#52 今の時代は"誰/何に"憧れを与えるのか~起業家を増やすためには~
スタートアップの盛り上がり
日本においてはスタートアップ5カ年計画などを出したりしており、またいろいろなイベントが起こりスタートアップというのは言葉はこの10年間ぐらいで一気に市民権を得た。
下記図表ののように、様々なステージの支援に向けたものは整っていっているように思えるし、昨今課題であるM&Aやセカンダリーなどについても提言として重点があたっている。このような提言をしただいている関係者の皆様に感謝。
“スタートアップ”を増やすということ
そういった中で、”スタートアップ”とは何なのか?みたいなことを問い直したほうが良いのでは?という議論は以前下記記事などで考えてみた。スタートアップという言葉の解釈は広がっている。
VCという今働いている立場からすると、大きな時価総額をつくる会社ができることが仕事としてのリターン・義務に大きく関係するため、どうしてもそういったユニコーンとよばれる(もはや円安で定義上は1600億円ほどになりさらに実現が遠退いた存在ではあるが・・)ものになる”スタートアップ”を創らなければという意志が強い。
ただどういう解釈であろうと、スタートアップ企業を増やすことがイノベーションの活性化、雇用創出、社会の活性化に繋がることは信じている。
ではスタートアップ社数は増えているのだろうか?
現状のスタートアップの資金調達の額と社数を見た時に、どんどんこの10年で増えてきてはいるが、ここにきて前年に社数が減ってきている。(参照:2023 initial スタートアップ調達トレンド)
もちろんこれには様々な要因がある、例えばそもそもスタートアップとは何なのか?や、シードのスタートアップがステルスで調達をし、リリースをしないのが定番になってきたことなどは肌感を持って感じている。
VCから見るスタートアップの数は横ばいっぽい(個人的な感想)
自分は今ANRIというシードから投資をするVCで働いており、6-7年ぐらいVCの目線からこの業界を見ているが、正直スタートアップの数は増えても減ってもいないかなっていう実感はある。この5年ぐらいは横ばい的な感覚はある(あくまで個人的な肌感です。数えているわけではないですが・・)もしくは自分のソーシング能力が足りてない可能性も大いにある・・。
もう少しプレシードっぽいところや、早めに投資をするところのVCからみるとどういう感想になるのか聞きたいけれども、一つ言えるのは劇的に増えているわけではない。(もしこれを読んでるVCやスタートアップ支援関係者の方などでそんなことない!ということがありましたら申し訳ないです。)
なので一旦スタートアップ/起業家は劇的には増えてはいないっていう前提を仮固定今回の記事ではさせていただいた上で、VCとしても社会としてもそういったスタートアップ・起業家を増やしていくためには何ができるのか/どういうことが大事なのかについて今回は考えてみたい。
”憧れや嫉妬”という感情の重要さ
何に憧れ、嫉妬をするのかということは何か道や進路を目指す上では重要なことではないか。特に若いうちに何を知り、何に憧れたり嫉妬することによって意外にキャリアは大きく左右される。
誰も憧れや嫉妬が無いものに対して、目指そうとは思わないだろう。そういったキャリアなどが時代性を帯びているときに、人々はよりそういったものを目指すのではないか。もちろん、そんなミーハーな決め方がいいのか?みたいな議論はあるとは思うが、個人的には原体験こだわりはあんまりない。
全員が何かしらの原体験をもとにキャリアを決めていくべきだというのは理想論である気がしている。もちろん自分の人格や得意不得意などはメタ認知すべきだし、就職活動であるような、自己分析という活動は重要ではある。
それでも自分の中からキャリアがでるというよりは、その時の時代性であり、何に憧れ・嫉妬するのかっていうエモーショナルな部分は何を目指すかという上では重要。
2010年代は起業家/スタートアップに憧れ・嫉妬が集まっていた時代:社会へのインパクト/影響度が大きいと見ていた
これは非常にパーソナルな体験をベースに定義しているので、読まれている方と認識が違うかもしれないが、2010年代はスタートアップや起業家というものがオルタナティヴとして注目を浴びていった時期だったように自分は思っている。
VC自体がまだ少なく、スタートアップであることに対してニュースバリューがあった時代であった。今や日本ではなくなってしまったtechcrunchなどで資金調達のニュースが出るたびに新しい何かが世の中に新しくでて、それが社会を変えるかもしれないという期待感やワクワク感があった。実際にAirbnbやUberなど今は上場したUSの会社や、日本においてもメルカリ含めて新しいSNSなどConsumer向け含めて様々な挑戦が起こるのが見えていた。
自分も漏れずそういったものを大学時代に東京で経験したからこそ今のVCというキャリアに出会い、実際にいまVCとして働いている。その当時に、Gunosy創業期の福島さんやperoliの中川綾太郎さん、delyの堀江さんなどがスタートアップシーンで取り上げられているのを見ながら憧れなどを抱いたことを未だに覚えている。
実際に今自分と同じぐらいの世代20代後半から30代前半はこの熱を見ていた世代なような気がしている。例えば自分の投資先においても政治家になりたかったという人が何人かいる。政治家か起業家かというと遠いように見えるが、社会に対してインパクトを与えたいという野心からすると近しいものがあるようにも思える。
今の若い世代は何に憧れ・嫉妬しているのか:YouTuber?Vtuber?e-sports?TikToker?Hiphop?
