ソサイチ-Society- 第3話
○同・グラウンド
上月の元へ来る歩上。皆んなも集まる。
歩上「大丈夫?」
上月、立ち上がるが、足首が痛そう。
上月「康介、ナイッシュー」
上月、手を出し、ハイタッチをする。
歩上「滝下君、上月君と交代。誠君、鰻町君と交代しましょう」
直「えっ」
琴「今、直を入れるんですか?」
誠「まだ勝てるチャンスあるのに」
歩上「勿論。勝ちましょう」
不本意そうにベンチに行く誠。
上月を支えてベンチへ行く歩上。
歩上「円陣してみたら?」
よそよそしく円になる一同。
康介「新、言えよ」
新「ずりぃ。こういう時だけ」
琴「円陣って皆んな、何て言ってるの?」
直「行くぞーとかですかね」
椎野「ファイトーとか」
琴「三文字っぽいよね」
審判「(時計を見て)早くして」
康介「何でも良いから三文字言えよ」
新「(ファイトと行くぞが混ざり)ファイぞー」
一同「おー」
新が恥ずかしそう。クスクスしながら自分のポジションへ行く一同。
× × ×
残り1分。3−3。湘東が自陣でボールを回す。滝下に続いて直が追い
かける。
直「康介君、新君、追って」
追いかける康介と新。新の足にパスが当たり、ボールがこぼれる。直
の元へ。
康介「行け、直」
モタモタしてしまいボールを奪われる。すぐさま新がフォローし、ク
リア。
新「直、大丈夫。自信持って行こう」
下を向く直の元に康介が来る。
直「ごめん」
康介、直の頬を掴み、無理矢理笑顔を作る。
康介「声出しサンキュ」
直「ありがとう(話しづらそう)」
湘東のスローインで再開。
直、必死で追いかける。カバーにきた茂海。対峙。相手が、追いつい
た直に目を奪われた隙にボールを奪う茂海。
○同・湘南ソサイチ側ベンチ
上月「ナイス!」
誠「康介、チャンス」
○同・グラウンド
ボールは康介がキープ。新に預け、ワンツーで前を向く。康介、滝下
へパス。滝下はシュートを打つがディフェンスに当たりサイドに流れ
る。椎野がタッチラインぎりぎりでボールを拾い、センタリング。滝
下がジャンプするが届かずクリアされ、直の前に転がる。
椎野「打てる」
直はボールへと走るが自信なさげ。
○同・湘南ソサイチ側ベンチ
立ち上がる上月と誠。歩上も力が入る。
○同・グラウンド
康介「打て!」
直、シュートモーションに入る。
祈るような表情の琴、新、滝下。
直がシュートを打つ。しかし、ボールはゴールの枠を外れていく。
○同・湘南ソサイチ側ベンチ
上月と誠が力が抜けたように座る。
○同・グラウンド
直が呆然とボールが飛んだ方向を見ている。試合終了のホイッスル。
○同・湘東SC側ベンチ
南蛇井が戻ると、東堂が怒りの形相。
南蛇井「良い試合でしたね。引き分けですよ」
逃げるように荷物をまとめる南蛇井。
○同・グラウンド
直の元に集まる一同。
新「直、惜しかっ(直の様子に気づく)」
号泣している直。
直「ごめんなさい」
琴「何泣いてんのよ」
椎野「俺達皆んな、良くやったよな」
口々に同意する。歩上、誠が来る。
琴「上月は?」
誠「ベンチにいる」
康介「足、そんなに悪いのか?」
誠「いや、」
○同・湘南ソサイチ側ベンチ
上月が泣いている。
誠の声「泣いてる」
○同・グラウンド
滝下「上月が?」
直が笑い出す。
康介「泣くのか笑うのかどっちかにしろよ」
○同・湘南ソサイチ側ベンチ
子供達の前に歩上が立つ。久美がその様子を見守っている。
歩上「どうだった?」
椎野「もうヘトヘト」
滝下「今までの試合の疲れと違うよな」
茂海「新が円陣で変な掛け声したから余計に」
新「急に言われたから焦ったんだよ」
笑っている一同。康介だけ表情が硬い。
琴「疲れたけど、楽しかった」
新「いつもの試合と全然違った」
上月「ポジションが違うから?」
直「それもだと思いますけど、おそらく試合の作り方が違ったからではない
でしょうか」
微笑ましく見る歩上。
歩上「康介君はどうだった?」
タオルで顔を拭く康介。皆んなの視線が集まるのを察して、
康介「楽しかった」
笑顔になる一同。上月が康介の頭を勢いよく撫でる。
康介「やめろよ」
歩上「一万時間の法則」
歩上に注目する子供達。
歩上「一万時間ってとてつもなく長い。それに長時間の練習は、集中力がな
くなり効果が薄くなる。つまり、大切なことはストイックさじゃない」
頷く子供達。
歩上「好きこそ物の上手なれ」
康介「(バカにして)諺?」
歩上「昔に作られた言葉が今も残っているのは、そこに何かのヒントがある
からだよ」
真剣に聞く子供達。
歩上「時間なんて気にするな。楽しめ!」
子供達が笑顔に。
子供達「はい!」
久美が歩上に拍手を送る。
歩上「僕は君達の監督になりたい」
琴「何ですか、今更」
歩上「ちゃんと言ってなくて、申し訳ない」
と、頭を下げる。
康介「いちいちムズムズするんだよな」
直「僕は歩上監督から教わりたいことがたくさんあります」
新「プレーの基礎は僕が教えるよ」
椎野「俺も」
琴「私も」
上月「俺も」
直「ありがとうございます(感極まる)」
琴「何で泣くのよ」
直「僕達は良いチームかもしれません」
各々、直の頭を撫でたり、ちょっかいを出す。
○HeyHeyオフィス・社長室(翌日)
平平の前に歩上と久美がいる。
平平「昨日の試合、引き分けだったんだね」
久美「でも、良い試合だったのよ」
平平「いや、違うんだ。今までは試合の後はSNSでネガティブな意見が多
かったけど、一件も見当たらなかった。これは一つの成果として捉えてい
ますよ」
歩上「ありがとうございます」
平平、出ていく。久美がホッとする。
久美「そういえば昨日の試合、勝つ為の秘策って何だったの?」
歩上「あぁ、アイデアは笑顔の人にやってくるって伝えたんだ」
久美「それだけ?」
歩上「元々、力のあるチームだし、相手が研究してきてたから、やり方さえ
変えれば上手くいって当然だよ。出来れば勝たせてあげたかったけど」
久美「上出来よ」
歩上「目の前の課題を解決しただけ。それ以上はなかった」
久美「これからに期待ね」
嬉しそうな久美。
○同・練習場
歩上と久美が来る。二が駆け寄ってくるのが見える。挨拶の練習をす
る歩上。
歩上「(小声)おはようございます。二コーチ、どうも。(顔をキ
リッとさせ)おはようございます」
久美「何やってんの?」
二「監督、よろしいですか?」
歩上「こ、こ、こんちは」
上手くいかず苦い表情。
二「そんなことより、」
心外な様子の歩上。
二「康介がチームを辞めると言ってます」
歩上「え?」
(第三話 終わり)
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