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外面がいい夫

前回の続き。
このやりとりがあってから数日後の出来事を書き留めておきたい。

夫は飲み忘れてはいけない薬を飲んでいる。命に関わるお薬。
時々飲み忘れてしまう夫のために、だいぶ前に私が薬ケースを作った。
飲む薬が多いため、市販の薬ケースには収まらないので自作したのだ。

月曜の朝、1週間分まとめて私がセットしている。
実はこの作業ももうやめたいと思っている。
家事をいっさい手伝わないなら自分のことは自分でやってほしい。
面倒なら薬ケースは使わずに、以前のまま自分で管理して飲んでほしい。
いちいち藥袋から一種類ずつ取り出して飲むのと、1週間分を飲みやすくまとめておくのとどっちが面倒かは自分で決めればいい。飲み忘れたってもう私は知らない。
そんな気持ちを抱えながらも、毎週夫に「薬お願い~」と言われたらセットしている。(これがなければやらないつもりだけど、毎週言ってくる)

月曜の朝、いつものようにその薬をセットして渡すと、夫が「ありがとう~」と優しい声で言った。
夫は普段私に感謝することなんてほとんどないけど、こうして稀に優しいありがとうをくれる。

私が夫に対して冷徹になりきれない部分はここだ。
私を家政婦として当たり前に使っていて、大切にされていると感じることはもうないけれど、このときどきくれる優しいイントネーションの「ありがとう」という言葉が、普段の冷たい夫とのギャップに戸惑う原因だ。

1週間ぶりに聞いたその優しい「ありがとう」に、なんともいえない感情が溢れて、つい夫に話しかけてしまった。

「私のこと今はどう思ってるの?」

「どうとは?」

どうとはみたいじゃわからないと言われたので、
「このままの状態でいいはずないよね。でももう話し合いはしたくないっていったよね。ストレスを押し付けるなって」

「うん」

「でもコミュニケーションをとらないと夫婦ってやっていけないよね」

「うん」

「じゃあ離婚するってこと?」

「うん!」
(この「うん」、ひときわ嬉しそうに言う)

「私がこの家から出ていけば良いんですか?」

「うん」

「でも私は子どもたちのことが心配です。私がこの家から出ていった場合、あなたが子どもたちの面倒を見てくれるんですか?」

「面倒はみない。もう大人だから」

「長男はいいとして、次男はこんな状態なのに?」

「うん」

「次男がどうしてこうなっちゃったか、もう忘れちゃったんですか?」

「忘れた」

私、しばし絶句。
すごいね。こんなに冷たい人だとは思わなかった。

少し考えて冷静になってから。
「このあいだ私に、好きなもの買って良い、好きなことしていいっていったよね?それはいいの?」

「うん。好きにすれば」

「へぇ……自由度は高いんだね」

相変わらず夫が何考えてるのかわからない部分が多いけど、夫からの「ありがとう」は、気持ちのこもっていないただのモーションなんだということがわかったし、私がこれまで夫のことを大切にしたいと思ってしていたあれこれを、しなくなっていったことへの罪悪感なんて持たなくていいことがわかって、気持ち的にはすっきりした。

本当は夫がこの家から出ていってほしいくらいだけど、夫名義の家だし、ローンを払ってきたのは夫だし、それはさすがに言えない。
この状況の子どもたちをほったらかして私だけ家を出るという選択肢は私の中にはないから、とりあえず次男が元気になるまでは、このまま家政婦としてこの家で夫と暮らすしかないのだなぁという結論に至った。

夫は「俺の稼いだお金でお前を雇っている」くらいの気持ちだろうから、私もそれにのっかって、好きにさせてもらう。
これまでずっと、夫のため、子どもたちのため、と身を削って頑張ってきた分を取り戻すべく、私はこれから自分のことを大切にして、自分の人生を楽しもうと思う。
そして子どもたちが自立したら、別居なり離婚なりして、夫と距離をおきたい。

夫とのやりとりで、ひとつわかったことがある。
夫は二人きりのときは冷たい言葉を放つけど、子どもたちの前だといい父親を演じているので、話がしやすい。
これからは子どもたちがいるときに、事務連絡や必要事項を話すようにしようと思う。

私は父親みたいな人とだけは絶対一緒にならない、って思っていたはずなのに、気がついてみれば親友すら騙した父の外面と同じくらい、いやそれ以上に見事な外面を持った人と結婚してしまった。
私の人格を否定してくる父が大嫌いだったのに、そんな人と一緒になってしまった。
しかもこんなに長い期間搾取され続け、今頃ようやく気づくなんて。
笑い話だね。

長男も次男も、夫のこんな冷たい部分を知らずにいるってことが猛烈に悔しいけど、両親の醜い喧嘩なんて見せたくないから、そこはこのまま我慢する。それは子どもたちのため。

不登校になった次男が夫にぼこぼこにされ、そのあと夫に恐怖を抱いていた次男に
「もうお父さんは怒ったりしないよ。次男のこと、きちんと理解してくれたから。だから最近怒らないでしょ? もう大丈夫だよ」
なんて、次男に夫のフォローをずっとしてきたことも、今では馬鹿みたいと思ってしまう。おかげで次男は今、普通になんてことない会話を夫とすることができている。
なんで敵のフォローしてるんだろうね、私。
夫は理解したわけじゃなくて、自分の思い通りにならない次男と私に興味がなくなっただけだったのにね。
次男の精神面を考えたらこれで良かったのだろうけど。
とても、とても悔しい。

完全に目が覚めて、逆にすっきりした。
外から見れば何も変わってないだろうけど、私の心の中は180度転換した。
こういう人は、自分の言葉で凹んだり泣いたりするパートナーを見て愉悦に浸るらしいので、私はもう夫の前で沈んだ顔は見せない。
明るく笑って自分の人生楽しんでやるんだ!


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