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ナカさんの読書記録 アゴタ・クリストフ「悪童日記」

WEBで予約して、借りたり返したりの図書館通いです。
坂をちょっとのぼり、数分の場所にあるので散歩にちょうど良い。
貸出カウンターの前に新着図書コーナーがあるので、パパっとそこから見繕って借りて帰ってくることもあります。(この時節長居しないようにしている)新着だと本もキレイですし、自分の興味範囲外の本も目に留まります。

ハンガリー生まれの作家、アゴタ・クリストフ。パラパラっとめくって見て文章が平易だし、日記の形をとった小説は好きなので借りてみました。
戦争を題材にした物語なので内容は陰鬱で重かった。。。悪童日記というから子供の可愛らしい悪戯が繰り広げられる少年小説のようなのをイメージしてたのに。。でも不思議と後味が悪くないのは日記形式だからでしょうか。

双子の少年たちが主人公。戦争で祖母に預けられるところから物語が始まります。全編通してまず「感情についての表現」が殆ど出てきません。悲しいとか辛いとか嬉しい、とかほぼ無い。出来事のみが綿々とつづられます。双子たちは森の隅で世捨て人のように暮らすおばあちゃん(魔女とよばれている)と共に生きる日々が綴られているのですが、「すべて棒読み」な感じがして、ゾッとする。貧困とか死とか略奪とか歪んだ性欲とか、おぞましい出来事が描かれていますが、双子たちの「何が起きても感情を排した無表情な日記」が逆に恐ろしさを感じさせます。
戦争下の絶望的状況を生きていかなければならない幼い双子。祖母や周囲からの罵詈雑言に耐え抜くためにお互いに罵り合って「どんな言葉にも動じないでいられる」練習をしますが

しかし、以前に聞いて、記憶に残っている言葉もある。おかあさんは、ぼくらに言ったものだ。「私の愛しい子!私の秘蔵っ子!私の大切な、可愛い赤ちゃん!」これらの言葉を思い出すと、ぼくらの目に涙があふれる

最初のうちは母を思い出し涙していた双子たち。壮絶な生活を経たのちにようやく母親と再会。しかし母は双子たちの目の前で爆撃により惨死します。

従妹が町から帰ってきて、訊ねる。
「何かあったの?」
ぼくらは言う。
「うん、砲弾が落ちてね、庭に穴が空いたんだ」

血だらけになった自分たちの母親を黙々と穴の中に埋める。
戦争は人の心からすべての感情を抜き取ってしまうのか。
精神が極限まで追い詰められると何の感情も湧かなくなるのか。
感情の無くなった人間が一番恐ろしい。
この物語はハンガリーが舞台ですが、戦争が起きればこのような不条理は世界中どこでも起こるのでしょう。戦争は人間の心や理性を破壊する。

戦争の非情な現実を、鍛錬と優れた頭脳でしたたかに生きていく双子たち。
物語は国境越えで終わっていますが、続編に当たる作品として『ふたりの証拠』と『第三の嘘』という2冊があるそうです。さっそく図書館で予約しました。めちゃくちゃ続きが気になる終わり方だったので早く読みたいです。

2020.7


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