しかしここ最近の若い世代(10代後半から20代前半)などは必ずしもそういった時代の変換期を見ていないため、起業家やスタートアップに対してどちらかというた体制的な、もう既存の流れのように見えているのではないだろうか?そういったものに対してピュアな憧れっぽさっていうのは正直減っている気もしているのだがどうだろうか。
それよりもここ数年でいうと、上記でもだした社会にインパクトがあるという意味においては、振興メディアの上で影響力をもっていた、YouTuberやTikTokerなどのようなものに憧れているような世代が増えてきているのではないだろうか。
”好きなことで行きていく”というキャッチなーもので登場したのは2014年だが、その頃から時代の空気感は少しずつ変化してきているように感じる。
起業してスタートアップするよりも、チャンネルをつくって伸ばしたりしたいみたいなほうに対して憧れなどが移行していっている感覚はある(もちろん全員がそうというわけではないが。)
この現象が悪いことではない気がしている。新しいことに自分で主体性を持ってチャレンジする人が増えていくことに対しては非常に前向きな感覚はある(一方アルゴリズム上で炎上目的やそういったものに取り組む人は論外だとは思うが)挑戦するものが法人として起業ではなくても、TikTokやPodcast、YouTubeのアカウントに変わっただけである。
しかしVCで働いている身としては、スタートアップを立ち上げて大きな変革を社会にもたらせること、起業家というキャリアに対して憧れや健全な嫉妬を抱く人を増やしていくことは仕事の1つの果たすべき役割の1つでもあるのではないかと考えている。では実際にどのようにしたら起業家が増えるのだろうか。
起業家への”憧れと健全な嫉妬”を増やすためには
どうしたら今後起業家を増やすために、憧れや健全な嫉妬を生むことができるのだろうか。その上ではメディアの果たす役割は重要であろう。しかしいまのSNSの状況をみると、そこから憧れはなく不健全な嫉妬しか産まない気がしている(炎上商法が多すぎるし構造的にそれを促す形になっている)ので、SNS的メディアから生まれることは2010年代に比べると少ないのではないか。
メディアの効果
また残念なことにスタートアップを取り上げるメディア自体は減少している。厳密に言うとD2C的な運営/オウンドメディア的なnoteなどを考えれば増えているかもしれない。(オウンドメディアはもう死語・・?)しかしTechcrunchなどのメディアは日本にもうないし、スタートアップ自体を盛り上げるメディアというものは年々減少しているような気がしている。一方これはスタートアップ自体に対するニュースバリューの低下ということの現れでもあるかもしれないので、時代性を表しているかもしれない。
PIVOTやNewspicksのような新興メディアには期待できるかもしれない。そういったメディアが増えていくこと、注目されることは良い効果があるのではないか。
一方ただ、目立っていいことがあるのか?という時代には入ってきている。スタートアップとしてはそういったアテンションハックというか、目立つほうがショートカットできるコネクションや人脈などができるはずなので、基本はそういった注目を集められるメディアや機会は大事だと思っているしでたほうがいい(ステルスで競合などにバレないようにやったほうがいいというのもわかるが、もし与信がまだないのであれば、個人的にはメディアなどには出たほうが良いと思っている派)
しかし、目立つことによる炎上リスクなども考えると、この今の時代においてのPRであり出方というのは少し考えないといけないのかもしれない。
小さな集団の組成と切磋琢磨
メディアほど大きくなくても、例えば隣に座っていた同僚や同級生が起業して挑戦している姿をみると、憧れと嫉妬が混ざり起業をする人が増えていくのではないか。シリコンバレーに人が集まっているのものこのエコシステムのおかげ。
当たり前すぎるが、そういったエコシステムをつくっていくことによって、より健全に起業家への憧れや健全な嫉妬が醸成できるのではないかと思う。
コワーキングスペースや大学の授業などそういった場所においてのコミュニティに注目がより集まり、小さな集団の時代がもしかしたら今後より来るのかもしれない。大きな集団や大きなメディアは上記の理由に議論や嫉妬や憧れの場所というよりは、雑多な駅みたいな、情報は目にするけど通り過ぎていくみたいな場所になっていく可能性はある。
ただアクセラレーションプログラムなどは多くあるが、もうそれは起業に興味を持っている人たち向けだったりするので、なにかより前のプログラムや取り組みみたいなのが今後より発明されると面白いのかもしれない。全然思いつかないけど・・w
もしかしたらこれは中学生や高校生においての起業教育とか、そういったジャンルになってくるのかもしれないけども。あんまり公っぽさを出すと萎えてしまうから、なんだろうな?昔でいうとせどりで儲けるとか、いまならRoboloxやForniteでワールドつくるとかみたいなので、有名になった人と話す機会を創るとか?
