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ソサイチ-Society- 第2話

○同・グラウンド
   湘南ソサイチのキックオフ。康介がボールを下げ、滝下が受ける。
   滝下、そのままドリブル。ディフェンスに体をぶつけて進んでいく。
東堂の声「ボールを見ろ!」
   湘東DF、滝下から体を離し、ボールに向かって足を伸ばす。取られ
   る滝下。
滝下「あれ?」
康介「しっかりしろよ!」

○同・湘南ソサイチ側ベンチ
   歩上、湘東側ベンチを見て笑う。直が不思議そうに歩上を見る。

○同・グラウンド
   湘東がゴール前まで運ぶ。新がマークに付いてドリブルで仕掛けてき
   た所を上月が奪い、前線へ蹴る。康介が走り、トラップ。DF2人を
   交わし、シュート。ゴールが決まる。
康介「よしっ!」 

○同・湘南ソサイチ側ベンチ
   立ち上がる歩上、久美、直。
歩上「やったー!ナイス康介君!上月君もナイスパース!」
   久美と直、顔を見合わせる。
直「素直に喜べないですね」
久美「私も同じ気持ちよ」
直「あ、危ない!」

○同・グラウンド
   琴が抜かれる。湘東はサイドにパスを出すとすぐに中に戻す。
   ゴール前に走り込んだFWがゴールを決める。

○同・湘南ソサイチ側ベンチ
   歩上がニヤニヤしている。
久美「何笑ってんのよ」
歩上「え?楽しいから」
   久美と直、呆れて溜息。もどかしく試合を見ている椎野。

○同・グラウンド
   上月から康介へのロングボール。湘東は康介の周りに三人いるが誰も
   競らない。康介がトラップした瞬間に囲み、ボールを奪う。

○同・湘南ソサイチ側ベンチ
歩上「完全に狙われてたね」
直「うちのパターンを知っていますね」
歩上「今まで通りで上手くいかない時、アイデアが解決してくれる」
直「(考える)椎野君を入れるとどうでしょう」
椎野「え?」
歩上「フィジカル重視だと椎野君は中々試合に出られなかったよね」
椎野「点差が開いてからがほとんどでした」
歩上「このチームでは、君の特徴を生かしてほしい」

○同・グラウンド
   湘東がゴールを決める。
康介「何やってんだよ」
   ピッチサイドに椎野と直が立っている。
椎野「康介、上月」
   康介、「は?」と顔を歪める。

○同・湘南ソサイチ側ベンチ
   康介と上月が不満そうに来る。手を叩いて迎える歩上。
康介「わざと負けさせるような交代はしないでって言いましたよね?」
歩上「まだ前半。勝てるよ」
上月「でも、この状況で直を入れるのは・・・」
歩上「彼は戦術に一番詳しい」
康介「俺と上月なしで戦術って言われてもな」
歩上「君達はお互いを認めてるよね」
上月「え!」
   康介と上月、照れ臭い。
歩上「何故いつもは勝てる相手に苦戦してると思う?」
康介「ミスが多い」
   歩上、上月に促す。
上月「読まれてる」
歩上「そう。後ろから見てると分かる?」
上月「何となくですけど」
久美「あぁ!また入れられた」
   康介、立ち上がる。
康介「監督、交代!」
歩上「ちょっと待って」
康介「でも、もう3−1」
歩上「鰻町君が狙われてるね。何でだと思う?」
康介「いちいち聞かずに答えを教えてよ」
歩上「考えて。勝ちたいんでしょ?」
   康介、座る。
康介「俺らの事を研究してきたってこと?」
歩上「そして僕らの戦術は、今まで通り」
上月「でも、それなら今までだって苦戦してたはずでしょ」
歩上「上月君は良い所に気が付くよね」
   上月、康介にドヤ顔。
歩上「相手のベンチを見て」 

○同・湘東SC側ベンチ
   東堂の後ろに南蛇井がいる。
康介の声「南蛇井監督」

○同・湘南ソサイチ側ベンチ
康介「南蛇井監督が俺らのことを」
上月「知ってたんですか?」
歩上「まあね」
康介「何で黙ってたんですか」
歩上「口出しするなって言うから」
康介「これは違うじゃん」
康介「ダメだ。こんなんで勝てる訳ない」
歩上「意外と諦め早いね。勝たなきゃ意味がないとか言ってた癖に」
久美「(冷ややかな目線)煽らない」
上月「勝てるんですか?」
歩上「分からない」
康介「何だよそれ」
歩上「でも、勝つ確率は上げられる」

○同・グラウンド
   ボールを奪う新。
直「ショートパスで繋ぎましょう」
   新、ボールを大きく蹴る。直、呆然とボールの行方を目で追う。ボー
   ルは椎野の元へ。椎野が個人技で抜いていく。
直「誰かフォロー」
   誰もフォローに行かないと気付き行く、直。
   椎野、直にパスをするが、奪われる。
   前半終了のホイッスル。誠、直に近づき、凄む。逃げるようにベンチ
   に戻る直。

