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ソサイチ-Society- 第1話

【あらすじ】
Society- ソサイチ- とは、ブラジルで生まれた7人制サッカーのこと。社交的サッカーを意味する「Football Society」が語源。コートはサッカーの半分ほどでブラジルではジュニアからシニアまでの生涯スポーツとして広く楽しまれており、日本でも普及しつつある。
これは、常勝していながら問題ばかり抱える少年ソサイチチームを、HSP(非常に感受性が強く敏感な気質)の主人公が再生していくドラマです。そして主人公も子供たちの姿を見て、社会との向き合い方を学んでいく姿を描きます。

ログライン:少年ソサイチチームの新しい監督は、人が苦手なクリエイティブディレクター。


○HEYHEYサッカー場・フィールド
   練習試合をしている『湘南ソサイチ』。7―1で勝っている。
   パスを受けた番康介(12)が強引なドリブルでゴール前に運びシュ  
   ート。ゴールが決まる。小さくガッツポーズ。康介に駆け寄る蒔田新
   (12)と三浦琴(12)。
康介「新、パスのタイミングちょっと遅い。俺の動き見ろって。要求してる
 から」
新「琴の上がりが遅くて。相手が引きつけられるの待ってたんだよ」
琴「私が悪いの?」
康介「琴もそうだけど、相手とか関係なく俺の動きに合わせれば通ったよ」
   納得いかない様子の新と琴。

○同・客席
   地面に座り、試合を見ながらあくびをする歩上准(37)。
   平平久美(35)が来る。
久美「楽しんでる?」
歩上「何で僕が少年サッカーの監督をやらなきゃいけないの?」
久美「歩上君、サッカー好きだって言ってたじゃない」
歩上「違う。サッカーはプレーのことを仕事って呼ぶから好きだって言った
 んだ」
久美「ほら、言ったんじゃない」
歩上「(しばし考え)言ってないよね」
久美「やることは今までと同じよ。良いチームを作って良い結果を出す」
   ため息をつく歩上。
久美「大丈夫。今度は子供だから、今までとは違うわ」
歩上「同じなの?違うの?」
   無視する久美。試合を見る。
歩上「ねぇ、どっち?」

○同・湘南ソサイチ側ベンチ
   試合が終わり、子供達が来る。
康介「勝つことは決まってんだから、後は勝ち方じゃん。1点とられたと
 こ、ちゃんと振り返れよ、誠」
   呆れた様子で聞く西山田誠(11)に鰻町直(11)がタオルを渡
   す。「ドンマイ」とアイコンタクト。
   南蛇井衛(42)が拍手を送る。ドカッと座る康介の隣に上月宏明
   (12)が座る。
上月「康介、俺には何かアドバイスある?」
康介「(小さな声で)ないよ」
   と、逃げるように離れる。そこに来る滝下健二郎(11)、上月と意
   地悪く笑う。子供達の前に立つ南蛇井。
南蛇井「よくやったぞ、お前ら。でも満足するな。チームメイトの悪い所を
 指摘して向上心を持ち続けるんだぞ」
   関前茂海(11)立ち上がる。
茂海「はい!ほら皆んなも」
一同「(口々に)はい」
   南蛇井、茂海の頭を撫で、去る。椎野和樹(12)、直の記録ノートを
   見る。
椎野「俺らの試合、面白いか?直」
直「僕はこのチームに可能性を感じています」
椎野「ポジティブ〜」
直「人の良い所を茶化すと大事な時に素直になれませんよ。椎野くん」
椎野「説教やめろよ、大人か」