そういった小さな集団から様々な起業家がでてくることによって、健全な嫉妬と憧れを生むことができるような気がしている。
お金とお金の使い方
人が憧れを抱くためには、お金という面は必ずあるだろう。成功した起業家・挑戦している起業家/経営者が健全にお金を使ったりすることはそういったことは大事だと思う。お金の話は若干タブーっぽさもあるが、大事な話ではある。
そもそも会社の一部を所有するということは、資本主義社会にとって数限られた巨額のお金/資産の築き方である。そういった意味において株式会社の仕組み/起業というのは素晴らしいことである。そうした結果得た財産をどうつかっていくかに関しても憧れや健全な嫉妬を生むきっかけにはなると思う。
もちろん良い服や良いレストランいけるとかも全然いいと思うし、アートとか買って欲しいし、良い家とかも良いなと思う。(自分も良い建築の家だけほしい。NOTAHOTELとか最高。)そういったものを下品にではなく取材するメディアとかあってもいいのかもしれない。
更にここからは個人的な憧れでもあるが、お金があるからこそできる使い方で社会にインパクトをもたらすことができることがある。これは非常に憧れる。財団をつくったり(メルカリの山田さんやビル・ゲイツとか、クマ財団とかも・・)、教育に投資をしたり、学校をつくったり(Sansan寺田さんの神山まるごと高専など)、大きな額を寄付できたりと、、
むしろこういった活動ほどメディアとかは着目してほしいし、この部分をふくらませることでより起業家の憧れや健全な嫉妬などは醸成できるかもしれない。
事業としても社会にインパクトだせるし、それによって得た富によって社会によりインパクトをだすことができるのは起業家・経営者としての生き方として非常に自分も憧れるし、嫉妬する部分ではある。
人生に主体性をもたらす活動を増やす
自分はVCなので職業柄やはりどうしても起業家が増えたほうがいい、もっというとユニコーンのような時価総額が大きい起業を目指すような起業家が増えたらいいと思っている。ただ本当に起業などはいいことなのだろうか。
ここは個人的には他人から資金調達するかどうかは大きな分岐なので、安直にはオススメすることはできないが、起業のような活動自体は非常にオススメする。そういったものは人生に主体性を取り戻すことができると考えているからだ。
よく疎外というのは自分の中でのこの時代のテーマの1つであると考えているが、大きな企業などで働いていけばいくほど、もちろん例外があるがより大きな中での一つの機械となっていってしまう。それはマルクスが予言したとおりの社会にどんどんなっていく。そういったことに抗う行為としての起業のような活動は意味がある。
例えばスタートアップに転職したりすると、昔の友人がリクルーティング対象となって一緒に会社で働けるかという目線になり、自分が推薦して誘えたりできる。そういった人生のフラグを取り戻したり、主体性をもって働けるようになりやすい。
スタートアップや起業するだけではない、例えばこのメルマガを作成する行為でもいいと思うし、バンド活動や、YouTuber/TikTokerを目指すでもいいとおもっている、そういったことにチャレンジする人たちを増やしていくき、主体性をもって人生を生きている人を増やすことが、憧れなどの循環を生み出していき、そこから起業を選ぶ人が増えていけばいいなと個人的には思う。
起業が最高だとは思わないが、社会を動かしていく・変えていくのはそういったマインドを持った人たちだと信じているので、良い空気がこのあたりに抜けていくといいなと願う。
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