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歌集評・一首評・その他書評

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歌集評や同人誌などの一首評、小説の書評です。
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2022年11月の記事一覧

【書評】『東京バンドワゴン ハロー・グッドバイ』小路幸也(小説)

(作品の内容を含みますので、少しでもネタバレしたくない方は  ぜひ作品を読んでからお越しください) 17作目である。 「東京バンドワゴンシリーズ」は、もう17作目なのである。 ・・・彼らと共に、私は17歳、年を取ったということになる。 1年に新刊が1冊出て、登場人物も一つずつ年を重ねるという作品だからこそ生まれる味わいだ。 そして何より、継続して書かれているからこそ起こるミラクルである。 この物語は東京の下町にある「東京バンドワゴン」という一風変わった名前の古本屋(カフェ

【一首評】短歌同人誌「パンの耳」6号(後半)

短歌同人誌「パンの耳」6号、一首評の後半です。 されど人は砲声にも慣れ剝き出しの瓦礫の道を買物に行く                松村正直「烏鷺の争い」 ロシアのウクライナ侵攻について真正面から詠んだ一連。 このことについて書かれた短歌はすでに多いと思うが、それでも詠まねば、という強い意思が感じられる。 この状況でもその町で暮らし、爆撃で瓦礫が山となった道を歩いて買い物に行く人々。 いつ爆弾が飛んでくるかもしれないのに、どうして、と思ってしまうのは、遠く離れた私の勝手な

【一首評】短歌同人誌「パンの耳」6号(前半)

「パンの耳」は松村正直さんを中心とするフレンテ歌会の皆さんが 年に1回発行している同人誌。 発行後には「パンの耳を読む会」という場を設け、 連作を作った後、それをしっかり読み直したり批評し合ったりという場も大切にされている。 今回は「パンの耳」6号から各同人の皆さんの連作一首評の前半部分を。 話すほど遠ざかる午後テーブルにアップルティーは明るく澄んで                弓立悦「三日月の匂い」 下句の伸びやかな明るさに惹かれる一首。 アップルティーという言葉の響