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上田岳弘作『塔と重力』を読んで

『塔と重力』に出会ったのは小説TRIPPERを読んでいて、そこで『塔と重力』が紹介されていたからです。
村田沙耶香作品を何冊か読んで、男性側からの性や生きることをテーマにした作品を読みたいと思っていました。
アートを思わせるデザインの表紙で、読みたいと思いました。

この本を読み終えた直後から、なんだか気持ち悪くなりました。

『塔と重力』の主人公は男で、阪神淡路大震災の時に生き埋めで死んだある女性を忘れられずにいます。他の女性と肉体的な関係だけで交際しながら、その女性のことを思い出すという日々を送ります。そして最後には、交際していた女性から妊娠していることを告げられ、子供の名前を考える、というストーリーです。

私自身はあまり人間関係が広くなく、『塔と重力』で描かれるような人間関係が実際に世間にどれだけあるのか、正直言って分からないです。でも、なんとなく世の中には、このような人もいるんだろうなと思います。それら不純な関係に対して、嫌悪感を感じました。

『塔と重力』以外にも肉体的な性の関係を描いた本は何冊も読んできました。その際は、この嫌悪感を感じませんでした。なぜ、『塔と重力』では感じたのか。自分でも不思議に思いました。

それはおそらく、『塔と重力』では、男性を寂しさと欲望に支配された生き物として描いているからだ、と思いました。
主人公とその周りの男性の登場人物は、自分や他人の欲望に合わせて、女性を調達するという行為を行います。
主人公の子供を妊娠し、主人公と最終的に結婚する女性は、主人公の欲望に合わせて関係を維持します。さらにその女性は、主人公の過去の女性に対する思いにも共感を示します。
まるで男性は単細胞的で、そして女性も男性の欲望に合わせてインスタントな対応をしています。主人公の悩みは深いものがありますが、描かれている行為全てが薄っぺらいです。

この圧倒的な男女関係、何かを求め続ける男性と、与えることができる女性という構図
後半になって急速に、主人公の交際相手が妊娠するという生理学的な変化、それに合わせて結婚し、子供の名前を考えるという社会的な変化に、私は腹が立ちました。
私は上田岳弘先生は、これらの構図とその変化を、どこかバカにしているんだと読み取りました。

村田沙耶香作品では、女性の内面からの矛盾や葛藤が描かれることがあります。上田岳弘作『塔と重力』では、男性視点の人間関係の変化が描かれ、作品から、「お前らはどうせこうなんでしょ。。。」みたいな冷たい視線を感じます。

ちなみに『塔と重力』に収録されている他の短編も面白く、また気味が悪かったです。全体的に自分を含めた人間に絶望する作品です。
色々とマイナスな感情を書きましたが、モヤッとしたい時の読書にはおすすめです。


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