城を目指した旅、そして温かい人々との出会い。全てが私にとってかけがえのない宝物となり、心の中に深く刻まれた。ホームシックを乗り越え、未知の土地で出会ったすべてに感謝しながら、私は再び旅立つ勇気を胸に秘めている。

6/16~18 Briare …宿32 Hotel de Midi

127の橋が架かる運河の町、Montargisを流れる川にはお花が飾られた小舟が浮かんでいる

6月17日「ロワール河沿いでのんびりと過ごす時間」

その日は、まるで特別な贈り物のような晴天だった。朝から気持ちはわくわくしていて、ロワール河沿いの芝生が広がる公園へと足を運んだ。そこは、日常の喧騒から少し離れ、自然と対話できるような場所だ。歩いている人々は皆、慌ただしさを忘れ、のんびりとその瞬間を楽しんでいるように見えた。クルーザーから降り立った観光客も、Pon canalの風光明媚な景色をゆっくりと堪能していた。

公園の一角には、時間を忘れてベンチに座り込む老人の姿があった。彼の静けさに引き込まれるように、私もベンチに腰を下ろし、ただぼんやりと周囲を眺めた。そこには時間の流れを感じさせない、どこか別世界のような静寂が広がっていた。

ロワール河沿いに広がるこの公園は、様々な果樹が植えられていて、特にリンゴやブラックチェリーの大木が印象的だった。子供たちが木の下で実を拾い、木に登っては届かない実に手を伸ばす姿は、何とも言えず微笑ましかった。彼らが去った後、私もブラックチェリーの実に挑戦したが、高くそびえる木にはとうてい手が届かない。未練がましく実を見つめるうちに、時間だけが過ぎていった。

そんな穏やかな時間の中で、私はサンドウィッチを作り、絵を描き、ハガキを書き、友人とはドミノを楽しんだ。移動の予定もなく、宿も確保していたからこそ、心からリラックスしてその瞬間を満喫できた。

夜は、Pon canalを再び訪れた。ライトアップされた運河の美しさは、昼間とはまた異なる魅力があった。涼しい風と虫の声が、夜の訪れを告げていた。
そして、夕食には久しぶりに日本から持参した米を炊いた。キャンプファイヤーのように炊く米は一筋縄ではいかず、焦げ付かせずにちょうど良い硬さで炊き上げるには、少しのコツが必要だった。しかし、その日は奇跡的にうまくいき、インスタントの味噌汁とふりかけを添えて食べると、これまでにない満足感に包まれた。お腹が満たされると、その日一日の疲れが一気に出て、深い眠りに落ちた。

この旅は、単に場所を移動するだけではなく、その地の空気を感じ、時には何もせずに過ごすことの大切さを教えてくれた。ロワール河沿いの公園で過ごした時間は、私にとってかけがえのない宝物となった。

6月18日「フランス田舎道の冒険:ポン運河からクーロンへ」

Pon canalを後にし、私たちはレンタカーで新たな冒険に向かった。目的地はCoullons。友人と前日に苦労して計画したこの旅は、オルレアンに帰る途中で古城の美しさに触れるというものだった。広がる小麦畑を横目に見ながら、高い並木道を突き進んだ。一見、終わりのない旅路。時おり、遠くに小さな町や教会の塔が見え、それが唯一の変化となった。しかし、地図上の道路番号が見つからず、私たちはしばしば道に迷った。方向感覚を失い、心細い気持ちになることもあったが、太陽の位置を頼りに、なんとか正しい道へと戻ることができた。

奇跡的にCoullonsに到着し、カフェで一息ついた後、時間の遅れを取り戻すため予定を変更し、オルレアンへ向けてハイウェイを走った。それは、いつもとは異なる旅の展開だったが、その瞬間瞬間を楽しむことに意味があった。

オルレアンの町で起きた出来事は、私たちの友情を試すようなものだった。友人とはぐれ、心配と不安でいっぱいになりながらも、彼女が無事に戻ってきた時の安堵感は言葉にできない。車を返し、オステリッツ駅へ向かう列車の中での出来事は、この旅の中でも特に心に残るものとなった。

隣に座った三歳の男の子とその母親。母親は眠りにつき、男の子は退屈そうにしていた。私が折り紙で風船と鶴を作ると、彼の興味は一気にそちらへ。風船をサイコロに見立て、すごろくを始める彼の発想には驚かされた。その遊びを通じて、彼から「Merci beaucoup」という言葉を聞いた時、私の心は大きな喜びで満たされた。列車がパリに到着するときの別れは、言葉少ないながらも深い絆を感じさせるものだった。

夜行列車での南フランスへの旅は、バカンスシーズンの真っただ中。予想以上に列車は寒く、体を縮こませながらの一夜だったが、それでも目的地へと進む列車の中で感じる旅の興奮は何物にも代えがたい。炭酸飲料を手にした時の自由さ、日本では考えられないような解放感を味わった。

この旅は、単なる移動から得られるものではなく、途中で出会う人々、体験する小さな冒険が私たちの心を豊かにしてくれる。オルレアンからオステリッツ駅、そして南フランスへと続く旅路は、私の人生において忘れられない貴重な時間となった。

