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【感想】芥川賞受賞作「破局」が酷すぎて小説の未来を憂いている

ネガティブな記事は書かないようにしているし、小説に深い知識があるわけでもないし、なにより同じ物書きとして小説を一本書き上げ賞までもらったことはとても尊敬している。しかしそんな僕でもこんなタイトルで記事を書くくらい「破局」はあまりに酷かった。

何が酷かったのか。例をあげれば枚挙にいとまがないが、「虚無」「エモさ」のこの2つに集約されると思う。

破局の帯にはデカデカと「28歳の鬼才が放つ、新時代の虚無」と書かれている。この言葉にあるように、この「破局」の魅力は著者・遠野遥の淡々とした文体から醸し出される「虚無」にあると、世間一般では評価されている。しかしこれだけは言わせて欲しい。「虚無」と「空っぽ」は全然違うのだということを。

はっきり言ってこの小説は「虚無」なんか描いていない。中身のないただ「空っぽ」な描写ばかりだ。とってつけたような設定、意味がありそうで特にない細かい描写、恵まれた環境にいるのにどこかひねくれている主人公。読めば分かるが、どこかで読んだような設定ばかりだ。ちょっと寂しげな表現を入れれば、それって「虚無」になるよねと言わんばかりの描写が目立つ。上っ面だけをすくえばそれは「虚無」になるのかもしれないが、僕から言わせてもらえばただの「空っぽ」な表現だ。空っぽだから、何を読んでも共感できない。ここから面白くなるのかなと思ってたら気がついたら終わってしまった。唯一の救いは1時間で読み終えられる短さだろうか。これが4,5時間かかる小説だったらもっと怒っていただろう。

いかにも小説家っぽい遠野遥のインタビューも話題になった。「作品を覆っている無機質さを、どのように作っていったんでしょうか」という質問に対し、「無機質さを作ろうと思ったことはない。出来上がった自分の小説を読んで、無機質だな、という感想を抱いたこともない。」と遠野は答えている。「破局」を読む前にこの記事を読んだときは、さすがにそんなわけないだろうと思ったが、この様子だと本当に何も考えずに適当に書いたのかもしれない。それくらい中身がなくて、読むのが心底辛かった。


ありきたりな「エモい」表現も目に余る。この小説にはやたら「セックス」が登場する。大体どのページをめくってもセックスばっかりしているのだが、それが何か重要な意味を持つわけでもない。ただ若者が性欲に任せて抱き合ってるだけで、何も訴えかけてこない。性描写の様子から察するに、作者は村上春樹や、村上龍の「限りなく透明に近いブルー」を読んだことがあって、あの空気感を自分の小説でも表現したかったんだろうということが手に取るように分かる。しかし当然ながらそう簡単に真似できるものではない。村上春樹を真似るにはあまりに情緒的な表現が稚拙で、村上龍を真似るには明らかにリアリティが足りていない。村上龍の「限りなく透明に近いブルー」を読めば分かるが、全ページに渡って酒・セックス・ドラッグの描写しかないが、作り込まれた設定だったり情景描写だったりが生々しく、見たくないものを見せられてるはずなのにページをめくる手が止まらないほど引き込まれる。一方、「破局」はセックスの描写も薄い。大学生が一人暮らしのワンルームで普通に交わってるシーンなんて読む必要がない。一回くらいならいいかもしれないが、それが何回も出てくるとうんざりしてしまう。ハイハイ、セックスさせればエモいでしょ、みたいなファストフードみたいなエモさの安売りがどうしても気に食わなかった。

そもそも芥川賞は、純文学の新人に与えられる賞である。この年、一番素晴らしい小説に与えられる賞ではない。期待の新人という意味も込めて才能の原石に与えられると言ってもいいかもしれない。それにしても「破局」は原石すぎやしないだろうか。芥川賞という肩書きだけが広がって、「これが素晴らしい小説なんだ!」という認識が広がったら、小説の未来がちょっと心配だ。僕は最近の小説は肌に合わないので読まない。「車輪の下」「グレート・ギャツビー」「ロング・グッドバイ」など昔の小説が気に入っている。以前、小説の好みは性癖みたいなものだと書いた。合わない人にはとことん合わないし、合う人にはどこまでも合う。「破局」は僕の性癖に合わなかっただけだから、ここまで酷評する記事なんて書くべきじゃないのかもしれない。

ただ僕としては現代の最高傑作が「破局」だとは思ってほしくない。芥川賞を取ったことでYouTuberやインフルエンサーなどがこれでもかと「破局」をおすすめしている。しかし面白い小説は他にもいっぱいある。「そうか、これが純文学なんだ!」と読んで早とちりするのはあまりにもったいない。それっぽい「虚無」とかそれっぽい「エモさ」ばかり評価されると、僕らの文化レベルがこの先もっと低下してしまう。

事実、今の世の中では「分かりやすいもの」「短いもの」「まとめられたもの」が良いものだと評価されている。15秒のTikTokのショートムービーで笑えて、3分のYouTube動画で感動できる時代に、わざわざお金を払って読むのに2週間もかかる500ページ超えの小説なんて誰も買わないだろう。僕がいくら文句を言ったところで、結果が全てであり、これが令和の新しい文化なら認めざるをえない。ただ小説を愛する人間として、本を読むことを推奨する人間として、世の中には読むだけで世界が変わるような素晴らしい小説がたくさんあるのだということを一人でも多くの人に知って欲しいのだ。

芥川賞受賞作「破局」は僕には合わなかった。しかし小説の好みは性癖と同じで、人それぞれである。この作品が好きでも嫌いでもどちらでも良い。どちらでも良いがこの一つの作品だけで満足せず、ぜひいろんな小説を読み漁って見て欲しい。それが僕の願いだ。



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