見出し画像

二郎系ラーメンを食べたくなった未来の僕へ

このnoteを読んでいると言うことは、きっと君は朝から何も食べておらず、猛烈にお腹が空いているに違いない。仕事に追われ、ランチを食べるタイミングを逃し、ちょっと時間ができた15時過ぎ、手っ取り早くお腹を満たせるお店をスマホ片手に探しているのかもしれない。

そして君は気づく。15時を過ぎて、ランチの時間が終わってしまったことに。仕方ない、コンビニで済まそうか。君はすぐ近くにあるセブンに向かおうとする。しかし君はここで思い直す。この空腹はコンビニ飯なんかじゃ収まらない、いや、おさめたくないと。この日は水曜日。1週間のちょうど真ん中だ。残りの木曜日と金曜日を戦い抜くためにも、何か精がつく食べ物にありつきたいと、そう考えるだろう。

そして君は気がつく。時間関係なくいつでも食べられて、精がついて、そしてこの空腹を極限まで満たしてくれる食べ物は、たった一つしかこの世に存在しないことに。

「そうだ、あそこに行こう。」

君が向かう先は、そう、ラーメン屋だ。それもただのラーメン屋ではない。山のように盛られた野菜、巨大なチャーシューの塊、そして太いコシのある麺。これが人間の胃袋の限界を知ってるとは思えないボリュームで器に盛られて出てくる場所。そう、二郎系ラーメンだ。

「あれだ、あれを食べよう。今の僕なら食べられるかもしれない。」

君がそう思ったとき、二郎系ラーメンを、今日こそ食べようと思ったまさにそのとき、どうか一呼吸だけおいてこのnoteを読んで欲しい。このnoteを書いている2020年の僕は、二郎系ラーメンを食べて大変な目に遭った。そしてボロボロの体に鞭打ってこのnoteを、未来の僕に向けて書いている。僕は未来の僕に、どうかこのnoteを読んでもらい、本当に二郎系ラーメンに行くべきなのか、改めて自分に問い直して欲しいんだ。


未来の僕へ。僕は昨日、二郎系ラーメンを食べに行った。昨日は朝から大学の授業が忙しくて、ろくにご飯を食べる暇がなかった。朝ごはんはフルグラで済ませた。当然お昼前にはすっかり空腹だ。授業を聞き流しながら、僕はお昼ご飯に何を作るか考えていた。

何を作るか考えていた?君は疑問に思うかもしれない。未来の僕へ、君はすっかり忘れたかもしれないが、この2020年は新型コロナウイルスっていう厄介な野郎のせいでめちゃめちゃだったんだ。大学の授業は全部オンライン。だから僕はずっと家にいるんだ。貧乏な一人暮らし。当然ご飯は自炊が中心だ。だからこの日も午後の授業の前にサクッと一品作ろうとしてたってわけなんだ。

そこで僕はスーパーに行ったんだが、目当ての鶏胸肉が置いてなかった。なんと今日は特売セールで、お昼になる頃には全部売り切れていたんだ。僕の家の近くにはスーパーが一つしかない。今から別のスーパーに行ったら午後の授業に間に合わなくなってしまう。とは言え菓子パンで済ませるのも不健康だ。仕方ない、授業が終わるまで我慢しよう。僕は結局何も食べずに午後の授業に出たんだ。

そしてやっと終わったのが15時過ぎ。ちょうど君の仕事がひと段落したのと同じ時間だ。せっかく15時まで耐えたんだ、今日はパーっとパンチが効いたご飯をガツンと食べたい。だけどやっぱり15時を過ぎるとランチは終わっている。

「お腹空いたな...今ならなんでも食べられる気がする。そうだ!」

そして僕は自転車をこいで向かったんだ。このあたりで一番人気の、二郎系ラーメンの店へ。僕はこれまで2回ほど二郎系ラーメンに行ったことがある。そして2回とも負けた。ラーメンに負けるとはどういうことか、君はよく分かっているはずだ。僕はお腹が弱い。それもとんでもなく弱い。きっと数年後の君も、まだお腹が弱いままだろう。今まで行った2回とも、大量の油と麺にやられ、半分も食べきれないまま僕はお店を後にした。二郎系ラーメンのお店で食べ残すのは許させることではない。というか全ての飲食店において食べ残してしまうのは失礼だ。そんなことは当然僕だって分かっていた。しかしどうしても最後まで食べきれなかった。そして僕は夜までお腹を壊し続けた。僕の胃は、あのラーメンを消化し切れるほど強靭ではなかったのだ。

あの敗北を忘れたわけじゃない。自転車をこいでいた10分の間、僕は何度も自問した。本当に今日、僕はあれを完食できるのか。そこらへんの牛丼屋で済ませた方がいいんじゃないだろうか。しかし僕はどうしても二郎系ラーメンが食べたかった。これから起こる災難を予測できなかったほど、僕は空腹で何も考えられなかったんだ。

目当てのラーメン屋は15時を過ぎても行列ができていた。ここに来るのは2回目だった。前来たときと同じ無愛想な店員が食券を捌いていく。僕はこの二郎系ラーメン屋独特の無愛想な雰囲気が苦手だ。怒られているような落ち着かない気持ちになってしまう。この日もビクビクしながら順番を待っていた。20分ほど待ってようやく席につけた。そしてあの不思議な言葉「ニンニク、アブラ」をどうにか伝えることができた。僕の言葉にこりともせず無言で作業を続ける店員。やっぱりこの感じは苦手だ。何か悪いことしたのかなと、不安になってしまう。