6月19日「フランス、あいさつが紡ぐ絆」

早朝のNarbonneナルボンヌで列車から降り立った時、夜通しの旅の疲れとともに冷たい風が体を包んだ。夜行列車のシートはそれなりに快適だったが、やはり体は凝り固まっていた。駅近くのカフェで身を寄せながら、Carcassonneカルカッソンヌへの次なる列車を待った。トーマスクックの時刻表でしっかりとチェックしていたおかげで、心は穏やかだった。
カルカッソンヌに思いを馳せると、わくわくするような、しかし同時に神聖な気持ちになった。2000年の歴史を持つ古城が今にも目の前に現れるような気がして、心が引き締まる。駅近くで見つけた小さなホテルは、一泊27ユーロという破格の値段に内心喜びを隠せなかった。チェックインを済ませ、荷物を置くと、駅前の運河沿いを散歩することにした。ここはまだ見ぬ世界、探索の喜びに胸が膨らむ。
散歩道で見かけたクルージングボート。デッキで朝食を楽しむ夫婦の姿が、とても穏やかでうらやましく思えた。その平和な光景は、この街の日常の一コマを垣間見せてくれるようだった。
しばらく歩いて、老朽化したベンチに腰を下ろしたところ、地元の人から親切な言葉をかけられる。フランスのあいさつ文化にすっかり慣れ、心からの「Merci.」を伝えることができた。その一言が、私とこの街の人々との間に温かなつながりを作り出してくれた。
メイン通りに足を運ぶと、賑やかな店々が並ぶ。ファッショングッズ、家具、生活用品と、目移りするほどの品揃え。ウィンドウショッピングを楽しみながら、この街の魅力を一つ一つ吸収していった。
そして、広場で開かれていたマルシェには、色とりどりの果物や野菜、パンやハムソーセージなど、生活に根ざした品々が並んでいた。特に、ブラックチェリーの安さには驚き、思わずたくさん購入してしまった。その瞬間、小さな幸せが手の中にあるような気がして、心が満たされた。
夕方になり、ホテルへ戻ると、夜行列車での疲れがどっと出て、そのまま深い眠りに落ちた。カルカッソンヌでの日々は、予想もしなかった出来事と出会いに満ち、私の心に深く刻まれた。この街で感じた人々の温かさ、歴史の息吹、そして日々の生活の一コマは、旅を通じて得たかけがえのない宝物となった。

6/18~22 Carcassonne hotel Astoria 27€ ※18日は 夜行列車

6月20日「カルカッソンヌ、心を動かす旅」

今日の朝は、曇り空の下で迎えた。心に決めていた、クロワッサンとカフェオレでの朝食を楽しみに、昨日マルシェで賑わっていた広場へと足を運んだ。しかし、日曜日の静けさは、ほとんどの店を閉ざしていて、私の予想とは異なった。それでも、洋菓子が美しく並べられたショーウィンドウに引き寄せられるように、一つのカフェに足を踏み入れることにした。

カフェのらせん階段を上がると南フランスを感じさせる素敵な店内

外の席に座り、待ちわびたクロワッサンとカフェオレを前にした瞬間、突然の雨が降り出した。途方に暮れかけたその時、店主が親切にも二階へと案内してくれた。らせん階段を上がり辿り着いたその部屋は、予想をはるかに超える素晴らしいインテリアに囲まれており、その空間の中で朝食を取ることは、まるで夢のようなひと時だった。雨音をBGMに、その部屋の絵を描きながら、この瞬間を永遠に記憶に留めたいと願った。

雨が上がり、気持ち新たにCite(シテ)へと向かった。世界遺産のその場所は、想像以上に多くの観光客で溢れかえっていた。その中で、レストランや土産物店が軒を連ねる賑やかなエリアを避け、城壁に沿って静かな場所を選んで歩いた。そこはまるで時間が止まったかのような静けさで、一心不乱に城壁の絵を描いた。

アミューズメントパークではなく、2000年以上の歴史を実感する城壁を目の前にするとまるでタイムスリップしたかのような感覚

城壁から見下ろす景色は圧巻だった。茶煉瓦と白壁の家々が、まるで米粒のように広がっている。その間には緑豊かな風景が広がり、背後には優雅に連なる山々が見えた。ここから吹く風は、2000年前からこの地を見守り続けてきたのだろうか。その思いに胸が熱くなり、感動の涙が溢れた。遠くから訪れたこのカルカッソンヌでの経験は、私の人生において忘れられない宝物となった。この美しい町と、それを守り続ける人々、そして自然の営みすべてに、心からの感謝を捧げたい。この地で感じたすべてが、私の心に深く刻まれ、これからも長く温かい記憶として残り続けるだろう。

カルカッソンヌの旧市街citeにある古城の城壁から眺める景色を見ていると不思議と涙が出た

6月21日「カルカッソンヌの魔法に包まれた日々」

日曜日の静けさが街を包み込んでいた。旅の中で自炊するのも一つの楽しみだから、スーパーで食材を選ぶ時はいつもワクワクする。特に、この地のワインが1リットルたったの0.9ユーロ(約120円)という価格には驚かされる。レストランでの食事も良いが、自分で調理することで旅の生活が一層色濃くなり、日々の小さな発見や工夫が連続することに喜びを感じる。

翌日は素晴らしい晴天に恵まれたが、レンタサイクルが休業日でサイクリングの計画は流れた。しかし、そんな時こそ予定を変更してみるのも旅の醍醐味。Citeへの散歩を再び楽しんだ。昨日迷っていたお土産の石鹸を、今日こそはという思いで選びに行った。

石鹸屋では、様々な香りが空気を満たしていて、ローズとラベンダーの香りに決めるまでには少し戸惑った。しかし、これらの石鹸がカルカッソンヌの記憶をいつまでも色鮮やかに保ってくれるだろうと信じている。その他にも絵葉書やチョーカーを選び、小さな幸せを胸にCiteを後にした。

その後の予定はあったものの、石鹸選びに心を奪われた後、美味しいサンドウィッチを味わったら、不意に訪れた眠気に負けてしまった。朝からの動き回りが疲れを誘ったのだろう。ホテルへ戻り、絵を描くこともせずにぐっすりと眠りについた。

目が覚めたのは午後6時。スーパー「Mono prix」で夕食の買い物を済ませた後は、生ハム入りのサンドウィッチを夕食に。チーズやビールもリーズナブルな価格で、旅の小さな幸せを再び感じる。街では夜に向けてライブの準備が進んでおり、カフェからは賑やかな音楽が流れていた。

夕方になり、運河沿いを歩きながら、以前心に残ったベンチの絵を描いた。この場所にまた来ることを心に誓い、カルカッソンヌでの日々を胸に刻み込んだ。この街で過ごした時間は、私にとってかけがえのない宝物となり、いつまでも心温まる思い出として残るだろう。

カルカッソンヌの街中を流れる運河沿いの壊れかけたベンチに腰掛けると、とても心安らいだ。

6月22日「スペインリゾート地Llancaでの発見」

早朝、まだ街が静寂に包まれている中で目覚めた。今日は物価の安いスペインへと向かうため、経費を節約するリサーチの日だ。カルカッソンヌからPort bouへと向かう列車に乗るため、暗いうちから起き出して駅へと急いだ。Port bouは、フランスからスペインに入る際に最初に迎える駅で、今まさに新たな土地への期待で胸が膨らんでいた。

