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【書評】落合陽一 - 日本再興戦略(News Picks Book) -

おすすめ度:★★★☆☆
読んでほしい層:10代

本書の主命題として、氏は日本が今後国際社会の中で再び経済成長を遂げるためには何を重要かを説いている。内容は多岐に渡っており、1つ1つのテーマの落合氏の主張は真新しいものではない(彼の主張が平凡という意味ではない。メディア露出が多い為、主張を目にする機会が多い、ということ)。

面白いのは、タイトル通り日本全体に関することにも触れているのだが、最終的には個人が次の時代にどうやって生きるのかについて語っていることだ。落合氏の主張のユニークな部分としては、金融業的な「商」ではなく、生産者・アーティストとしての「農」「工」にフォーカスすることが重要だとはっきり主張していることだろう。これは10年前には世の中にあまり出回っていなかった考え方であるように思えるし、落合が注目を得た理由だと思う。こうした主張を読んでいると、落合氏は研究者気質だなということに改めて気付かされる。

成功した実業家と同列で語られることの多い氏ではあるが、「教育の重要性」「歴史や文化的な背景への経緯と尊重」などは彼らとは大きく異なっていて、氏のポジションを独特なものにしているのではないか。なにより、こうした主張は、サラリーマン(特に非金融勤務者)である読み手としては受け入れやすい。モノを生み出して人々に喜びを与えるという仕事・生き方本来の在り方を問う落合氏の主張は、ある種、読者に回帰的なメッセージおしてノスタルジアを感じさせるのではと思う。

私自身が特に感銘を受けたのは、「東洋思想を学ぶべき」という主張。氏は欧州・米国への無条件追従をやめて、本来我々が持っている「わかりにくいものを頑張って勉強していくことで理解していく(=修行的習得)」ことが重要だと説く。これは本作の終章でも語られている「ポジションをとれ、まず手を動かせ、批評家になるな」という主張。そして「わらしべ長者的な生き方」にも根本で通じるのだと思う。

多くの汎用性の高い業務は自動化によってなくなる。これは恐らくほぼ確実に起こる。だからこそ自分の人生で興味の持ったモノに徹底的にフォーカスし、批評するのではなく自分がポジションを取って何かを生み出す(=農・工として)。その連続を長期に渡って続けることで、自分という個人を市場で特別な存在へと昇華させる、と。

この主張は私たち一般労働者にとって希望となりえるし、特に希望の格差社会と言われる現代の日本の中にいる若者にも刺さる言葉なのではないか。なぜなら、東洋的な修行する期間を長く持てるというメリットは明らかに若者にとって有利であるからだ。

本書を読んで、仕事はもちろん、今趣味でやっていることももっとスピード感をもって範囲を拡大していきながら挑戦していきたいと思わされた。
本書はボリューム的にも内容的にも普段本を読まない方でも読み易い内容に仕上がっている。日本社会を取り巻く全体の話にも言及しているので、「まとめ本」としても機能するように思う。ぜひ10代や20代前半の若い読者に読んでもらいたい一冊である。

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