とはいえ店に充満するラーメンの香りに期待が極限まで高まった。早く、早くあのラーメンが食べたい。二郎系ラーメンだって、今の僕ならきっと完食できるはずだ。

そして出てきた。あの巨大なラーメンが。標準的な大きさの器には野菜がバベルの塔のごとく盛り付けられ、その下にドロッとしたスープとアブラが見える。これだ、これを待っていたんだ。さあ。いざ、尋常に、勝負。

画像1

一口、また一口と、僕は野菜から攻め始めた。そして肉から麺へ。一心不乱にかぶりついていく。この濃厚な旨みがたまらない。これだよこれ、これを求めていたんだ。半日の間、ろくにエネルギーを摂取せずカロリーに飢えていた体が、みるみる満たされていく。いける、今日こそいけるぞ。最後に二郎系ラーメンに挑んだのは、思えば2年も昔の話だった。あれから時は流れ、三度目の正直とばかりに挑んだ今日、僕はついに二郎系ラーメンを完食するのだ。肉に食らいつき、麺を吸い込み、野菜をむさぼる。僕はラーメンに、文字通り獣のように食ってかかったのだ。

しかし、そのときが訪れる。

「あれ......まだ......こんなにある。」

9割は食らったかと器を見ると、なんとまだ半分も残っているではないか。そんなはずはない。持てる力全て出したと言うのに、なぜだ。なぜまだこんなに大量に残っているんだ。思えばこの一瞬が、この数秒の小休止が致命傷だった。ラーメンとの戦いにおいて、大切なのは勢いだ。一度でも箸を止めた瞬間、急に満腹感が押し寄せてくる。自分がどこまで登ったのか、振り返ってこれまでの軌跡を辿るのではなく、常に頂上だけを見て前進しなくてはならいないのだ。下を見るなと言われたのに下を見て高さに足がすくみ動けなくなるように、一度止まった僕の箸は完全に勢いを失ってしまった。

そして思い出したかのように胃が、そして頭が、悲鳴を上げ始めた。急に高カロリーな食べ物を摂取したからだろうか、お腹がギュルギュルと痛くなり始め、頭もキリキリと痛み出した。それでも負けじと箸を進めるも、今度は吐き気が押し寄せてきた。ダメだ、これ以上食べたら確実に吐いてしまう。とてもじゃないがもう一口も食べられない。でも...ここで負けるわけにはいかない。何よりせっかく作ってくれたラーメンを残すのはお店に失礼だ。気力を振り絞り、一口、もう一口と僕はラーメンを口に運んだ。

しかし次の一口を口にしようと瞬間、僕は本能的に箸を置いた。

これ以上先に進むことは、僕の胃袋が許してくれなかった。僕は負けたのだ。2年越しの、二郎系ラーメンとの戦いに。半日ろくに食べなかった空腹を持ってしても、僕は打ち勝てなかったのだ。

器をカウンターに上げ、僕は店員さんに謝罪した。本当に申し訳ありません、と。正直、このお店の無愛想な接客は嫌いだ。しかしこの日に関しては、自分の胃袋の限界を見極められず、せっかく作ってくれたラーメンを無惨に残した僕が全て悪い。

怒られるかな、と一瞬身構えたが、「はいよ。またきてね」と、意外にもあっさりと店員さんは許してくれた。それが唯一の救いだった。

帰り道、自転車を漕ぎながら何度も吐きそうになった。変な汗がとめどなく流れ、全身に悪寒が走った。段差でガタンと自転車が揺れるたびに、胃の中のものを全部ぶちまけそうになった。どうにか帰宅すると、僕は真っ先にベッドに寝転んだ。仰向けに寝ると吐き気がおさまることは長年の胃腸との戦いから心得ていた。その日、僕は吐きこそしなかったが、次の日の朝まで、お腹を壊し続けた。深夜もお腹が痛くて目が覚めた。用を足し、再び戻ったベッドの中で、あの二郎系ラーメンに思いをはせた。とてもじゃないが、あれを完食するのは無理だ。もうこの先、一生行ってはいけない。体は壊すし、何よりお店に失礼だ。そう反省しながら、僕は眠りに落ちたのだった。

きっと君は今、昔の失敗なんて忘れて、今日こそ食ってやろうとラーメン屋に向かっていることだろう。そんなとき、どうかこのnoteを見直してほしい。二郎系ラーメンのボリュームは君がどうこうできるものじゃない。そして君の生まれながらに弱い胃腸は、あの麺と肉と油を消化できるほどたくましくはない。きっと君はまたラーメンを残してしまい、ふらふらになりながら店を後にするはずだ。そして思うだろう。もう二度と二郎系ラーメンなんて食べない、と。

しかし歴史は繰り返す。人類は同じような過ちを何度も繰り返してきた。戦争がいつまで経ってもこの世からなくならないように、胃の限界を見誤った君はまたラーメンに敗北を喫するだろう。しかし、僕は君を信じている。未来の僕を信じたいんだ。君が今よりちょっとでも賢くなっているのなら、失敗から学ぶことができるはずだ。このnoteを読みながら、本当に二郎系ラーメンに挑戦すべきか、一度立ち止まって考えられるはずだ。別に行くなと言ってるわけじゃない。麺を半分にしてもらうなり、アブラを入れないなり、対処法はいくらでもある。とにかくフルサイズの二郎系ラーメンだけは完食できないと、それだけ分かってくれればいい。

二郎系ラーメンを食べたくなった未来の僕へ。


自分の体を大切に。そしてお店へのリスペクトを忘れずに。


僕は、君の幸せを心の底から願っている。

2020年7月18日 

この記事が参加している募集

#一度は行きたいあの場所

52,829件

最強になるために生きています。大学4年生です。年間400万PVのブログからnoteに移行しました。InstagramもTwitterも毎日更新中!