○HEYHEYオフィス・社長室(翌日)
   久美に連れられ入る歩上。平平一郎(65)と南蛇井がいる。
南蛇井「なぜ私が監督を解任されるんですか。昨日の試合も大勝。私なら全
 国優勝だって目指せます」
   歩上、部屋を出て行こうとするが、久美が止める。
歩上「(小声で)やる気のある人が監督をやってる。僕の出る幕はないよ」
久美「いいから居て」
平平「成績には何の文句もありません」
南蛇井「だったら、」
平平「勝っているのに入団希望者が少ないのは何故ですか?」
南蛇井「それは、ソサイチがまだメジャースポーツとは言えないのが原因か
 と」
   『ソサイチ』に引っかかる歩上。
平平「もしそれだけが理由なら弊社の企業イメージが悪くなる理由が説明で
 きません」
久美「チームの雰囲気が良くない。あれを見て、自分の子供を湘南ソサイチ
 に入れたいとは思わないでしょう」
南蛇井「(久美を睨み)誰だ」
久美「失礼いたしました。私――」
   久美が差し出した名刺を片手で取り、見もせずにポケットへ仕舞う。
南蛇井「オーナー、考え直してください。成績が良いのに監督が変わると子
 供達への影響も出てしまいます」
平平「(久美に)その方が歩上さんだね?」
   久美、歩上の袖を掴み前に出す。抵抗する歩上と格闘しながら、
久美「彼は、サッカー経験は」
南蛇井「ソサイチ」
歩上「(久美に)ソサイチ?」
久美「黙って。(平平に)ソサイチ経験はありませんが組織力を高めるプロで
 す」
   平平、デスクから歩上の経歴書を取る。
平平「失礼ですが、この一年間何をやっていたんですか?」
久美「休んでたのよ」
平平「歩上さんに聞いてる」
久美、心配そうに歩上を見る。
歩上「あ〜、、その、、、はい、まあ、、、何もしていませんでした」
南蛇井「何もですか?」
歩上「はいまあ、、、何もですね」
久美「(黙っていられず)でもその前は広告代理店でクリエイティブディレク
 ターをしていました。チームを束ねて様々なプロモーションを成功に導き
 ました」
南蛇井「では何故ソサイチクラブの監督に?」
久美「これは面接ではありませんよね?」
南蛇井「手塩にかけて育てた子供達を預けるんだ。どういう人かは知ってお
 きたいです」
歩上「子供は大人がいなくても育ちますよ」
南蛇井「実績のある私に意見でも?」
歩上「あ、いえ、そういう訳じゃ」
久美「(歩上に)子供達の所へ行って」
歩上「いいの?」
   歩上、行こうとする。
南蛇井「ちょっと待ちなさい」
久美「いいから行って」
   歩上、不器用に会釈し、出ていく。
南蛇井「待てと言ってるんだ」
平平「南蛇井監督、いや前監督。ここは私の会社だ。言動に気を付けるよう
 に」
南蛇井「失礼しました」
久美「人は誰でも悩みを抱えています。優れた能力を持っていても挫折する
 こともある」
平平「次の予定があるので、歩きながら」
   鞄を持ち、出ていく。

○同・廊下
   平平と久美が並んで歩く後ろに南蛇井。
南蛇井「平平社長、こんな女の言うことを信じるんですか?自分の言葉でま
 ともに話せないような奴に監督は務まりませんよ」
平平「(振り返り)勘違いされてるようですが、監督交代はもう決めたことで
 す」
   窓の外から子供達の楽しそうな声が聞こえてくる。窓から下を見る久
 美。
南蛇井「しかし急に言われても困ります」
平平「前々から伝えていたでしょう。あなたのそういう態度がーー」
久美「お二人とも」
   窓の外を見るようにジェスチャー。訝しみながら窓まで行く平平と南
   蛇井。

○同・グラウンド
   湘南ソサイチが練習している。歩上が子供達と一緒に走っている。
歩上「パスパース!歩上、空いてまーす」
   歩上の姿に子供達がケラケラ笑っている。椎野が歩上にパスを出す。
歩上「全力シュート!」
   歩上のシュートは琴にキャッチされる。
   子供達が楽しそうに野次を飛ばす。

○同・廊下
   驚いている平平と南蛇井。
久美「彼は一年間人との関係を絶っていました。人が苦手なんです」
南蛇井「そんな人に監督は務まらない」
久美「(平平に)でも、それは大人だからじゃないかって思うの。特に歩上君
 は色んな思惑が飛び交う環境にいたから。でも、素直に反応する子供達な
 ら、彼の能力が発揮できるかもしれないって思ったの」
平平「期待してるよ久美。ただ契約は一年だ」
久美「ありがとう。パパ」
南蛇井「パパ?」
   名刺を見る。『平平久美』と書いてある。「しまった」という表情。 

