見出し画像

眠れぬ夜

前回、自己紹介について書いた。

そこで「日記も初日は意気込むが次の日になるとケロッと忘れている」というようなことを書いたのだが、まさしくその言葉通り2ヶ月も書くのを忘れていた。
私の中では2ヶ月も経ってなかったのだ。きっと闇の組織に薬でも盛られていたに違いない。
こんなことを有言実行してしまうとは。できればもっとプラスなことで有言実行したいものである。

といことで自分の中の「書かねばスイッチ」がやっと押された。
今日はなかなか眠れずに苦しんだ、三日ほど前の夜について書こうと思う。


眠い。けれど眠れない、みたいな日があると思う。
三日前の夜がちょうどそんな感じであった。瞼はぴったりと閉じ、意識はあるようなないようなふわふわしている状態。
このまま寝れる…そう思った時、私はあることが気になってしまったのだった。

あれ、私よだれが垂れてないか?

自分の名誉と枕カバーの衛生面のために断じて誓うが、私は普段よだれを垂らすことはない。いつも口はぴっちりと閉じ、大人しく鼻から呼吸のみを行い、抱き枕を抱きしめて可愛らしく眠る。今までの目撃証言から寝返りはびたんびたんと頻繁に行うそうだが、少なくともよだれを垂らしていたと言われたことは今までない。

それが三日前のこの日はなぜかよだれが垂れていた。
私は慌てて口元を拭う。危ないところだった。
しかしその動作で私の眠気は完全に吹き飛んでしまった。とても心地よかったがために心底悔しい。

よだれに敗北した私は、大人しくまた抱き枕を抱きしめ、眠りの波がやってくるのを待つ。

やがてその波が私をさらっていき…


起きた。今度は鼻水である。止まらない。
一体なんなのだ、さっきはよだれ、今度は鼻水。

眠いのと美しくないのが手伝って、私はもう半ギレである。
暗闇の中手探りでティッシュを探し、鼻をかむ。
ゴミ箱がティッシュで溢れていくがどうしようもない。

途中で、鼻をかみすぎて隣で寝ている旦那が起きるのではないかと心配になった。先ほどから鼻をかむと寝言で「ん〜」と合いの手を入れてくるのだ。

ズビビッ ん〜 ズビビビーッッ ん゛ん゛〜
できればもう少し美しくどうにかならんものであろうか。
旦那はアイマスクをしているので表情はわからないが、このままでは起きてしまう危険性がある。

また、私が暮らしているアパートは恐ろしいほど壁が薄い。隣の部屋で戸の開閉をした音でさえも聞こえるし、下の部屋のおじさんが鼻歌を歌っているのも聞こえたことがある。
隣の家の音すら聞こえるのだ。
その家のおじいちゃんが競馬にハマっていて「いけー!させーさせー!!させぇぇぇぇぇ!!!」という声が響き渡り、日によって続く言葉が「やったー!!」か「あ゛あ゛あ゛あ゛」に変わるのである。

きっと我が家の様子もダダ漏れしているだろうが、昼間はまぁ仕方ないじゃないかと開き直って皿を洗いながら私もふんふんと鼻歌をやる。

しかし今は真夜中だ。鼻をかみすぎて隣や下の部屋の住民から苦情が入るんじゃないかと心配になった。
隣の家のおじいちゃんまで起きてしまったらきっと競馬の予想にも影響する。寝不足の頭で考えて選んだ競馬が失敗したらかわいそうである。競馬をやめてしまうかもしれない。

そこでサイレント鼻かみができるか試してみた。
無音で鼻をすっきりさせようという私の優しさの塊のような思いつきである。


試した。無理であった。
第一、思いついたはいいもののどうやるのだろう。
サイレントでやるとなると優しさを伴った鼻かみになる。そんな生やさしい鼻かみでどうにかなるならここまで悩んではいない。もう寝ているはずである。

色々考えたが、シンプルに布団の中で潜って鼻をかむことに落ち着いた。
しかし止まらない。ええい鼻水ごときに負けるものかと鼻をかむ。とりあえず音はこれで少しでも小さくなったのではないかと私は安堵する。気づいたら旦那の合いの手もなくなっていた。

しかし鼻水よ、いいから寝せろ。今何時だと思っているのだ。ふざけんな。
私の祈りが通じたのかようやく止まる気配を見せた。よかった、やっとこれで眠ることができる。


今度こそと抱き枕をそっと抱きしめ、体制を整える。
そして眠りの波を待った。当然口はちゃんと閉じている。さぁどんな夢が見られるのかしら楽しみだわと可愛らしく微笑みを浮かべる。

今度こそ眠りの波が私をさらって……


いかなかった。そんなに甘い体ではなかったのだ。
今度は汗だ。体が暑くて暑くて仕方ない。

なぜこんなにも急に暑さが…発熱か!?と焦ったところで思い至る。布団の中に潜って鼻をかんだ。そりゃ熱気もこもるはずだ。つまりこれは鼻水を止めたことによる副作用のようなものだ。

相変わらず隣では旦那がすやすやとアイマスクをつけ、おててはほっぺの下で眠っている。かたやよだれ、鼻水、汗、とにかく美しくない汁三拍子にまみれれている女。神様はなんと無慈悲なのであろうか。

昼間に意図せず神力の宿ったカエルでも踏んでしまったのだろうか。どこかの誰かがした雨乞いの効果が私にだけあらわれたのであろうか?
「雨乞い、間違ってますよ」と教えてあげたい。きっとその誰かは雨が降らずに困っているし、私もびしょびしょで困っている。喜ぶ人間は誰もいないのだ。

もう、どうしたらいいのだ、お手上げだ。とぷりぷり怒っているであろう神力の宿ったカエルにお祈りを始めた。
昼間はすみませんでした。どうか寝せてください…どうか…どうか……



寝れたのである。
神力の宿ったカエルは心が広い。
カエル様、カエル様、どうにか雨乞いをしていた人にも間違ってたよと教えてあげてください…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?