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旅はアイデンティティになるのだろうか

コロナ前の世界では誰もが旅に行けました。LCCの台頭によりリーズナブルな価格で海外に行けるようになり、大学生は長期休みの度に空を飛び、社会人も有給を取るまでもなく週末にふらっと近場の国へ出かけていました。今となっては大変羨ましい話です。かくいう私も授業が終わるとそのまま大学でシャワーを浴び、羽田のソファで仮眠を取って深夜便で出かけたことも何度かありました。

所得の多寡に関わらず誰もが気軽に海外に行けるようになり、新しいライフスタイルが流行り出しました。それがいわゆる旅をしながら働くフリーランスです。一昔前はノマドと呼ばれていました。フリーランスは会社員ではないのでオフィスもありません。どこで働いても自由です。家やカフェに飽きたフリーランスたちは仕事の場をどんどん広げていき、ついには海外で仕事をするようになりました。タイやベトナムでは2,000円もあれば綺麗でWi-Fi環境の整ったホテルに泊まれます。飛行機代を考慮しても、ろくに帰りもしない都会の狭い1Kに毎月10万円払うより低いコストで刺激に満ち溢れた生活ができるわけです。

こうして拠点を海外に移したフリーランスは、余った時間で自分のライフスタイルを発信するようになりました。好きな時間に起き、日本では800円はするフルーツジュースを近くの屋台で50円で飲む。300円で美味しいランチを楽しみ、海辺のカフェで仕事をし、暇ができたらビーチで遊ぶ。夜は同じように世界を旅するバックパッカーたちとビール片手に踊り語り合い、好きな時間に寝る。日本でサラリーマンをしていても絶対に叶わないライフスタイルをYouTubeやInstagramで発信するようになりました。

そんな彼らの新しいライフスタイルに憧れ、有象無象の旅するフリーランスが生まれました。プログラミングやWebマーケの知識があればPC一つでサラリーマン以上の収入を得ることは決して難しいことではありません。自由を求めて旅をしながら仕事をするのはまさに天職と言えるでしょう。フォロワーを多く獲得した一部のフリーランスはオンラインサロンを開き、「私のように稼いで自由な暮らしがしたいならここで学びないさい」と会員を獲得していきました。

フリーランスに限らず、日常的に旅をする人たちも増えました。趣味は何かと聞かれたら海外旅行と答える人が増えました。予算が限られていても異国情緒を手軽に味わえるのですから、最高に楽しい趣味と言えるでしょう。みんな決まった場所で写真を撮り、決まった料理を食べ、決まった写真をSNSに投稿するようになりました。海外旅行は瞬く間にコモディティ化していきました。

しかしコロナによって状況は大きく変わります。海外を旅していたフリーランスや一般旅行者は余儀なく帰国し、2年が経つ今も再び旅路に着くことは叶っていません。

旅行、特に海外旅行を生きがいにしていた人たちはアイデンティティを奪われました。旅を売りにしていたフリーランスの中には仕事を失う人も現れました。旅をしながら自由な時間・好きな場所で仕事をする自分自身が商品だったのですから、それができなくなればファンは魅力を感じなくなります。旅しながら働くことを夢見た若者たちは、高い会費を失い、それぞれの現実に帰っていきました。

私は旅をアイデンティティにすることは危ういと考えています。なぜなら旅はお金を払えば誰だっていけるものだからです。お金を払えば誰でもできることをアイデンティティにすると、お金を失った瞬間自分のアイデンティティが消失してしまいます。

私が繰り返し主張していることの一つが「生産活動で得られる幸せは消費活動で得られる幸せより大きい」です。旅をすることは消費活動です。お金さえ払えば、誰でも同じ対価が得られます。3,000円払えばホテルのバーでお酒が飲めます。1万円払えばダイビングに行けます。組み合わせは自分次第ですが、詰まるところ旅行は消費活動であり得られる幸せには限界があります。

では旅はどう頑張っても消費活動でしかないのかというと答えはNOです。旅も工夫次第で生産活動になります。先ほど紹介した自身の旅するライフスタイルを紹介するフリーランスはまさに生産活動をしています。美味しいものを食べ、綺麗なホテルに泊まるという活動は、自分が楽しむだけなら消費活動ですが、それを対外的に発信した瞬間、生産活動になります。受信者が魅力を感じるように情報をアレンジして発信することは立派な生産活動です。その生産活動によって生み出されたYouTubeやブログが新しい仕事を読んでくるわけですから、旅行自体が生産活動でもあり投資にもなっています。まさに私の好きな一石三鳥な仕事なわけです。

しかしながら旅行を発信して収益を得られるのはごく一部の限られた人しかいません。ほとんどの人は発信をしようとしても面倒で辞めてしまいます。旅行が消費活動である限り、常に出費が伴います。より良い体験をしたいならさらに課金するしかありません。これ以上課金ができない天井を迎えた人から、アイデンティティとしての旅は終わりを迎えるのです。

旅をアイデンティティ=自分の象徴とするには、他の人にはできない目利きが大切です。誰も知らない場所を見つけたり、コスパのいいレストランを探したりなどなど。誰も知らない=希少価値が高い情報にこそ価値があります。こうした特殊能力は一朝一夕に身につくものではないため、日頃から情報を自分から取りに行く姿勢が大切になります。

旅行が楽しいのは当たり前です。自分が知らない世界を体験するわけですから、誰だって興奮をします。しかしその興奮は支払った金額の対価であり、誰でもお金さえ払えば体験することができます。もちろんそれも素晴らしい体験であることは間違い無いですが、旅そのものをアイデンティティにしてしまうとあまり競合が多く、自分の存在価値を見出せなく恐れがあるため危険です。生産活動で得られる幸せは消費活動で得られる幸せより大きいのです。創作活動を趣味の一つに組み込むことができれば、幸せのバラエティもより増えることでしょう。




最強になるために生きています。大学4年生です。年間400万PVのブログからnoteに移行しました。InstagramもTwitterも毎日更新中!