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「社長」はただの役職であることを社員は知らない【M&A日記】

株式会社の構造を簡単に説明する。

株式会社には株主がいて、彼らは会社の所有者である。

会社を経営するのは、取締役。
株主に代わって会社を経営するので、取締役は株主によって選任される。
会社から経営委任を受けている立場で、雇用関係とは異なる。

取締役の内、代表権を保有するのが代表取締役。
代表取締役は、取締役を代表して会社の意思決定や取引・契約などができる。

取締役ら経営陣が検討した経営方針を遂行するのは社員。
社員は会社と雇用契約を締結し、雇われる立場になる。

これがざっくりとした株式会社体の構造だ。

さて、この中に「社長」という言葉はどこにも出てこない。
「社長」は法的に意味を持たない言葉であり、あくまで社内の役割・責任を明確にするための役職に過ぎないからだ。
係長、課長、社長、会長もどれもただの役職である。

多くの人はそのことを知らなく、会社の序列はあくまで役職で決まるものだと考えている。
会長が一番偉くて、次が社長、みたいな。

M&Aのときには、この役職を活用する。
以下一つの事例。

M&Aによって企業を買収した場合、その会社における責任は今後買収側に係ってくる。
なので責任が取れるように、また自社で考える企業成長を推進していくために買収側から送られる人間が代表取締役に就くことが多い。
これは買収側からすれば当然のことだが、従業員にとっては急に会社のトップが知らない会社の人間に代わるというのは不安しかない。

そこで役職を活用する。
元社長には代表から降りて頂く必要があり、また退職金もお支払いする約束になっているため、取締役も退任しないといけない。
全て退任してもらった上で、「会長」という役職を授けて、有期で会社に残ってもらうようにするのだ。

こうすると、前の社長は会長としてまだ会社で一番上の役職で残っている、と見える。

M&Aは一般社員にとってはあまりに縁遠いことであるため、これ自体はちゃんと理解してもらうことが難しい。
しかし、企業間の資本提携が行われて、社長が代わって、会社に何か大きなことが起きているというのは分かる。
自分はどうなってしまうんだろうという不安が押し寄せてくる中で、前社長は会長として引き続き残ってくれるんだ、というのが思いのほか心の拠り所になったりするのだ。

従業員はM&A成立から1か月もして、会社にも自分にも極端な変化がないことが分かったり、むしろ待遇が改善したりすると、経営者が思っている以上にすぐ新体制に適応するもの。
なので、対応が必要なのはM&Aが行われて、それを従業員に説明するその一時、ピークに達した不安を少しでも和らげてあげるということぐらいで、そこで「社長は会長として引き続き会社に残って頂きます」の一言が意外なほどに効くのだ。

役職をうまく活用するのはM&Aでは意外と大事である。

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