列車の中は、バカンスを楽しむ学生や家族連れで満員だった。大きな荷物を持ち、リラックスした服装で旅の準備をする人たちを見ていると、旅のワクワク感が増す。窓の外には、郷里を思わせる地中海の景色が広がっていた。絶壁の上に建つ、スペインらしい茶煉瓦と白壁の家々の風景には、しばし見とれてしまった。

Port bou駅に到着した時、空は曇っていて、空気は温かく少し湿っていた。駅のインフォメーションが開かず、海岸沿いのカフェで待機することに。しかし、この寂しい街での滞在に少し迷いが生じ、Llancaへと向かうことに決めた。Llancaへの道中、地中海が広がる景色と、静かな雰囲気の中で、このリゾート地に滞在することが突然とても魅力的に思えてきた。近くのホテルを見つけ、次の5日間の宿泊を確保することができ、ほっと一息ついた。

地中海を望む小さな漁村Llanca(ジャンシャ)

カルカッソンヌへの帰路では、方向を誤ってしまい、予想外の長旅となった。Cerbereでの乗り換え、そしてNarbonneを経て、カルカッソンヌへと戻る途中、ピレネー山脈の雄大な景色とブドウ畑、そして遠くに見える地中海の美しさに心を奪われた。

長い一日の締めくくりには、レストランでの食事を楽しんだ。メニューが理解できないまま、おまかせで注文した結果、お腹いっぱいになりすぎてしまったが、それもまた旅の一つの思い出となった。この日一日の経験は、計画とは異なるかもしれないが、予期せぬ発見や冒険が旅の醍醐味であることを改めて実感させてくれた。スペインでの5日間が待ち遠しく、新たな発見に胸を躍らせている。

6月23日「スペインのジャンシャでの楽しい5日間」

朝のゆったりとした時間を楽しんだ後、今日はLlancaへの出発が控えていた。バカンスを満喫するため、水着やキャミソール、そしてビーチサンダルを新調することに。予期せず訪れることになった暑い地への準備は、思いのほか楽しいものだった。ビーチの美しい光景を頭に描きながら、これからの日々にわくわくした。

買い物を済ませ、予定通りに列車に乗り込んだ瞬間、すべてが計画通りに進んでいるという安心感に包まれた。移動はスムーズで、あっという間にLlancaの地に足を踏み入れた。

ホテルへ到着し、昨日の素敵なウェイター兼レストラン経営者のお兄さんに迎えられたとき、この旅がさらに特別なものになる予感に胸を膨らませた。彼の家族との会話は、身振り手振りや少しの英語、そしてスペイン語での数え歌で成り立っていたが、それがまたこの旅の醍醐味となった。特に「オラ!」の一言は、様々な場面で役立つ万能の表現として、私のスペインでのコミュニケーションを支えてくれた。

滞在初日は、レストランでのシエスタと、太陽が照りつける中での海岸散歩を楽しんだ。海沿いの店での買い物や、地元の人との温かな交流は、言葉の壁を越えて心を通わせることができることを改めて教えてくれた。特に、バルバラとアンナマリアとの出会いは、この旅の中での宝物となった。

夕方、レストランでパエリアを堪能し、その日の締めくくりとしてお兄さんのレストランでの働きぶりを眺めながら、地元の人々の暮らしに少しだけ触れることができた。彼らの日常に溶け込むことができた幸せと、新しい場所での新たな発見は、この旅を忘れられないものにした。

この5日間のLlancaでの滞在は、日々の小さな発見と、人々との出会いが詰まった、まさに冒険のような時間だった。そして、それぞれの日々が終わるごとに訪れた夜の静けさは、次の日への期待を育ててくれた。Llancaで過ごした時間は、私の人生に新たな色を加え、旅の記憶を豊かにしてくれた。

6/23~27 Llanca hostale Llanca 26€ 最終日は車中泊

6月24日「地中海の静寂:入り江を巡る一日の旅」

曇り空のもと、リュックを背負い新しい一日の散策を始めた。地中海沿いの入り江を目指し、ゆっくりと歩き出す。道々、ちょこちょこと買い物を楽しみながら、目的地へと向かった。約1時間後、目的の入り江に到着し、そこで時間を忘れるほど海を眺めた。「これこそが地中海の魅力なんだ」と心でつぶやきながら、周囲を見渡す。各入り江には、日差しを浴びながらリラックスする人々の姿が。彼らは海水浴、ヨット、ウィンドサーフィンなど、さまざまな水辺の楽しみに興じていた。水は冷たく感じられ、岩場と砂浜が交互に広がる景色は、まさに絵画のようだった。そんな光景を背景に絵を描き、水筒のコーヒーを味わいながら、のんびりとした時間を過ごした。海辺で見つけた貝殻やシーグラスを集めるのも楽しい一時だ。そして、再びホテルへの帰路についた。

まだバカンスシーズンではないため、ビーチではのんびりと日光浴する


午後はスペインの文化、シエスタを満喫。この休息時間は身体にとって非常に重要なものであり、日本にもこんな習慣があれば素敵だろうと思った。
夕方になると、涼やかな風が吹き、鳥のさえずりが心地よいBGMを奏でていた。フランスでも耳にしたことのあるその声は、ここスペインではまるで「トルティーヤ」と囁いているようだった。おしゃべり好きなその鳥は、黒く、どんな名前なのだろうと思案する。彼らの声は、この地への愛着を一層深めてくれた。

隣接するガソリンスタンドとコンビニから、冷えたセルベッソを買い込み、ホテルのテラスで夕食を楽しんだ。その日のメニューは、特製サラダ。たっぷりの野菜、チーズ、トマト、生ハム、オリーブ、そしてゆで卵を堪能。そして、地中海沿いの散歩で拾った岩塩を調味料として使うのは、この場所ならではの贅沢だ。

このような日々は、私にとってかけがえのない時間となった。地中海の自然、地元の人々の暮らし、そしてスペインの文化に深く触れることができた。それぞれの瞬間が、私の旅の記憶に新たな色を加えてくれた。

6月25日「地中海デビュー」

朝の涼やかな風がテラスを包む中、朝食をとる。クロワッサン、卵スープ、そして温かいコーヒー。単純な作業にも関わらず、食事の準備が一日の始まりに豊かさをもたらす。サンドイッチを作りながら、この旅の小さな楽しみに心が弾む。何処で食べようか、どんな風景を眺めながらか、想像するだけでわくわくする。

