或る異常ロシア帝政復古論者の奮闘記:ロマノフ家の「帝国」再建計画
はじめに
サライェヴォ事件――オーストリア=ハンガリー二重帝国皇嗣フランツ・フェルディナント大公の暗殺事件――に端を発した第一次世界大戦により、四つの帝国が世界地図上から姿を消した。
最初にロシア帝国が、続いてドイツ帝国とオーストリア=ハンガリー二重帝国が、そして数年遅れて最後にオスマン帝国が崩壊したという流れだ。
とりわけロシア帝国の終焉に関しては、最後の皇帝ニコライ2世の一家がボリシェヴィキ政権によって凄惨な最期を遂げたことがよく知られている。ロシア革命後、元皇帝一家のみならずロマノフ一族の多くが処刑された。
元皇帝一家皆殺しのインパクトがあまりにも大きいからか、ロマノフ家は一人残らず処刑されたとしばしば誤解されるが、これは大きな誤りである。無事に逃げ延びたロシア皇族もおり、その血脈は今も続いている。
そして、ロシアの帝政復古を望む、現代のロマノフ家を奉ずる君主主義者もいまだ残存している。有名どころでは、1970年にノーベル文学賞を受けたアレクサンドル・ソルジェニーツィンが君主制の回復を提唱していた。
2012年6月、「ロシア連邦君主制主義者党」なる泡沫政党が結成された。同党を率いるのは、大富豪のアントン・バーコフ(Anton Bakov)だ。
一口に「君主主義者」と言っても様々な人種がいる。ソルジェニーツィンは不世出の知識人として20世紀末ロシアにその名を轟かせたが、バーコフの場合は、世間一般から見れば明らかに奇人変人の類である。
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