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譲渡前に経費はできるだけ削減したほうが良いのかどうかを数字で説明する【M&A日記】

譲渡相談を受ける際に、よく経営者から聞かれること。

「役員報酬は下げてもっと利益を出した方が良いですか?」
「節税とかはあまりせずにもっと利益を出した方が良いですか?」

~をせずにもっと利益を出した方が良いか、ということをよく聞かれる。

基本的には、「あまり関係ないです」とお答えする。

noteでも何度か紹介してきているように、会社の評価は基本的にBS(貸借対照表)とPL(損益計算書)の数字によって決まってくる。
但し、損益計算書の数字をそのまま使うわけではない。

「正常収益力」という言葉を用いるが、会社には必ずしも事業とは直接的に関連しない経費も含まれる。
このような経費は経営者に関係することが一般的で、M&Aが成立すると、それらのコストは今後かかってこなくなる。
そのため、譲渡後に発生しないと見込まれる経費についてはコストから除外し、純粋に事業だけを運営したときの「正常収益力」を算出して、これをもってして評価する。

なので、役員報酬を1億円とっていても、1000万円とっていても、そのコストは譲渡後に無くなると見込まれるのであれば、それは削減対象となるため、結果数字は同じになる。

しかし、同じ利益であれば1億円の役員報酬をとった場合と一切とらなかった場合とでは、会社に残る利益の金額は変わる。
結果として、BSが変わるので、その点は評価に影響してくる。
ただ、これも例えば、1億円を役員報酬で受け取るとして、0円と比較すると、差額の1000万円から税金(30%と仮定)を差し引いたおよそ7000万円が会社に残る。
7000万円分企業評価が上がることになるが、7000万円が株式譲渡対価に上積みされても、そこから譲渡益課税で約20%が引かれるので、手残りとしては5600万円の増額。
1億円を役員報酬でとると、手残り額は約5000万円。
その差額は600万円で、もちろん少なくはないが、何千万円も変わるものではない。

節税については、変わらずに推進することを推奨する。
役員報酬とは違い、利益を減らした分が簿外に積みあがるなど、BS上もネガティブな要素がないと思われ、M&Aが成立しない可能性もあるので、そのことを想定しても継続したほうが良い。

事業に関係するコストを削減したほうが良いかという質問であれば、それはできる限りそうしたほうが良い。
純粋に事業を運営したときに、より利益が出る状態の方が良いのは評価上プラスになる。
一方で、事業が持続的に存続・成長をするために必要なコストは削ってはいけない。
あくまで、例えばこれまでコスト管理をあまりしていなく、余分なコストをかけてしまっているようなケースを想定する。
また、ここは事業に関係しないコストとは違い、本来こんなにかからないです、と説明しても買収側からすれば、いやかかっているからかかるんじゃないの、と思ってしまう。
なので、削減見込みとするのではなく、実際に削減して実績ベースで説明する方が説得力は格段に増す。

要約すれば、事業に関係するコストは余分なものをできるだけ譲渡前に削って実績としておく。
事業に関係しないコストは特に削っておかなくとも評価上は大きな影響はない、ということになる。

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