今日はビーチへ。新しい水着、リュックに詰めた手作りサンドイッチ、水筒、そして太陽に挑むための帽子とサンダルを装備。準備は完璧。子供のような心躍る気持ちで、バルバラの店を通り過ぎる。彼女の暖かい「オラ!」が、旅の小さな交流の楽しさを思い出させる。彼女の存在がこの場所をより特別なものにしてくれる。

ビーチに到着し、炎天下の熱さを避けて岩陰に退避。地中海の冷たさが一瞬たりとも恐れを感じさせるが、挑戦の後の充実感は何物にも代えがたい。波と戯れ、自然と一体になる喜びを噛みしめる。

昼下がり、ホテルでのシエスタは旅の疲れを癒やし、夕食後の星空と虫の声は、日々の喧騒を忘れさせる。夜の静寂と自然の美しさが、心に深く刻まれる。

Llancaは、その美しいビーチ、クリアな水、そして風光明媚な景色で知られている。静かな漁村から発展したこの町は、訪れる人々に地中海の魅力を存分に感じさせてくれる。海岸線に沿って点在する小さな入り江や、野生の美しさを保つビーチが特徴で、水中スポーツやハイキング、自然との触れ合いを求める旅人にとって理想的な場所だ。また、地元のレストランでは新鮮な海の幸を楽しむことができ、スペイン料理の豊かさと細やかな味わいを体験できる。Llancaの穏やかな雰囲気と美しい景色は、訪れる人々の心に深い印象を残し、忘れがたい思い出を作り出してくれる。

地中海に広がる湾内では、ヨットやカヌーに乗って楽しんでいる人たちをぼんやり眺めた

6月26日「崖の小道」

朝の涼しい風がテラスを優しく包み込み、私はそこで朝食を楽しんだ。メニューはシンプルだが、心温まるものだった。卵スープ、ふわふわのクロワッサン、そして香り高いコーヒー。単純ながらも、この朝の儀式が一日の始まりに豊かさを与えてくれる。さらに、この日のために用意した手作りのサンドイッチは、どこでどんな景色を眺めながら食べようかと考えるだけで、心が躍る。

今日の目的地はビーチだ。新しく購入した水着に身を包み、サンドイッチと水筒を詰めたリュックを背負い、さらには太陽から守るための帽子とサンダルを装着して出発した。準備は万端。まるで、子どもの頃、夏休みにプールに行く日のようにワクワクしている。通り過ぎるバルバラの店で彼女と挨拶を交わし、その瞬間から旅の新たな交流が始まった。彼女の明るい「オラ!」が、この地での小さな出会いの楽しさを再び思い出させてくれた。

ビーチに到着すると、まずは炎天下の熱さから逃れるために岩陰に避難。地中海の冷たさは、一歩踏み出す勇気を必要とするが、その冷たさを乗り越えた時の達成感は格別だ。海と戯れ、自然との一体感を味わう時間は、何物にも代えがたい。

昼下がりには、ホテルでのシエスタ。そして夕食を終えると、夜空には半月が輝き、星々がきらめく。虫の声が夜の静けさを一層深める。こうして過ごす夜は、日々の喧騒から離れ、自然の美しさに心を寄せる貴重な時間となる。

Llancaの観光情報を添えて、この小さな海辺の町が提供する豊かな自然、美しいビーチ、そして静寂な時間は、訪れるすべての人にとって忘れがたい体験となるだろう。地中海の青い海、温かな太陽、そして心地よい風が、日々の生活に新たな息吹をもたらしてくれる。この地での経験は、一生の宝物となり、心の中に深く刻まれることだろう。

6月27日「大好きなLlancaへ」

朝、まだ薄暗い空の下で目覚めたのは4時頃。しかし、再び眠りにつき、目を覚ましたのは10時。遠くから聞こえてくる教会の鐘の音が、この町の時を刻んでいた。その規則正しい鐘の音に導かれるように、一日が静かに始まった。
ゆったりとした朝食の後、私は再びビーチへと向かった。今日は昨日とは異なる方向、より静かな入江を求めて歩き出した。そこで見つけた大木の下は、まるで自分だけの隠れ家のよう。綿のシュラフを広げ、その涼やかな木陰に身を委ねた。
途中で購入したシュノーケルは、私に新たな勇気を与えてくれた。今までの冷たさを気にすることなく、水中の世界へと誘う魔法のアイテムのようだった。色とりどりの魚たちと共に泳ぎ、海の静寂と美しさに心を奪われた。
木陰での休息は、海辺で遊ぶ家族を見守る穏やかな時間になった。彼らの楽しそうな姿を眺めながら、自然の一部としてここにいる幸せを感じた。そして、夕暮れ時、ゆっくりとその場を後にした。
最後の夜、初めて訪れたカフェで冷たいセルベッソを傾けながら、過ごした日々を振り返った。この5日間の思い出を絵に残しながら、この場所への深い感謝の気持ちを抱いた。明日ここを離れると思うと寂しさがこみ上げてくるが、いつか再びこの美しい土地を訪れることを心に誓った。
Llancaは、その壮大な自然美と穏やかな海辺の生活で知られる、訪れる者を魅了するスペインの宝石だ。美しいビーチ、透明な海水、そして歴史ある小道や建物は、この地を訪れるすべての人に特別な体験を提供する。シュノーケリング、ハイキング、ゆったりとしたカフェでのひと時は、日常から離れた静けさと平和を求める人々にとって理想的な選択肢となるだろう。ここLlancaで過ごす時間は、心に残る美しい思い出となり、また訪れたくなる魅力に満ちている。

6月28日「言葉の壁を越えて」

Llancaを離れる日がとうとうやってきた。この地に足を踏み入れて以来、いつも暖かく迎えてくれたアンナマリアとバルバラに別れを告げに行く時間だ。彼女たちの経営する小さな店は、色とりどりの衣類やアクセサリーでいっぱい。この出会いが、Llancaを私にとって忘れがたい場所にした。