○同・グラウンド(夕)
   練習が終わり、湘南ソサイチ一同が円になって座っている。歩上も円
   に混ざり、ワクワクした表情。
   二泰(28)が円の真ん中に立つ。
二「今日の練習で気付いたこと、ある人」
   康介が手を挙げる。
康介「今日は練習っていうより遊びの感じだったので張り合いがないという
 か。皆んな笑ってて真面目にやろうよって思いました」
   驚く歩上。
歩上「あ、僕がそういう雰囲気にさせちゃったんだな、ごめん」
康介「勿論そうなんですけど、その雰囲気に流されていいの?って皆んなに
 思いました」
新「確かに今日は緩かったけど、そういう日があっても良いと思う」
直「プロの練習でも和気藹々としたシーンを見掛けます」
康介「プロのレベルまで行ければ良いかもしれないけど、俺らはもっと強く
 ならないといけないだろ?」
直「それはそうですが」
   下を向く直。
康介「新もさ、この間の試合で失点してるじゃん。それ、どう思ってん 
 の?」
歩上「ちょっと待った!これは何?」
直「悪い所を指摘しあって向上できる所を探しているのです」
康介「悪い所を言い合うことはお互いを尊重してることだって南蛇井監督
 が」
歩上「だから君達の試合はつまらないのか」
滝下「どういう意味ですか?」
歩上「皆んなはどう思ってるの?」
   お互いの顔を見合う子供達。
上月「どう思うっていうか、いつものことだから。なあ?」
   頷く子供達。
歩上「康介君、君の意見は?」
康介「強くなる為にやってることです」
歩上「僕は、どう思うかを聞いてるんだ。悪い点を指摘し合うことを、どう
 思う?」
   何と言っていいか、戸惑っている康介。
直「歩上監督はどう思うのですか?」
歩上「良いこととは思えない。南蛇井監督は、悪い点を指摘し合うことは尊
 重し合ってることだって言ったんだよね?」
   曖昧な表情の子供達。
歩上「(二に)合ってますか?」
二「そうだったと思います」
歩上「おそらくそれは、お互いを尊重しようという意味だと思う」
琴「何が違うのか分かりません」
歩上「つまり、お互いを尊重する目的で悪い点を指摘し合うことは成立して
 も、悪い点を指摘し合うことがお互いを尊重することにはならない」
   混乱して首を捻っている子供達。
歩上「目的を忘れて手段が目的になっている」
二「あ〜なるほど」
茂海「コーチ分かったの?」
二「例えば、ゴールを決めるためにパスを繋ぐ。最初はそう意識していたの
 に、次第にパスを繋ぐことを意識しすぎて、ゴールに繋がらないパスが多
 くなることがある」
歩上「素晴らしいです!二コーチ!」
   子供達から拍手が起こる。
歩上「実際に、指摘された人が尊重されていると感じられていない。違うか
 な?」
   康介、立ち上がる。
康介「俺らは今のままで上手くいってます」
歩上「それで楽しい?」
康介「俺らは勝たなきゃいけない。頑張ったけど勝てなかったは許されない
 の」
歩上「勿論勝つことは大事だ。だけどそこに、アイデアはいらない?」
   康介、歩上に詰め寄る。
康介「監督は全く違う仕事してたんでしょ?」
歩上「ああ」
康介「何で俺たちの監督になったの?失敗しちゃったの?」
   考える歩上。
康介「それ楽しいだけでやってたからじゃない?俺らはそうなりたくないん
 だよ」
   歩上、ニヤニヤしている。康介、気味悪がって離れる。
康介「一万時間の法則って知ってます?今日は練習出来なかったので帰って
 練習します」
   帰る康介の後ろ姿を見つめる歩上。
茂海「監督、気にしなくて大丈夫です」
上月「康介が空気悪くするなんて、いつものことだもんな」
   歩上、笑みを浮かべる。
二「監督、これから宜しくお願いします」
歩上「あ、ええ。よろしくお願いします。では私も今日はこれで失礼しま
 す」
   そそくさと帰っていく歩上。 

