絵画

 秋風が立つ。冬の足音が近い。季節はいつの間にか移り変わっていく。
 時間だけは平等に時を人々に分配する。そして、その価値は人によって決まる。私にとって時間は今となっては恐怖の対象でしかない。
 朝が来て、夜が来る。日が昇り、日が沈む。刻々と冷酷な時間は私を常に焦らせる。「何かしなければ!」という焦燥感を、ベッドに横たわる私の心に残したまま過ぎ去っていく。薬のお陰で、死がすこしだけ遠ざかるのは良いことだが、ずっと脳の片隅に滲んでいる。真っ白な紙に墨を落とすのと同じである。どれだけ水を垂らしても滲むことはあれど消えることはない。墨が薄く広がるだけである。
 もしも、その紙を戻したければそれは、死んで生まれ変わることしか出来ぬ。なんと人生とは不便なのだろう。なるほどそうか、だから大切にしなくてはならぬのか。選択肢によって美しくも汚くもできる。
 なるほど得心がいった。さすれば、墓や棺桶は額縁か?
 私は私という絵画。人生という絵画。どんなに失敗しても描き直すことはできないキャンバス。それが人生か。
 さすれば、自分のキャンバスにはどんな絵が描かれているのだろう。

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