言葉の壁はあったものの、私たちは心を通わせることができた。フランス語や片言の日本語、そして身振り手振りでの会話。それでも、笑顔と共感で繋がることができた。一緒に過ごした時間は、互いの文化への理解を深め、かけがえのないものとなった。前夜に準備したイラストとメッセージが入ったカード、そして折り紙で作った鶴と風船を渡したとき、二人の喜びようは忘れられない。バルバラからのほっぺたへのキス、アンナマリアとの母のような会話。そして、アンナマリアが私にプレゼントしてくれたYのイニシャルが入った手作りの指輪。その優しさに心が震えた。感謝のキスを交わし、涙が溢れた。お互いに抱きしめ合いながら、深い感謝と別れの言葉を交わした。

「Merci beaucoup. A bientot.」ありがとう、そしてまた会おう。Llancaでの日々は、私の心に深く刻まれた。アンナマリアとバルバラとの出会い、共有した時間、そしてこの美しい地中海の町の魅力。すべてが貴重な宝物となり、再び訪れるその日まで心の中に残る。

Llancaの静かなビーチ、透明な水、そして風光明媚な景色は、訪れるすべての人を魅了する。ここは、自然と触れ合い、日常を忘れさせてくれる場所。水中スポーツからハイキングまで、アウトドア活動に理想的な環境が整っている。また、地元のレストランでは新鮮な海の幸とスペイン料理の真髄を味わうことができる。この穏やかな町と温かい人々との出会いは、訪れた人々にとって忘れがたい思い出となるだろう。Llancaの日々は、いつまでも私の心に残り続ける。

6月29日「Llancaでの強烈な印象」

Llancaの別れが胸に重く、セレベレ行きの列車に揺られながら、次なる目的地への道をたどる。重い荷物を背負い、長い待ち時間にうんざりしつつも、Strasbourgへの夜行列車を予約する。待ち時間は退屈で、肩の痛みや疲れが身に染みる。しかし、駅近くの地下道を抜けた瞬間、意外にも広がる海岸の景色に心が躍る。少しの間、ベンチで休みながら、やがて訪れる快適な寝台車での移動を心待ちにする。
夜行列車は、見知らぬ人との共同生活に少し戸惑いながらも、体を伸ばしての移動は格別の快適さを提供してくれた。列車での移動は、この節約旅行にとって大きな味方であることを再認識する。
Strasbourgに到着し、早速ホテルを探す。観光地らしい高級ホテルの並ぶ中、小さな屋根裏部屋があるアットホームなホテルに決定。この部屋が次の二日間の拠点となる。
街を歩くと、プティフランスの美しい風景に心奪われる。運河沿いの古い建物、カラフルな花々、通り過ぎる観光船。水位を調整する門の仕組みに興味津々で、その瞬間を待つ観光客の期待感が感じられる。
サン=トマ教会でのパイプオルガンの演奏には、心からの感動を覚える。音楽が直接心に語りかけてくるようで、涙が自然とあふれ出る。演奏者に会うことは叶わなかったが、その音楽の力に深く感謝する。
教会で買った絵はがきを持ち、受付の女性に感謝の言葉を伝える。彼女の優しい笑顔が、再びこの地を訪れることへの期待を膨らませる。
夜はプチフランスでの賑わいを離れ、静かな通りでケバブを味わいながら、Strasbourgの夜を楽しむ。こうして過ごした日々は、再び旅立つその時まで、私の心に残り続けるだろう。
Llancaの青い海と温かい人々、Strasbourgの歴史的な美しさと音楽、これらすべてがこの旅を豊かなものにしてくれた。再び訪れる日まで、心に刻まれた思い出として大切にする。

Strasbourgを散歩しているとパイプオルガンの練習をしている教会でしばらくその美しい音色に心満たされた。

6月30日「贅沢なひととき」

朝の10時、サン=トマ教会を目指して歩き出す。運が良ければ、また無料で生演奏に触れられる。今回はトランペットとパイプオルガンのデュオ。CDでしか聞いたことない組み合わせだから、生で聴ける喜びは格別だった。
教会の荘厳な響きに包まれながら、その美しい内部をスケッチ。音楽とアートが融合する瞬間は、この旅のハイライト。
サンドウィッチ屋へ向かう道すがら、目に飛び込んできたマルシェ。空腹も忘れて色とりどりの品々に目を奪われる。美しいスカーフと甘酸っぱいチェリーを手に入れ、また一つ旅の思い出が増えた。
公園の芝生で昼食を取る。手にしたカマンベールチーズ入りサンドウィッチは、シンプルながらも深い満足感を与えてくれる。明日もまた、同じ味を楽しむことを心に決めた。
石けんを求めての冒険も旅の一部。どこを探しても見つからず、やっとの思いで見つけたのは、意図していたものとは異なるバイオレットの香り。でも、その香りに包まれ眠りにつく夜は、旅の疲れを癒やしてくれた。
ストラスブールの観光情報を添えて。この街は、歴史と現代が交差する魅力的な場所。特にプティフランス地区は、その風光明媚な運河と並木道、色とりどりの家々が旅人を魅了する。サン=トマ教会のような歴史的建造物から、マルシェでの地元の味覚探し、公園でののんびりとした時間まで、ストラスブールは多様な魅力を提供する。さらに、街を流れる運河でのクルーズは、この街の美しさを異なる角度から楽しむことができる。美食の街としても知られ、アルザス地方の伝統料理やフランス料理を堪能できる。ストラスブールは、歴史と現代が織りなす独特の魅力に満ちた都市であり、訪れるすべての人に忘れられない思い出を提供する。

7月1日「Offenburgはいいところだ!」

早朝、スペインの暖かさから一転して肌寒い風が吹くOffenburgへと足を踏み入れた。この変わりゆく気候が、旅の移り変わりを象徴しているようだ。日本を離れてからの日々を振り返りながら、サン=トマ教会へと足を運ぶ。この静けさの中で、今までの旅路に感謝の気持ちを捧げる。ドイツのこの街で、新たな章が始まる。

Offenburgに到着し、待ち合わせの時間までに市内を散策することに。地元の小さなホテルで荷物を預け、サンドウィッチと温かいコーヒーを手に街の探索を開始した。列車旅の疲れを癒やすこの小さな休息は、旅の醍醐味の一つ。通りを歩きながら、Offenburgの静かで整然とした街並みに心が和む。

滞在先のホテル(民宿)は、少し予算を超えるかもしれないが、その価値はある。美しい家具に囲まれ、清潔感あふれるシーツ、そして暖かみのある接客。この街での滞在を心地よくしてくれる要素が詰まっている。

