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ドクターでの遺伝子の研究を経て、カジノ業界へ!?広い視野を持つ意味/エンゼルグループ 山本崇史さん

奈良先端科学技術大学院大学(以下、奈良先端大)では、遺伝子に突然変異が生じるメカニズムの解明に関する研究を博士後期課程まで研究していた山本さん。大学の研究内容とは全く異なる、ゲーミング業界、カジノ向け製品を開発している企業に就職されましたが、その経緯や広い視野を持つことで得られること、仕事をする上で大切にしていることなどについて、詳しくお話を伺いました。 

山本 崇史(バイオサイエンス研究科 博士後期課程2017.3修了)
奈良先端科学技術大学院大学では、大腸菌を用いて、遺伝子に突然変異が生じるメカニズムの解明に関する研究に取り組む。博士後期課程修了後、エンゼルグループ株式会社に入社。入社後はカジノで使用されるテーブルマネジメント製品の研究開発を経て、現在はその特許分野を担当。

就職活動の経緯、入社を決めた理由

研究職も考えていましたが、広い視野で色々なものを見たいと思い、研究職以外も積極的に受けに行こうとなって、総合商社なども受けていました。仕事の職種で決めるのではなくて、仕事全体の内容、ビジネス自体で何か面白い業界や仕事はないかなという視点で就職活動をしていました。

自分が研究の世界にいて、研究していく中で、その分野で一番に発表しないと、新規性もなくなって論文にできないし、博士論文も書けません。だから、とにかく一番にならないといけない。そこから考えた時に、その業界の中で、これまでの売り上げにおいて、すごく一番強い立ち位置があるので、そういう場所で何か面白そうな仕事ができそうという視点と、業界の中で、シェアが一番という2つの視点で、様々な企業を見ていました。そして、一つの業界の中で世界一のシェアになって、仕事も面白そうな内容だったので、最終的に、エンゼルグループに決めました。

研究開発から特許分野へのキャリア変遷

簡単に弊社の紹介ですが、カジノ用のトランプを作っていまして、世界のカジノトランプの過半のシェア、特に、世界で一番売り上げの大きいマカオを含むアジア/オセアニア地域のほとんどのカジノは、弊社のトランプを使っています。また、圧倒的なシェアを持っているトランプのビジネスに加えて、ゲーム用のチップでは世界一のシェアを持っている会社を2019年に買収しています。

カジノにおいて、今までの、カードを使用したテーブルゲームは非常にアナログでした。ディーラーが、ゲームの結果を基にチップの支払・回収を自らの頭で計算し、取引を行っていたので、計算間違いや、取引のミスなど(チップの回収忘れ、誤った人への支払い等)が生じることで、カジノに損失を出していました。そこで、ディーラーが自分の頭で考えていたところをもっとデジタルにすることで、ディーラーのミスを軽減できたり、万一の不正の防止に寄与できるのではないかと、弊社として考えた結果、人工知能を使って、テーブル上のカメラで賭けチップを読み取って、ゲーム結果を基に収支の計算、誰にいくら払って、誰からいくら回収するかをシステムが把握することで、ディーラーの取引をサポートするテーブルマネジメント製品を作り、その研究開発に当初1年目は携わっていました。

その後、2年目から現在までは知財部の特許グループに所属しています。今まで競合としてはトランプの業界でしたが、それがテーブルマネジメントの製品を開発することになり、更に競合相手が一気に広まったので、今まで全然対応していなかった競合他社がたくさん出てきました。そうなると、もちろん他社の保有する特許を侵害してはいけないので、特許を事前に調べないといけないという経緯になり、特許の担当になりました。

特許における仕事の面白み

自社で特許を出願して登録に導くこと。それが1つと、2つ目が他社の特許の調査。弊社が他社の特許を絶対に侵害してはいけないので、他社の特許を分析して、侵害しないように開発を進める提案を我々のチームからすること。また、他社が取ろうとしている特許を情報提供という形で、特許庁の方にすでに技術があるという文献を集めて渡し、他社の特許登録の動きを抑制させること。この2つを現在は担当しています。

まずは出願に関してですが…。本当に経営幹部の方々と距離が近いということがあって、社長からカジノ業界の行末など、色々なアイデアをもらって出願するのですが、その話を聞くことが面白いです。5年後、10年後を見据えて、「こんな世界になるかもしれない、だからこういう特許を出しておけば、非常に有利になるのではないか」というような話をしていただくので、面白いと感じています。

もう1つは…。毎週、各国の特許庁に新しく出願された特許がPATENTSCOPEという特許データベースに公開されますが、その公開を見ることが楽しいですね。競合他社が一体どういう特許を出しているんだろう、こんなことを考えているのか、こういう発明があるのかという気付きになる部分が本当に多くて、他社の特許調査は非常に面白いものです。

