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【書評】ユニクロ帝国の光と影 - 横田増生著 -

出版当時、UNIQLO側から提訴されたことでも有名な書籍。
当時は日本企業の労働環境への風当たりが強まっていた時期で、その批判の中心にいたのがUNIQLOだったように記憶している。
なんとなく手に取った書籍ではあったが、読んでみると綿密な取材がベースになっており、非常に面白かった。
取り上げるトピックも非常に多角的で、UNIQLOのビジネスモデルから柳井さんの人間性や生い立ちなどルーツに迫るものまで。
非常に網羅性が高く、示唆に富んだ考察が全編に渡り展開される。

タイトルには「光と影」と銘打たれているが、どちらかというと影にフォーカスした内容になっている。
そして、著者は一貫して柳井さんのメディアに対する「言論」と他社(社員スタッフ、工場や役員)に対する「行動」の矛盾点に対して懐疑の目を向ける。

ぜんぶ任せてくれたのがよかったんですよ。あれで親父がぼくのやっている商売に興味を持っていたら、絶対にうまくいってない。自分の好きなようにできたというのがいちばんよかったですね。

自分の好きなように経営をできたことが成功に繋がっていると明言する柳井。しかしその柳井自身は社員には裁量権・自由を与えず現場に介入し続ける。
著者はこの矛盾点を冒頭から結びまで徹底的に指摘し、批判を展開する。

この指摘は昨今の株主至上主義からのステークホルダー・モデルに移行しつつある世の中の流れで考えても、道徳的に正しい指摘であるのは間違いない。
実際にこの書籍や雑誌の記事に対して提訴したファストリ側が全面敗訴していることからも、しっかりとした取材に基づいた事実ベースの内容になっていて、誇張などはそこまでないのだろう。

ただ、同時に頭に浮かぶのが、「柳井のこの矛盾点がなければ、UNIQLOはここまで成功し、巨大化しただろうか?」という疑問だ。
この道徳的・倫理的には許されない、圧倒的な矛盾点にこそ柳井・UNIQLOの強さがあるように感じるのは私だけではないだろう。

これは現在の世の中全体に蔓延っている矛盾だと個人的には感じる。
民主主義の名の下に、自由・平等がすっかり世界全体を覆っているように見える中で、実際に成果を上げ、中心に居座るのは独裁的な権力者非常に多いということだ。
それはトランプ、習近平のような政治家から、GAFAに代表される超巨大IT企業に至るまで、さまざまな分野でみられる傾向だと思う。

嘗てないほど速くなった世界の流れの先頭に立つには、独裁的に素早く、大胆な意思決定をしていくことこそが唯一の生き残る方法であるのかもしれない。
ティール組織に代表されるような非中央集権的なフラットな組織論も同時に台頭してきてはいるが、現時点では独裁的な体制に軍配が上がるのではないだろうか。
この先、2020年以降、世界がどちらに向かうのかは非常に興味深いし、我々個人はその中で自分がどう立ち振る舞うかを考えながら生きていく必要があるのだろう。

・・・

最後に、個人的にはファーストリテイリングとINDITEX(ZARA)のビジネスモデルの比較が非常に興味深かった。両社のビジネスモデルは全く持って似て非なるものだ。
ベーシックなラインを扱うファストリの方が業績はぶれない気がしていたが、全く逆というのは新鮮な驚きだった。

両社の2019年時点の業績も調べてみたが、未だに両社の差は知事待ってない。売上高以上に時価総額の差には驚かされた(と言ってもファストリの時価総額もとんでもない額ではあるが…)。

ファッション業界はサイクルが短く、今後の一手によっては大きく立場が変わってくるかもしれない。
UNIQLOとZARAの動向については今後も注視していこうと思う。

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