Offenburgの魅力を探るべく、散歩コースとビアガーデンを巡る。湖への道のりは遠く、足を進めるごとに新しい発見がある。湖では、地元の子供たちが遊び、生活が息づいている様子を感じ取ることができた。こうして自然の中で過ごす時間は、旅の思い出に新たな一ページを加える。

最終日は、ドイツの伝統料理、ビールとソーセージを楽しむ。言葉の壁に少し苦労しながらも、その努力が美味しい食事につながった。この街の人々の親切さに感謝しつつ、折り紙の鶴を置いてきた。Offenburgでの日々は、新たな出会いと発見に満ち、心に深く刻まれる旅となった。

Offenburg、この美しいドイツの街は、中世の街並みが残る魅力的な場所。歴史ある建築物とモダンな生活が調和し、訪れる人々を魅了します。市内では、古い教会や博物館の探訪、さらには周辺の自然を楽しむハイキングコースなど、多彩なアクティビティが楽しめます。また、ビアガーデンでの一杯や地元料理の味わいは、旅の疲れを癒やし、地元の文化に触れる機会を提供してくれます。Offenburgは、ゆっくりと時間を過ごし、ドイツの豊かな文化と歴史を感じ取ることができる、旅行者にとって見逃せない宝石のような街です。

7月2日「幻のお酒」

Offenburgの街角、少し肌寒い風が吹き抜ける中、昨日のスペインの日差しを思い出しながら、ポストオフィスへ絵はがきを投函した。散歩には最適なコースが多いものの、天候が心配で今日は探検を控え、近場をうろうろ。目当てのスーパーを見つけることができずに少しフラストレーションを感じつつ、ふと目に入ったのは、ソーセージとオニオンソテーを挟んだサンドウィッチを頬張る少年。その一口が今すぐ欲しいと思ったが、異国の中で直接尋ねるのは躊躇われ、遠くからその屋台を見つけることに成功。モチモチのパンと甘いオニオン、パリッとしたソーセージの組み合わせは、これまで味わったことのない美味しさだった。
雨模様の午後は部屋でのんびり過ごし、夕方には昨晩訪れたレストランへ。昨夜折った鶴がカウンターに飾られていて、もう一羽加えることに。店の母が推薦するサラダは、新鮮な野菜と豊富な具材で満足感が高かった。そしてコーヒーと共に出されたシュナップスは、初めての味わいに驚かされる。名前を手帳に記してもらい、小さなボトルを手に入れることができ、心から感謝した。
この旅のOffenburgでの経験は、小さな出会いや新しい味わい、そして静かな散歩道が織り成す、忘れられない記憶となった。Offenburgは、その穏やかな街並み、味わい深い料理、そして親しみやすい人々によって、旅人にとって温かい場所となるだろう。この街の散策路、ビアガーデン、そして湖への道は、訪れるすべての人にとっての発見となる。ドイツでのソーセージとシュナップスの組み合わせは、また別の旅の楽しみを教えてくれた。Offenburgの魅力は、これからも多くの旅人の心に残り続けるだろう。

7月3日「ドイツからスイスへ」

旅の終盤に差し掛かり、残り一週間というところで、私はスイスのMorgesを訪れることに決めた。これまでの旅は予測不可能な出来事が満載で、思い返すと本当に充実していた。Morgesへは、まずストラスブールに戻り、そこからバーゼルを経由して向かう計画を立てていた。
出発の朝、お母さんとの別れを告げると、まるで私を見送るかのように、街はマルシェで賑わっていた。土曜日だということをすっかり忘れていた私は、荷物を引きずりながらも、店の一つ一つに目を奪われた。特に、前日にも目を留めていたクラフトの店には、自分だけでなく母にも見せたい素晴らしい作品がたくさんあった。結局、荷物の重さを気にしつつも、日本へ無事に持ち帰れるようにと3点購入した。
ストラスブールに戻り、バーゼル行きの列車を探すが見当たらず、Bale行きの列車を発見。少し迷ったが、最終的に乗り込むことにした。隣の席の女性に確認すると、BaselとBaleは同じ場所を指しているとのことで、安心して笑顔を返した。
バーゼルで予定していたジュネーブ行きを見逃し、次の列車を待つことに。スイスに入国して最初の大きな駅であるバーゼルで1時間待ち、その後Morgesに向けて出発。Morgesに到着したのは午後5時41分、レマン湖を目指して歩き始めた。
湖のほとりには息を呑むような景色が広がっており、モンブランが幻想的に見えた。ここで見つけた湖畔のホテルは高価だったが、「旅の締めくくりにふさわしい」と思い直し、そこに泊まることに決めた。価格は180スイスフランと高かったものの、節約してきたおかげで、この特別な瞬間を心から楽しむことができた。
【補足情報:スイスのMorges】 Morgesはスイス西部に位置する美しい街で、レマン湖のほとりに広がっている。特に春には、湖畔のチューリップが咲き誇り、訪れる人々を魅了する。歴史的な建造物や美術館もあり、街歩きを楽しむのに最適。湖ではボートや水上スポーツを楽しむことができ、穏やかな湖の風景と山々の美しい景色を背景に、リラックスした時間を過ごすことができる。Morgesはスイスでの静かで平和な滞在を望む旅行者にとって、理想的な場所である。

レマン湖沿いの町Morgesの近くにはオードリーヘップバーンのお墓がある。

7月4日「アルプスの麓へ」

朝、モンブランが遠くに輝き、シャンペンを口にして一日がスタート。レマン湖では、帆船が風に乗り、港はマストでいっぱい。そこで見た、孫を連れたおじいさんの姿が心に残った。スイスの物価の高さを考え、今日中にシャモニに向かうことに。モルジュからマルティニまでの電車で、たまたま隣になった日本人夫婦と盛り上がり、後ろの席からは横浜に住んでいた黒人の家族も交わって、車内は和やかな雰囲気に。

宿泊したホテルのテラスからは次に目指す街にそびえるモンブランの姿も見える

マルティニからシャモニへの登山列車は、まるで絶叫マシンのよう。約1時間半の間、谷底を見下ろしながら断崖絶壁を登り、アルプスの雪景色を堪能した。

シャモニに到着すると、観光客で賑わい、晴天の下、アルプスの絶景に心が躍った。インフォメーションでホテルをいくつか紹介してもらい、3軒目でようやく宿泊先を決定。部屋からはアルプスが一望でき、木造のきれいな部屋での3日間の滞在が待ち遠しい。

