見出し画像

最も理論的と言われるDCF法が、M&A現場ではほぼ活用されない訳【M&A日記】

DCF法という事業価値の算出方法がある。
最も理論的な計算方法だと言われていて、個人的にも同意する。
しかし、この最も理論的な方法はM&Aの現場においては、まずもって使われることがない
私も使わない。

一方で、年倍法と言われる、ある種最も理論的ではない計算方法が、少なくとも中小企業M&Aにおいては、最も使われている
私も良く使う。

この理由については、M&A仲介の各社や会計士などが各々の考えを説明している。
DCF法の問題点が指摘され、一方で使い勝手の良い年倍法が選ばれている、という説明が多いように思う。

さて、まずはDCF法について。
正確に説明するととてもややこしいため、敢えて語弊というか間違っているけれども雰囲気は伝わるように言うと、その事業が将来にわたって生み出すであろうお金(DCF=ディスカウントキャッシュフローというだけあり、本当はお金ではなくフリーキャッシュフロー)を今の価値に換算しなおしたもの。

事業の価値を計算しようというときに、その事業が将来にわたって生み出すお金から計算するというのは合理的だ。

しかし、これが中堅中小企業M&Aの事業価値算定の場においては、まず使われない。
私が考えるその理由は、計算方法のメリット・デメリットとは関係ない。
理由は、価格は市場によって決められるものだから、だ。

DCF法は売主が自分の事業の価値はこうあるべきだ!と理論的に説明する方法として優秀だ。
しかし、市場経済では、モノの価値は売主と買主の双方によって決められる。
例えばトマトを作っている農家が、種に50円、土に50円、水に50円、肥料に100円、労働力に200円かかったから、50円の利益を乗せて、このトマトには500円の価値があるといったところで、500円で買う人がいなければ、その値付けには意味がない。
その値付けは理論的だが、需要がなければ500円の価値はないということになる。
DCF法は、このトマトが500円である理由を説明するのと同じで、売主が一方的に主張する理論的な価格のことだ。

ということは、仮にDCF法であったとしても、その値段で買う人がいるならば問題ない。
しかし、実際にはDCF法はまず持ち入れられない。
それは、DCF法で計算すると多くの場合事業価値が高くなりすぎてしまうから。
高くなりすぎてしまうので、買い手からすれば、そんな価値無いよということになり、結果M&Aは成立しない=DCF法に意味がなくなる。

では買い手はどのように事業の価値を判断するのか。
買い手からすれば、会社を買収するというのは紛れもなく、投資だ。
投資なので必ず回収を考えないといけない。
投資したモノに対して、様々なリスクを考えつつ、自社としての理想的な回収期間を想定して、価格を算出する
これが≒年倍法。

買い手の多くは年倍法、あるいはそれに近似した投資回収を踏まえた計算方法で事業価値を算出する。

しかし、DCF法が買い手にとって高すぎるのと同様に、年倍法は売り手にとって安すぎるかもしれない。
そこからは交渉となる。
それぞれ根拠をつけて話はしていくものの、最終的には売り手の希望と買い手の判断という感覚値の対峙で決まる。

市場経済というのはそんなものだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?