○砂浜(夕)
   康介がランニングで帰宅している。かなり疲弊している様子。

○歩上の家(夜)
   歩上はベッドの上に。久美がソファに座っている。
久美「(部屋を見回し)変わってないわね」
   テーブル上に新品のソサイチの本を見つける。
久美「買ったんだ」
歩上「勉強することが無くなってきてたから丁度良かったよ」
久美「勉強することがないなら、しなければ良いじゃない」
歩上「いや、寝る前の30分は勉強の時間になってるから」
久美「決まってるの?」
歩上「もちろん」
久美「どんな生活してるのよ」
歩上「早寝早起きして適度な運動と読書。良いとされてることを毎日やって
 るんだ」
久美「相変わらず変な人ね」
歩上「(失笑)変な人っていうのは、拘りが強い人のことを言うんだよ。僕は
 至って普通の生活をしている」
久美「普通を徹底的にやってる人は変なのよ」
歩上「面白いことを言うな。ほら、異なる意見にも寛容だ。怒ったりしな
 い」
久美「(小声で)何でそんなに普通が良いのよ」
歩上「それは、」
久美「(驚き)聞こえてた」
歩上「耳を良くする為にビタミンやミネラルは欠かさない。まだモスキート
 音が聞こえるのは、その成果さ」
久美「ストイックでご立派」
歩上「それは違うな。大切なことはストイックさじゃない」
   考え込む歩上。
久美「次は何時に何するの?」
   時計を見る歩上。7時58分。
歩上「いつもなら、そろそろ自己肯定タイムだね。でも人が来てる時はしな
 いよ」
久美「歩上君のリズムを乱したくないから帰るわね」
   久美、帰ろうとするが、
久美「ごめんね、一つだけ。自己肯定タイムって何?」
歩上「夜は気持ちが不安になりやすいから自分を褒めてあげる時間を作って
 るんだ」
久美「それが普通?」
歩上「(しばし考え)良いこととはされてる」
久美「私もやってみようかな」
歩上「お勧めだよ」
久美「じゃあね」
歩上「あ、普通送っていくものだよね」
久美「気にしないで。あ、8時になっちゃう」
歩上「そんなに厳密じゃないよ」
久美「普通ね」
歩上「でしょ?(嬉しそう)」

○HEYHEYオフィス・グラウンド(翌日)
   二が手を叩くと子供達がダッシュする。
   歩上が感心する。歩上の隣にいる直。
直「ソサイチは七人制のサッカーです。小学生のサッカー大会では八人で行
 うので人数を合わせてサッカークラブと試合をすることもあります。これ
 はご存知ですか?」
歩上「うん、本で読んだよ。鰻町君は練習しないの?」
直「僕は監督志望でありますから」
   練習はゲーム形式に切り替わっている。
歩上「このチームはとても効率的なプレーをするよね」
直「はい、フィジカル重視です」
歩上「フィジカル重視」
直「背が高い、体が強い、足が速い」
歩上「小学生だと大きな差が出るだろうね」
   康介がパスを出すが茂海がシュートを外す。
康介「おい、何回外してんだよ」
   茂海、康介から急いで離れる。
茂海「ごめんなさーい」
康介「ったく」
上月「気にするな茂海。試合で康介からそんなパス来ないから」
康介「決めてくれるなら出すけどな」
   歩上が顔をしかめる。
歩上「何で康介君はあんなに切羽詰まってるの?」
直「僕の口からは言えません」

×   ×   ×

   練習終わり、並んで座る子供達の前で歩上の横にホワイトボード。名
   前が書かれたマグネットが配置されている。
   『GK 西山田誠 DF 上月宏明 蒔田新
   MF 関前茂海 滝下健二郎三浦琴 FW 番康介』
   歩上、マグネットを動かしながら、
歩上「今の戦術は、サイドの守備はある程度無視して、真ん中でボールを取
 る。取ったらトップの康介君にロングパス。個人技で得点する」
   子供達が頷く。
歩上「少し戦術を変えてみようと思います」
直「おぉ〜」
   康介の厳しい目線が直に向く。下を向く直。マグネットを全て外す歩
   上。
歩上「キーパーが琴さん」
琴「えっ」
歩上「キーパーが好きなんだよね?」
琴「はい。(驚いて)でも何で」
歩上「僕のシュート止めてたじゃない」

