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あのラーメン屋が閉店

知人のラーメン屋が閉店
 
「え!あのラーメン屋が店を閉めるって本当?」
「あれだけ常連客がいたのに」
突然の話で驚いた。しかも閉店まであと3日という。
 
店長は小学校の時からの同級生。学校を卒業した後、横浜中華街で修行し、修行を終えるとすぐに生まれ故郷にもどった。そこで小さなラーメン屋をオープンした。
 同窓会が行われると二次会、三次会と飲み歩く中で、最後に行き着く場所はいつも彼のラーメン屋だった。みんなでラーメンを食べ、冷蔵庫からビールを出し、懐かしい話はさらに盛り上がる。
 
何年経ってもお店を広げようとしなかった。いくつかのカウンター席とテーブル席。店を閉めるまでそれは変わらなかった。
さまざまなものが大盛りだった。小盛りを頼んでちょうどいい感じがしていた。それでも並盛り、大盛りとメニューを加えた。
「これでこの値段だとやっていけるのか?」と尋ねても、「このままがいい」といつも言っていたという。
 
突然聞いた閉店の話。閉店3日前の平日に店に行った。開店まではまだ40分はあるというのに、店の前には30人以上もの人が開店を待って並んでいた。開店時間が近くとさらにその列は長くなった。
待っている人たちは、「ここの店の味、忘れられないよな」「テイクアウトだけでもいいから続けて欲しいけどね」と閉店を惜しむ言葉が聞こえてきた。なかには「俺が店員となって、この店、続けられればいけどね」と、隣で奥さんらしき人が「いまの仕事どうするの?」とツッコミの声も聞こえてきた。「閉店まで俺は毎日くるぞ!」という男性2人の声も。
 
店から彼が出てきて、古びたすだれを入り口に掛けた。オープン当時からのものだろう。待っていた人が一斉に店内に。小さな店の中はあっという間にいっぱい。まだ外には長い列ができたままだった。
 
私の前にラーメンが置かれた。彼は会話をする間もないほど、厨房を動き回っている。ちらっと目があった。
「なんでやめちゃうんだ?」
「まぁ、いろいろあるからさ」
彼の言葉はそれだけだった。
 
店を出ても、彼が作ったラーメンの味が舌に残っていた。