そこに太陽が二つあったから【エッセイ】
幼稚園児たちの絵画展がいま開催されている。実はそこに娘の絵が飾られてるということなので一時間ほどの距離にある文化会館まで車を走らせた。
ドライブ中、娘の顔は少し誇らしげだった。
何せ自分の絵が選ばれたのである。5歳半の女の子とはいえ意気揚々にもなる。
ばあちゃんを含め、家族でぞろぞろと会場入りする。3歳半の息子も一緒だ。
毎年のことだが沢山の絵が飾られていて、こどもの作品とはいえ圧倒される。県内の各地から集められた園児達の作品、『この絵もイイね』なんて話しながら皆で歩いていると、しばらくして娘が通う幼稚園の子の作品が並ぶコーナーに入った。
ここに娘の絵があるはずだ。
さてどれだろう?
実は全ての作品に共通なのだが描いた園児の名前は記載されていない。だからどれが娘の絵なのかは分からない。なんとなくこれっぽいなという絵はあるのだがどうも確証は持てない。
しばらく眺めていたが、結局のところハッキリとは分からなかった。そこである程度の目星をつけて娘に訊ねてみた。『これじゃない?』と、、
しかし、驚いたことに返ってきた娘の応えは「ここには私の絵がない」だった。衝撃。そんな訳はないだろうと私達は思ったが、娘は依然として否定し続けた。ここに私の絵はないと、、
娘の表情が極端に暗くなるのに気付いた。
こうなると娘は口を開かなくなる。困ったものだ。何を訊ねてみても「分からない」の一本調子になってしまった。傍に居たおばあちゃんも戸惑うばかりだ。
たぶん絵のタッチから『この絵が娘の作品だと思うんだけどな』っていうのがあったんだけれども、娘は違うと否定するばかりだった。
いい絵だと私は思ったが、、
残念なことにその絵には太陽が二つ描かれていた。
だんまりを決め込む娘に私達は為す術もなく会場を後にすることになった。その後も娘は自分の描いた絵について語ることはしなかった。
そして事態が変わったのは晩ごはんを食べた後の帰りの車の中だった。ようやく娘がつぶやいた。
「私、太陽を一つしか描いてないのに、、あれは私の絵じゃない、、」と
『そうか、そういうことだったのか』
つまりはあの会場で娘は気付いてしまったということなのだろう。自分の痛恨のミスに。
そして、最後まで認めたくなかったのだろうな。
泣きはしなかったが、娘はずっと暗い口調のままだった。運転中の私は娘の表情を確認できなかったがおそらく悔しかったのだと思う。
どう慰めたら良いのだろう?
しばらくの沈黙のあと私は娘にこう伝えた。
「お日様はね、お友達を連れて来たんだよ きっと。いい絵だったからね。片方のお日様が独り占めしちゃいけないって思ったんだよ。」と、、
掛けた言葉は本当に苦し紛れだったけど、今はそれで良かったと思う。
2、3秒の沈黙があったが、やがて娘から「嘘だー」というツッコミが入った。
心のなかで『ああ、嘘だよ。』と思いながら、
ルームミラー越しにようやく笑ってくれた娘の顔を私は確認した。
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ここのコメントを目にしてくれてるってことは最後まで読んでくれたってことですよね、きっと。 とっても嬉しいし ありがたいことだなー