×   ×   ×

〈フラッシュバック〉

歩上「全力シュート」
   琴が止める。

×   ×   ×

歩上「良い反応してたよ」
琴「ありがとうございます!」
康介「いや無理でしょ。真面目にやってよ」
歩上「僕は真面目だよ。琴さんは出来ると思ってる」
康介「ちょっと練習見ただけの癖に」
歩上「ディフェンスは誠君と茂海君、椎野君」
誠「え?」
椎野「僕ですか?」
茂海「僕は出られればどこでも!」
歩上「ハーフは二人。新君と康介君」
康介「いい加減にしてよ。このチームは俺が得点源なの。フォワード以外有
 り得ない」
二「口の聞き方」
康介「有り得ません」
   呆れる二。
歩上「で、トップは上月君」
康介「よりによって上月って」
上月「何だよ」
康介「いや、、」
歩上「滝下君と鰻町君は控えになるけど、ソサイチは交代も自由に出来る。
 試合には絶対に出られるからね」
滝下「(納得いかない)はぁ」
直「戦術はどうするんですか?」
歩上「戦術は皆んなで作り上げて欲しい」
康介「そんな適当な」
歩上「適当じゃない。チーム理念は、」
直「チーム理念?」
歩上「このチームが一番大切にすること」
直「なるほど!」
   ホワイトボードに書く歩上。
琴「困難を解決するチーム?」
歩上「これを試合に勝つよりも大切にする」
康介「勝たなきゃ意味ないよ」
歩上「大丈夫。きっと上手くいく」 

○帰り道(夕)
   康介、直、琴、椎野が歩いている。
康介「勝利が全てじゃない。よく大人が言うやつだ。大人って同じ事しか言 
 わないよな」
琴「何がそんなに不満なのよ」
康介「琴は良いよな、やりたいポジション出来るんだから」
琴「今そんな話してないでしょ」
康介「これなら南蛇井監督のままで良かった」
椎野「南蛇井監督のこと好きだったっけ?」
康介「勝ちにはこだわってた」
直「これからのチームも勝てます。きっと」
康介「試合に出ない奴が何言ってんだよ」
琴「人に当たらないでよ」
椎野「ま、でも俺も不安の方が大きいな」
琴「そりゃ私も不安はあるけど」
康介「大人の『大丈夫』なんて信用できない。ああ言っておけば、子供は思
 い通りに動くと思ってんだよ」
   康介を心配そうに見る直、琴、椎野。

○HEYHEYオフィス・グラウンド(翌日)
   フットワーク軽くパス回しをする上月、琴、椎野、茂海グループ。
   不貞腐れている様子の康介、新、誠、滝下グループ。
二「どうしたんだよ。やる気出して。ほらパススピードを意識して」
   二、煽るがパススピードは遅いまま。
   歩上と久美が来る。
二「練習に身が入らないみたいで」
歩上「(伏し目がちに)あ、、、そうですか」
久美「何かやらかしたの?」
歩上「何もしてないよ」
   歩上、ボールを拾いに行き、誠にパスする。ボールをスルーする誠。
歩上「(笑顔で)おい、誠君」
   転がるボールを拾いに行く歩上。
歩上「あ、鰻町君、今日からは君も練習に参加して」
直「え?あ、はい」
   歩上、直にパスを出す。
歩上「監督を目指すにも練習はしておいた方が良いと思うんだ」
直「分かりました」
   歩上、康介にパス。康介は歩上を睨む。
歩上「君達はいつまで不貞腐れてるんだ?ちょっと自分の希望と違っただけ
 じゃないか。やってみたら良い結果になるかもしれない」
   康介、ボールを遠くに蹴り飛ばす。
   歩上、呆れて帰っていく。
久美「ちょっと、どうするの」
   歩上を追いかける久美。
歩上「君の思惑は外れたな。大人も子供も同じだ。拗ねた人間は、やる気の
 ある人の足も引っ張り始めるぞ」
久美「まだ分からないじゃない」
   歩き続ける歩上。
久美「今拗ねてるのはあなたよ。課題に向き合うヒントぐらいあげなさい
 よ」
   歩上、しばし進むと立ち止まり振返る。
歩上「まずは今の困難が何かを突き止めよう。その後は自分の正直な気持ち
 に従う。以上」
   言うと、すぐに踵を返し歩いて行く。
   久美、呆れて溜息。

