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とにかく実験して、新しいものを生み出し続ける楽しさ/保土谷化学工業 伊東俊昭さん

お話を聞いていて、本当に有機合成が好きということが伝わってきた伊東さん。現在のお仕事も奈良先端科学技術大学院大学(以下、奈良先端大)での研究領域に引き続き、有機合成の研究に携わっていて、実験三昧の日々を楽しく過ごされています。大学院時代の研究テーマに近い仕事に就くことができた、これまでの経緯と現在について、詳しくお話を伺いました。 

伊東 俊昭(先端科学技術研究科 博士前期課程2020年3月修了)
奈良先端科学技術大学院大学では、近赤外線領域の蛍光を発する物質の合成とその物性評価をテーマに研究。保土谷化学工業株式会社に入社。入社後は新規テーマ探索プロジェクトを担当して、日々、実験三昧。

就職活動を意識した時期

奈良先端大に入った直後には就職を意識していました。研究がうまくいけば、ドクターに進む道もありかと思っていましたが、「就職するなら、ここかな」と、M1(博士前期課程1年)の4月、入学時から探し始めていましたね。自分が作ったものを製品として世に出していきたいと思い、最終的には企業での研究職の道を選びました。

会社を選ぶ基準としては、自分が興味のある物質を取り扱っているかどうかが一番でした。有機電子材料の一つとして、今特にホットだと思っていた有機EL材料に興味があったので、その周辺材料を取り扱う会社を中心に探し、30社ほどピックアップしました。その結果、ご縁があった保土谷化学工業に就職することになりました。

研修〜配属後の業務内容

就職してからまだ二年目で、4月から三年目に入ります。一年目は、山口にある工場に行って研修をしていました。丸々一年間、工場の研修だったのですが、どうやって製品が作られるのか、その流れを包括的に学びました。

実際に、製造現場や製造をメインに携わっている人達と一緒に働いて、製品の作り方やどういう苦労があって製品ができるのかを学んだり、はたまた工場の安定稼働に必要不可欠である電気などのユーティリティを管理している部署で、その管理方法を学んだりなど、工場の中の全部署を一通り回りました。普段、実験室であれば、小さいビーカーレベルで合成していますが、製造現場に行くと、大きな釜で同じ事を再現していたことは衝撃的でしたね。釜の大きさが10000L以上と、とにかく大きいスケールで作った時は、小さいもので作っていた時と反応の様子が全く違ってきます。熱の伝わり方で、中まで温まらないことがハードルの一つになることなど発見が多くありました。

二年目に入ってから、新規テーマ探索プロジェクトという部署に配属されています。今後、会社で取り組んでいくテーマや事業の種を見つけてきて、保土谷化学工業で戦っていけるかどうかを研究しながら検討していく部署になり、有機合成を中心に取り組んでいます。日によってデスクワーク中心になる日もありますが、基本的には実験三昧ですね。自分の中ではもう願ったり叶ったりと言いますか、有り難くて良い部署に配属されました。新しいものを次々に作っていて、できた時の感動はすごいですよ。また、部署の皆さんも優しく、コミュニケーションをフランクに取りながら、研究を進めています。

社会人になって働く上で大事にしていること

研究職で、色々な新しいことに取り組める部署ということもあり、広い視野で様々なテーマに興味を持って、知識の幅を広げていくことを大事にしています。あとは、新しい材料や先端技術で、どういうものが出てきたのか、アンテナを張って、しっかりキャッチすることですね。論文を調べたり、化学工業誌を読んだりして吸収しています。

今の仕事のやりがいや面白み

新しいものを作っていることが一番のやりがいになります。作った新しいものが良い性能を示してくれた時には達成感もひとしおです。新しい知識や技術には、興味を持って取り組めています。テーマによっては共同で研究している時があるので、その相手から、どんどん新しい情報が得られるのは、非常に刺激になりますね。

うまくいかない時にリフレッシュする方法

リフレッシュする時は、ロードバイクが趣味なので、もう一心不乱に走り回ります。行き詰まった時は研究も忘れて、そういう時間も取った方がいいかなと思いますね。ロードバイクでは、50〜100kmほどの距離を走り回っています。山を走るのが特に好きで、今は筑波にいて、筑波山があるので、そこへよく走りに行っています。

奈良先端大の経験で今でも役に立っていること

一番役に立っていることは有機合成の力が身に付いたことですね。奈良先端大に入るまでは、ほとんどゼロに近い状態だったので、その状態から今会社で研究職として、有機合成の領域でやっていけていることは奈良先端大で培った力が一番強く効いているからです。

これからの目標や夢

会社としては、特許として権利にすることが特に重要なので、次々に新しいものを作って特許を取得することを目標にしています。また、課題に感じていることとして、類似する物質がタッチの差で別の会社が作っていたことですね。特に企業であると、スピード重視なところがありますので。

そして、研究者としての夢は、とにかく常に新しいものを生み出して続けることですね。そこに尽きると思います。

現役の奈良先端大生へのメッセージ

奈良先端大は、研究をやりたくて入学してくる人が多いと思っているので、大学院でとにかく研究にのめり込んで、色々な知識や経験を積んでいただきたいと思います。研究に打ち込んで、成果が出れば、自信になりますし、成果が出なくても、失敗からたくさん学ぶことは、自分の経験上、本当に多かったです。とにかく研究に打ち込んで、ガンガン実験してください。

奈良先端大を目指す学生へのメッセージ

奈良先端大は、研究する場所として、すごく充実していると思うんですよね。他の大学と比べても、研究機器も充実していますし、研究に打ち込める環境が揃っているので、研究にすごく意欲的な方にはピッタリ当てはまります。入学してたくさん研究して研究開発をリードしていく存在になっていってほしいと思います。

印象に残っている奈良先端大の生活

わざわざ大学から変えて研究しに来た場所だったので、研究のことしか考えていなくて、集中して、ずっとのめり込んでいました。当時は朝9時から夜10時とか11時頃まで研究室にいることもありました。

学部生の時は有機合成にあまり関わることがなかったので、最初は大きくつまずいていました。なかなか成果が出なくて辛かったですが、そういう時はやはり得意な人に聞くことが一番早かったです。一応自分でも調べますが、先生や先輩も反応を熟知していらっしゃるので、分からないところはすぐに相談して、聞きながら修正して進めていく感じでした。そして、分からないことが解明された時の達成感はすごかったですね。「やったぞ」「良かった」と。結局、一番欲しいものができたのは、最後の最後だったので、二年間、試行錯誤の毎日でしたが、その分感動も大きかったです。

研究でつまずいても、頑張れたモチベーション

辛くても、頑張れるのは、好きだったことに尽きるかなと思いますね。有機合成や化学が好きで、狙った物性はなかなか出なかったですが、失敗しても、自分で新しいものを作っているという感覚は細々でも、達成感が得られていました。一番大きな理由は好きなことだからだと思いますね。

※この記事に記載した内容は取材当時の情報になり、会社名や役職名等は現在と異なる場合があります。