スイスのマルティニからフランスのシャモニへと向かう風光明媚なルートで、スイス連邦鉄道(SBB)とフランス国鉄(SNCF)の協力により運行されており、列車はモンブランエクスプレスと呼ばれている

夕方、翌日訪れる予定のLe lac blancの下調べをしながら散歩。ロープウェイの情報を集め、翌日の計画を立てた。

夜は、日本から持参した米を炊き、旅の終わりが近づいていることを感じつつ、シャモニでの冒険に期待を寄せた。

【シャモニ観光情報】 シャモニは、ヨーロッパアルプスの麓にある観光地で、登山、ハイキング、スキーなどアウトドア活動のメッカ。特に、モンブランへのアクセスポイントとして知られ、世界中から冒険好きが集まる。街は山岳ガイドや登山用品の店、レストランやカフェで賑わい、アルプスの大自然を満喫できる。また、Aiguille du Midiへのケーブルカーは、海抜3842メートルの頂に立ち、モンブランをはじめとする雄大なアルプスのパノラマが楽しめる。さらに、Mer de GlaceやLe lac blancなど、自然の美しさに触れられるスポットが豊富にあり、どの季節に訪れてもその魅力を存分に味わうことができる。

7月5日「困難に負けない気力」

早朝、Le lac blancへの挑戦を開始した。標高の高さと潜在的なリスクを念頭に置きつつも、装備は最低限に抑えた。ウィンドブレーカーとスニーカーのみでの登山は、高所や閉所が苦手な自分にとっては一種の挑戦だった。昨夜はパニックに近い状態で、下痢や息苦しさに悩まされたが、それでも心の奥底で湧き上がる湖を見たいという強い願望が、体調を立て直すエネルギーとなった。持ち物の中で工夫した防寒対策や、チョコレート、ビスケットなどの非常食、そして弁当や温かいコーヒーを準備し、よれよれになった帽子を深くかぶり出発した。道中で以前から欲しかった携帯用ストックを購入。これがまさに救世主となり、一日中支えてくれた。Chamonixから最初の停留所であるle prazまでは電車で移動し、そこからロープウェイに乗り、一気に900m上昇した後、石がゴロゴロとする急斜面を登り、2358m地点のLe lac blancを目指した。途中、数回の休憩を挟みながら、足場の良い場所でコーヒーを楽しんだ。登山途中で15分ほど絵を描く時間も取った。しかし、頂上付近に近づくにつれて天気が急変し、本降りの雨に見舞われた。目的地はまだ見えず、どこまで登れば良いのか分からない中、他の登山客たちと一緒に湖を目指して黙々と進んだ。標高が上がるにつれて呼吸も苦しくなり、雨で濡れたウィンドブレーカーは冷え切っていた。


寒さに凍えながらも自然の雄大さに言葉を失った


Le lac blancが遂に視界に入った時の感動は言葉では表せない。美しい青い湖と雪の白が見事に調和していたが、強い雨により山小屋カフェに避難するしかなかった。小屋の中は満員で、やっとの思いで席を確保し、弁当を食べながら他の登山客と無言の交流を楽しんだ。下山は雨と雷を伴い、途中で少し冒険心をくすぐる岩場を通過することにした。最初は小さな石ころに見えたものが、実際には高さ2~3mの巨大な岩だった。進むしかないと覚悟を決め、慎重に岩から岩へと進んだ。この道のりをクリアした時の達成感は、これまでの苦労をすべて忘れさせるほどだった。山を後にする際には、小さく「バイバイ」と呟き、思わず涙がこぼれた。この未曾有の登山体験から受け取ったメッセージは、人生の山あり谷ありを乗り越える力を自分にも与えてくれたように感じた。

フランスアルプスの氷河を目の前にして自分という小さな存在をあらためて実感する

【補足情報:フランスのLe lac blanc】
Le lac blancはフランス、アルプス山脈のChamonix地域にある美しい湖で、標高2352mに位置する。夏から秋にかけての登山シーズンには多くのハイカーが訪れ、壮大な山々のパノラマビューと透明度の高い湖の美しさを堪能できる。特に、周囲の雪を頂いた山々とのコントラストが美しい。登山ルートには複数のパスがあり、各々が異なる自然の美しさを提供している。Le lac blancへの道中は、野生動物の観察やアルプス特有の花々を楽しむことができ、自然愛好家にとってはまさに楽園のような場所である。

7月6日「強い思いは叶う」

今朝、モンブランを目指す登山の準備に取り掛かった。プラムとリンゴを半分に切り、昨晩の残り物で朝食を済ませて出かけることにした。

ナイフの専門店に立ち寄った際、旅のお供にぴったりのマイナイフを求めた。店員とのやり取りの中で、名前を彫ってもらえることがわかり、予定外にも店のオーナーが現れて、その場で名前を彫ってくれた。この小さなナイフに名前を入れる瞬間は、まるで映画のワンシーンのような感動があった。
目指したモンブランへのケーブルカーは、まだ運行前であることを知り、計画を変更して反対側の山、プラン・プラからル・ブレヴァンへ向かうことにした。途中、雲に覆われて一時中断し、その間に昼食を取った。

ル・ブレヴァンの頂上はまだ夏とは程遠い寒さだった


ル・ブレヴァンの頂上に到着すると、強風と冷たさに見舞われ、谷底を見下ろすと足がすくむほどの恐怖を感じた。そんな中、山小屋で温かいココアを飲みながら体を温め、一息ついた。

下山途中、向かいのモンブラン側に見える滝に惹かれ、その方向へと歩き出した。長い探索の末、氷河水が作り出す透明な川を発見し、その冷たさと美しさに感動した。

この日の経験は、自然の力と美しさ、そして小さな冒険の喜びを改めて教えてくれた。シャモニーのロープウェイは、ただの交通手段ではなく、この地の壮大な景色を間近に体感できる貴重な機会を提供してくれる。各ロープウェイが繋ぐ地点では、異なる角度からアルプスの絶景を楽しむことができ、特にモンブランを望むルートは、訪れる全ての人に忘れられない思い出を残してくれるだろう。

【シャモニー観光情報】
シャモニーのロープウェイは、フランス・アルプスの心を感じることができる絶好の観光スポット。特に、モンブランへのアクセスに欠かせないエギーユ・デュ・ミディや、ブレヴァン山へのルートが有名。エギーユ・デュ・ミディのロープウェイは、シャモニーから3842メートルの高さまで一気に登り、ヨーロッパで最も高い地点へのアクセスを提供している。そこからは、モンブランの壮大な全景と周囲の山々のパノラマを360度で見渡すことができる。また、ブレヴァン山へのロープウェイは、標高2525メートルの山頂からシャモニー渓谷や対岸のモンブランを望むことができ、ハイキングやパラグライダーの拠点としても人気がある。冬にはスキーやスノーボード、夏にはハイキングやマウンテンバイクなど、季節を問わずに楽しめるアクティビティが満載。シャモニーを訪れたら、是非ロープウェイでアルプスの大自然を満喫してみては?