働く上で大切にしていること

特に意識していることが、何事にも目的は必ずあると思っています。だから、その目的を見失わないことは大事です。これは博士後期課程を経て、非常にトレーニングになったことにつながりますが、研究していた時は、基本的に学生の好きなように実験させていただいていたので、自分が気になることがあったら、そこを調べて研究していました。自分で考えてどうしたら良いか、どう行動したら良いかは、確かにトレーニングできたと思うんですね。

ただ、それを会社でやってしまうと、自分で考えてやり始めると、違うものが出てきてしまうことが起こったことがありました。そういうミスを防ぐために、特に会社の中で仕事をしているので、どういうことでも目的があります。特に私の場合、社長との会議、社長の指示を受けるので、絶対にその目的は守らないといけない、絶対にそこはブラさないようにしないといけないです。最初から達成すべき目的があるので、それを意識して、何でこの仕事をするのかを、定期的に自分の中で理解して直しながら進めていくことを仕事の上で、大切に考えています。

世界一のシェアを取る目標

弊社に来たきっかけは、カジノのトランプで世界一のシェアを持っていることでした。その後、チップについては、2019年の買収により世界一になりましたので、次は、人工知能を活用してテーブルに賭けられたチップをカメラで認識する「AIキャプチャー」、RFIDを使ってチップを読み取る「チップフロート」、プレイヤーに配られるカードを読み取ることができる電子式カードシューターである「エンゼルアイ」などを構成要素にもつ「テーブルマネジメントシステム」である「エンゼルアイコンプリート」で、シェア世界一を本当に取りたいと考えています。特に知財に携わっていて、似たようなテーブルマネジメント製品を出す競合他社の特許を見ているので、ライバルには絶対に負けたくないと思っています。この「エンゼルアイコンプリート」で世界一のシェアを取り、テーブルゲームのすべてのテーブルに、弊社のテーブルマネジメントシステムが入って稼働している世界を見たいですね。

目標を達成する上で、障壁になること

特許の世界には、特許を侵害する相手に対する訴訟があります。特許を侵害していると、裁判所が認めてしまうと、製品を世に出せなくなる。それはビジネスの上で致命的になります。更に、莫大な賠償金額を請求されるので、絶対に侵害してはいけないため、本当に注意して取り組んでいます。

現役の奈良先端大生へのメッセージ

やっぱり在校生の人に言いたいこととして、就活では、まず最初は広い視野を持とうという考えがあります。広い視野を持って、職種の内容にこだわらずに、自分が面白いと思う業界やビジネスを幅広く見ていくことも良いのではないかと思っています。

私は、D3(博士後期課程3年)の2月頃(研究の都合上、就職活動の時期を遅らせました)、京都大学主催の博士後期課程対象の説明会に参加して、たまたま弊社に出会って、初めて知りました。弊社は奈良先端大から車で10分もかからないほど、非常に近い距離にあります。本当に奈良先端大の学生に来てほしいと聞いているので、後輩がもっと欲しいと思っているところです。

奈良先端大を目指す学生へのメッセージ

奈良先端大は本当に24時間研究ができる環境が整っています。研究に打ち込みたいなら、奈良先端大以外ではこんなに恵まれた場所はないと思います。寮から研究室までは徒歩5分もかかりません(※ 寮、研究室の場所にもよります)。ぜひ寮にも入って、24時間、研究に打ち込んでください。

研究に没頭できる環境

奈良先端大は、24時間研究できるところが、とても良かったです。寮に住んでいましたが、寮から徒歩3~4分でラボに行けたので、夜の3時、4時に、よく1人で実験していました。自分のタイムスケジュールで、好きなだけ研究しようと思えば、できる環境だったので、それは本当に良かったなと、今でも思います。

実験の進め方にもよりますが、私は遺伝子の突然変異が生じるメカニズムの解明に関する研究をしていて、実験の対象として使う、モデル生物に大腸菌を使っていました。実験を始めるために、その大腸菌を培養するのが約12時間ほどなので、それに合わせて生活のスケジュールを組んでいましたね。研究が佳境に入ってきた頃は、最初の準備で大腸菌の培養に約12時間かかり、実験によっては、その後1時間おきにデータを取りながら、約5時間通しで取り組み、その合間には別の実験を並行して進めて、培養時間に睡眠時間を取れるように調整し、常に実験を回しながら、研究に取り組んでいました。

※この記事に記載した内容は取材当時の情報になり、会社名や役職名等は現在と異なる場合があります。