○同・外
   南蛇井がその様子を見ている。笑みを浮かべる。

○同・グラウンド
   康介の顔色を伺う誠と滝下。新は上月たちのパス回しに加わる。康介
   はその場を離れ、ストレッチを始める。直が誠にパスをすると誠は滝
   下へパス。三人でパス回しを始める。

×   ×   ×

   歩上が覗きに来る。試合形式の練習中。康介が元気にプレーしてい
   る。その様子を見て、嬉しそうに走ってくる歩上。
歩上「僕も混ぜて!」
   康介、プレーを止める。
康介「監督、もう練習は終わりますよ」
歩上「いいじゃん、ちょっと延長したって。一万時間に近づけるよ」
   琴がクスっと笑う。
康介「監督、試合は俺らの力だけで勝ちます。指示通り動かなくたって試合
 中に監督は何も出来ないでしょ」
   歩上、考えている。
歩上「いいじゃないか!そうだ、自分達の力でやってみよう」
康介「監督やる気あんのかよ」
歩上「丁度良かった。試合の申し込みがあって、明後日って言われたんだけ
 ど流石に急かなと思って迷ってたんだ」
二「どこのチームですか?」
康介「(メモを見て子供達に)湘東SC。まだ断れるけど、どうする?」
康介「やる。で良いよな?」
   一同、口々に同意する。
康介「俺らのやり方でいいんですよね?」
歩上「もちろん!」
康介「勝ったらこのチームの事に口出ししないでください」
歩上「いいよ」
直「そんな約束して良いのですか?」
歩上「困難を解決するチーム。今の状況を解決できれば、そもそも僕が言う
 事はないよ」
直「でも、僕の記憶だと湘東相手に負けたことはないですよ」
歩上「そうなの?ま、でもそんな簡単にはいかないと思うよ」
   不思議がる直。

○サッカー場・グラウンド(翌々日)
   東堂一(41)が歩上に握手を求める。
   歩上、その手を少し握って離す。
東堂「急な申し出にも関わらずありがとうございます」
歩上「いえ、大丈夫です。全然、、、はい」

○同・湘南ソサイチ側ベンチ
   湘南ソサイチのメンバーが康介を囲むように並んでいる。フォーメー
   ションボードにマグネットを並べる康介。
   久美が心配そう。歩上、来る。
久美「向こうの監督と挨拶できた?」
歩上「完璧。握手もしたよ」
久美「凄いじゃない」
歩上「(照れて)普通だよ」
   康介、マグネットを並べ終わり、
康介「いつも通りやれば勝てる。ボールを取ったら、とにかく俺に回してく
 れ」
上月「監督に言われるのとお前に言われるのじゃ気持ちが違うんだよな」
康介「今日は特別負ける訳にはいかないんだ。上月、今日だけ我慢してく
 れ。頼む」
上月「(気押されて)おう」
歩上「そうだよ皆んな。議論の時間は一旦終わりにしよう。疑問が生まれる
 と、そこから崩れだすからね」
新「それを監督に言われるとまた変な感じが」
康介「監督、そういうのもいらないです。全部自分達で出来るんで」
歩上「でも交代の指示はするからね」
康介「(舌打ち)わざと負けさせるような交代は止めてくださいね」
歩上「しないよ。応援してる!」
   康介、鬱陶しそうに顔をしかめる。
康介「(切り替え)よし、行こう!」
歩上「円陣とかやらないの?」
康介「いつもやらないんで」
   バラバラと試合に向かう。
久美「いいの?こんなの普通じゃない」
歩上「それは普通の定義にもよる。子供に考えさせる事を普通にやってる所
 もあるよ」
久美「そうかもしれないけど」
歩上「応援しよう」
久美「はぁ」

○同・グラウンド
   湘南ソサイチのキックオフ。主審がホイッスルを鳴らす。

             (第一話 終わり)




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