7月7日「氷河の滝」

今日は、ふと気づけば七夕。シャモニーからパリへの帰途につく。夜空の星は、オステリッツ行きの寝台列車の窓から眺めることになりそうだ。朝食を味わいながら、これからの荷造りを思案する。旅の終わりに差し掛かり、荷物を整理する時が来た。

夜行列車に乗るため、急ぐ必要はない。駅に着く適当な時間を選んで出発。ヨーロッパとの別れが近づき、最後のアプリコットを購入。旬の果実は甘く、旅の途中での楽しみだった。リュックには常に何かしらの果物が入っている。旅の間、季節ごとの果実を味わい尽くした。
シャモニーを発つ前に、サン・ジェルヴェ発の夜行列車の寝台を予約。フランスレールパスも最後の一回を残すのみ。シャルルドゴール空港への道のりに使う予定だ。

サン・ジェルヴェでの長い待ち時間。テロ対策で閉鎖されたコインロッカーには頼れず、荷物を引きずりながらの散歩となった。途中、公園を見つけ、そこで一息ついた。曇り空から晴れ間がのぞき、短い仮眠をとる。
公園を奥まで探索した後、氷河水が流れる川辺で休憩。時間を気にせず、お茶を楽しんだ。川を遡って行く人たちに続き、ついには氷河の滝を発見。長い間、求めていた光景に遭遇でき、感動した。

夕方になり、駅へと戻る。列車を待つ間、カフェで過ごした時間は、旅の終わりを惜しむ静かなひと時だった。

【補足情報:パリの観光情報】
パリ、愛の都市は、世界中から訪れる旅行者を魅了し続ける。エッフェル塔、ルーブル美術館、ノートルダム大聖堂など、数えきれないほどの名所、美術館がこの街には点在している。セーヌ川沿いを散歩するのも、パリの魅力を感じる一つの方法。カフェで過ごす時間は、パリジャンの日常を垣間見ることができる貴重な体験。また、モンマルトルの丘からの景色は、パリを一望できる絶好のスポット。パリは、歴史、文化、芸術、そして美食の都として、訪れる人々に忘れがたい思い出を提供してくれる。

7月8日「オルセー美術館・ドネルケバブ」

オステリッツ駅には朝の6時、まだ空には半月が浮かんでいた。ホテル探しはまだ早すぎる時間だったので、駅内のカフェで甘いパンとコーヒーを朝食に選んだ。その後、メトロに乗ってパリ東駅(l'Est)へ向かい、そこから北駅へと歩いて行った。北駅までの道のりには急な階段があり、重い荷物を抱えての移動は一苦労だった。

北駅の近くには多くのホテルがあるが、少し怪しい雰囲気もあるのでおすすめはできない。44ユーロで泊まれる場所を見つけ、トイレとシャワーが付いているが、テレビのチャンネルは変えられない状態だった。

最後の両替をするためにオペラ座まで行ったところ、50ユーロを両替するために長蛇の列に並んだ。そこで日本人の若い女性二人組が大量のユーロを現金に換えているのを目にし、その処理に時間がかかっていた。クレジットカードを利用すれば良いのにと心の中で思いつつ、彼女たちが会社の上司の悪口を大声で話しているのを聞いて、少し恥ずかしさを感じた。

その後、コンコルド広場まで歩き、オルセー美術館でモネやゴッホの作品を鑑賞。若い頃から晩年にかけての作品を比較しながら見ると、人生の中で少しずつ変わっていく彼らの作風を感じ取ることができた。美術館を出た後は足が痛くなり、空腹を感じながらシャンゼリゼを散策した。独立記念日の準備で凱旋門付近は混雑しており、凱旋門を一目見た後、ホテルへと戻った。ドネルケバブを買ってホテルに戻り、一息ついた。

夜になり、静かになると、昨晩の列車の中で外の景色を眺めながら過ごした時間を思い出し、この30日間の旅を振り返った。無事に旅を終えられたこと、素晴らしい景色を見たこと、素敵な出会いがあったこと、新しい友人ができたことに感謝の気持ちでいっぱいになった。そして、ついに明日が帰国の日だ。

7月9日「パリ北駅」エピローグ

心を引き締め、ついにシャルルドゴール空港への道を歩んだ。空港には大韓航空のターミナルCを目指す。列車を降りるのは、シャルルドゴール空港②駅。雨が降っており、空港内でのんびり過ごすのも一興だと考えた。しかし、荷物の預け入れに時間がかかり、結局荷物を抱えたまま5時間以上を過ごすことになった。途中、マクドナルドで軽い昼食をとる。

久しぶりに氷を浮かべたドリンクを口にし、待ち時間の長さに少し落胆しながらも、この一ヶ月の旅をじっくりと振り返る良い機会となった。帰国後は、このように時間を取って過去を思い返すことは難しいだろうと思い、最終的にはこの時間を有意義なものと感じた。そして、いよいよ飛行機の出発時刻が訪れた。

「このフライトが新しい私の始まり」

ヨーロッパとの別れを告げる時が来て、新たな人生の章が始まるような気持ちになった。「また会おう」と心の中でつぶやきながら機内に乗り込んだ。

約10時間のフライトを経て、無事にソウルの仁川国際空港に到着し、一安心した。何のトラブルもなく、もうすぐ家に帰ることができる。これにて長い旅の終わり、そして新たな始まりが待っている。


新たなステージが始まる

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