○同・湘南ソサイチ側ベンチ
   新がタオルを叩きつける。
新「何でこんなに上手くいかない!」
康介「向こうに南蛇井監督がいる」
   一同、驚く。
滝下「じゃあ絶対無理じゃん」
歩上「絶対?前半と同じだけ時間があるよ。前半で良かった点は?」
琴「椎野のドリブルは良かったかも」
歩上「何故だと思う?」
康介「研究されてない」
歩上「そう。でも後一つ忘れちゃいけないのは、椎野君に技術がある事だ」上月「それは、まあ」
歩上「言うまでもない様な些細な事も言った方が良い。本人は意外と自信を
 持てないものだから。他に良かった点は?」
新「研究されてた割には二点差って良い方じゃない?」
一同「確かに」
歩上「鰻町君の声掛けはどう?」
誠「でもすぐ取られてたし」
琴「声掛けのことよ」
椎野「フォローに来てくれたのは助かったよ」
歩上「鰻町君の技術はこれから身に付く。判断の良さとは分けるべきだよ」
琴「誰もフォローに行かなかったから行ったのよね?」
直「はい、でも最初から自分で行けばボールを取られずにパス出来たと思い
 ます」
滝下「皆んな足が止まってたから」
歩上「先制点を取ったのは僕たちだ」
上月「康介のシュートは分かってても止められない」
   照れる康介。
歩上「後半はフォーメーションを変える」
琴「いいの?康介」
康介「勝つためだ。仕方ない」
歩上「景色が変わるよ。決して一人でプレーをしない。ボールを持ってる時
 も持ってない時も、考えて周りを見よう。君達の力が生きるのは、それが
 出来てからだ」
一同「はい」
歩上「一つだけ、勝つための秘策を教えるね」
   歩上に体を近づける一同。

○同・グラウンド
   審判がホイッスルを鳴らす。湘東のキックオフ。前線から守備に行く
   上月。湘東の選手が戸惑っている。

○同・湘東SC側ベンチ
   南蛇井が慌てている。
南蛇井「(繕って)どうせ付け焼き刃ですよ」
   黙って戦況を見守る東堂。

○同・グラウンド
   上月が新にパスを出す。
康介「(周りを見て)椎野、上がれ」
   椎野、サイドを駆け上がる。新は椎野へパス。しかしパスがズレて通
   らない。

○同・湘東側ベンチ
   南蛇井がホッとしている。

○同・グラウンド
   直、ピッチサイドに来る。手を叩き、
直「ドンマイドンマイ!良い連携でした!」
   椎野が新に拍手を送る。茂海が新の頬を掴んで無理矢理笑顔にする。
椎野「康介、サンキュ」
康介「おう」
   椎野、ディフェンスラインへ戻る。
康介「椎野」
   椎野、振り返る。康介が駆け寄る。
康介「サイド空くから上がれよ。フォローするから」
椎野「勝とうな」
康介「うん」

×   ×   ×   

   湘東がゴール前にボールを運ぶ。
茂海「誠、8番」
   誠、足を伸ばすが届かず、シュートを打たれるも、琴がキャッチ。
琴「誠、ナイス!惜しかったよ!」
誠「おお」
   琴、ボールを椎野へ。椎野のドリブル。
   敵が奪いに来るが、康介がフォローに入り、預ける。康介は走り続け
   る椎野にパス。椎野のセンタリングを中で待っていた上月がヘディン
   グし、ゴールが決まる。

○同・湘南ソサイチ側ベンチ
   歩上が立ち上がりガッツポーズ。直と滝下も立ち上がりハイタッチ。 

○同・グラウンド
   上月、椎野、信じられない様子。
   ピッチサイドに来る歩上。
歩上「ナイスゴール!」
   康介と上月、抱き合う。椎野も来る。
椎野「1点差!」
康介・上月「おう!」
   自陣へ戻っていく。
康介「琴、ナイスキーパー」
琴「湘南ソサイチ、ここから行くぞー!」
一同「おう!」

○同・湘東SC側ベンチ
   南蛇井が立ち上がる。
南蛇井「残りの時間は守備を固めろ」
東堂「南蛇井さん、困ります」
   南蛇井、東堂を払い除け、
南蛇井「ここで勝てば子供は自信がつきます」
東堂「そうかもしれませんが」
南蛇井「あなたのやり方じゃ勝てない!」
   南蛇井、ピッチサイドへ行く。

○同・グラウンド
   湘東の選手達が戸惑っている中、ホイッスル。湘東のキックオフ。
南蛇井「攻めなくていい。守れ守れ!」
   パスが弱く、康介がボールを奪う。
南蛇井「何やってる。まずはサイドに出せ!」
湘東の選手「守れって言うから」
南蛇井「ゴール前を固めろ」
   康介が上月へパス。上月は新へパス。
   新は上がってきた誠へパス。誠がトラップミスをするが、茂海がカバ
   ーする。茂海は上月へロングパス。上月がヘディングでスペースへ。走
   り込んだ椎野、中にいる康介へパスを送る。康介のシュートはディフ
   ェンスに当たってコーナースローになる。
椎野「康介、惜しい」
康介「上月、競り勝てよ」
上月「おう」
南蛇井「上月にジャンプさせるな!」
   椎野のコーナースロー。上月が飛ぶ瞬間、湘東の選手が体をぶつける
   と、体制が崩れる。片足で着地する上月、痛みが走る。ボールは康介
   の前に。シュートを打ち、ゴールが決まる。

○同・湘南ソサイチ側ベンチ
   歩上、直、滝下が駆け出していく。

○同・グラウンド
   上月の元へ集まる一同。
歩上「大丈夫?」
   上月、立ち上がるが、痛そう。
上月「康介、ナイッシュー」
   上月、手を出し、ハイタッチをする。
歩上「滝下君、上月君と交代。誠君、鰻町君と交代しましょう」
直「えっ」

             (第二話 終わり)

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