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高校生の頃から望んでいた医療業界に就職できた体験談/大阪合成有機化学研究所 東條一輝さん

現在、医薬品原薬の研究をされている東條さん。とても大事に育ててもらった祖父が中学生の時に亡くなられたとのこと。「手術せず、もっと良い薬ができていれば、薬で治すことさえできていれば、おじいちゃんを助けることができたのではないか」と、薬を作りたいという思いに至ったことがきっかけで、高校生の頃から医療業界を目指すようになったそうです。その後、大学と大学院で、薬に関連した天然物の全合成をテーマに研究をされて、希望だった業界に就職することができました。どのように、自分がやりたいこと、思い描いていることを達成しているのか、お話を詳しく伺いました。

東條 一輝(先端科学技術研究科 博士前期課程2020.3修了)
奈良先端科学技術大学院大学では、薬に関連した天然物の全合成をテーマに研究。株式会社大阪合成有機化学研究所へ入社し、現在は医薬品原薬の合成研究を進めている。

就職活動の流れ、入社の決め手

M1(博士前期課程1年)の秋頃から、インターンシップに参加し、就職を意識し始めました。ただ、博士課程に上がることも考えていて、就職か進学かを迷っていました。とても悩みましたが、修士課程の段階で、いち早く医薬品に携われる研究をしたいと思い、就職することに決めました。

医薬品の研究においては、製薬メーカー、製剤メーカー、当社のような医薬品原薬メーカーなどがあります。当社への入社の一番の決め手は、医薬品原薬の合成研究を通して医薬品に携われることでした。 業務内容だけでなく、ワークライフバランスや福利厚生が良いという部分も含めて気になり、応募した結果、入社に至りました

「目指している化合物に対して、どのような合成手法を作っていくか」に関しては、 奈良先端科学技術大学院大学(以下、奈良先端大)と弊社で行っていることは同じで、研究内容もマッチしていました。

入社後の大まかな流れ

現在2年目社員となりましたが、新入社員当時は研修から始まりました。約1週間、本社に集まって医薬品に関する研修を受講するだけでなく、経営の仕組みがわかるようなワークの研修があり、それがとても楽しかった記憶があります。その後、配属先に配属されてから、その部署のルールなどを教わり、実験に入りました。ですので、2・3週間後には何かしらの研究を始めていました。1年目を振り返ると、夏頃には先輩と一緒に実験を行い、秋頃から新しい研究テーマに携わる際は、一人で実験を任されるようになっていました。現在は、先輩とチームで研究を進めています。

また、2年目になると、1年目の時は先輩に頼ってばかりでしたが、後輩ができると、頼ってもらう立場に変わるので、もっとしっかりしないといけないと強く感じました。

それから、上司の方に意見が言いづらいということはありません。若手でも、意見をはっきりということが出来る環境ですので、とても仕事がやりやすいです。

1日のスケジュール、実験室での過ごし方

出社して、まずはメールチェック等を行い、実験室で使った乾燥済みのガラス器具の後片付けをします。そして「今日は、こんなことをします」と、チーム内に自分のスケジュールを報告した後に実験を開始しています。大体、今は17時から18時頃に帰宅するという流れです。

実験の量だけを見ると、奈良先端大での研究と比較して、物足りないと感じますが、企業に入ると「業務時間」という時間制限があるので、いかに効率的に自分のやりたいこと・やらないといけないことを実施できるかが大事だと、身に染みて思います。

仕事をしていて楽しいと感じる時

上司や後輩と色々とディスカッションしながら、「こういうことをやってみよう」と決めたことを、実際に実験して、うまくいく方法が見つかった時は、とても楽しいですね。チーム一体となって成功していることに、喜びを感じます。

医薬品関連の研究におけるやりがい

学生の時は、自由に研究して、作りたい化合物さえ作ることができれば、OKという状況でしたが、企業で研究するにあたり、コスト意識を持つ必要が出てきます。また、医薬品は患者さんの体の中に入るものなので、製品として出来上がったものは、不純物がなく、品質の良いものでないといけない。これらを考慮した上で、研究を進めることがやりがいにつながっています。

仕事に取り組まれる中で、大事にしていること

仕事で一番大事なことはコミュニケーションだと思っています。直属の上司や後輩、管理職の方であっても、意見交換は仕事を円滑に進めていく上で、とても大事です。自分で決めた研究手法を進めていく中で、「これは、こういう風に考える必要があるよ」と、自分では全く考慮していなかった意見をもらった時には「確かにそうだ、考えておこう」となります。そういう時に、コミュニケーションの重要性を感じ、活発に意見交換をしていて良かったと思います。

今の仕事で役に立っている、大学院で身に付いたもの

大学院時代は夜中まで頑張って実験して、忍耐力がとても付いたと思っています。現在、嫌なことやうまくいかないことがあっても、全然へこたれません。気持ちの切り替え方を大学院の時に色々試して経験したおかげで、今それが役に立っています。

今、抱えている目標

直近の目標は、現在取り組んでいるテーマをしっかりと市場に乗せることです。まず第一関門として、それがクリアできれば、その後に携わるテーマは全部上市できるように研究を進めることを野望として抱いています。

また、抗がん剤等、命に関わる薬のテーマにも取り組んでみたいです。当社で医薬品を研究している一番の原動力は「おじいちゃんを救えたら良かった」という気持ちのため、そこは僕にとって大事な目標の部分となっています。

時代の変化に、どのように対応して乗り越えていくべきか?

会社の体制的なものが自分の進めていきたいものと食い違った時に、それをどう乗り越えるべきかというところは課題になっていると感じています。テーマを進めていく上で、「そこは今までの考え方で実施すべきかな?どうなのかな?」と、苦戦します。何でもそうですが、時代が進むにつれ、色々な新しい機器が出たり、前のやり方ではうまくいかなかったり、様々なことが多々起きます。どのように対応して、体制をもっと良い方向に変えていけるかは、今のテーマでも様々な段階で検討しながら試行錯誤を繰り返しています。

10年後の視点

研究部のことだけではなくて、会社全体のことを知って、仕事が回せるようになっていたいと考えています。今は研究部での視点でしか会社を見ることができない状態のため、経験としては営業や製造もチャレンジしてみたい、そして色々な視点で会社を俯瞰できるような人材になりたいと思っています。

現役の奈良先端大生へのメッセージ

奈良先端大は研究する環境がとても整っているので、無我夢中で研究をしてほしいと、強く思います。嫌なことやうまくいかないことも、たくさん出てくると思いますが、奈良先端大生でいる間は、ずっと研究に没頭していて欲しいです。

奈良先端大を目指している受験生へのメッセージ

研究設備や環境はとても整っていると思うので、めちゃくちゃ実験したい、研究がやりたくてしかたない、ウズウズするという方は、ぜひ奈良先端大に来てほしいと思います。

奈良先端大での研究生活

研究室によると思いますが、学生の意見を尊重してくださる先生方でしたので、相性が良く、有意義な研究生活を送ることができました。助教の先生と基本的に毎日セッション、「こんな実験をして、こんな方向性にしていきたい」と、常にディスカッションしながら研究を進めていました。うまくいかないこともありましたが、それさえも面白いと感じていましたね。

実は、数ヶ月前に、その時の研究内容が論文化されました。自分が取り組んだ研究が論文という形で世に出たことが当時の一番の成果かなと思います。

それから、研究環境とか研究設備は非常に良いですね。まず、学校自体に分析の専門家の方たちがたくさんいることが、非常に有難いです。何か困っても、その方に質問や要望を伝えると、専門家の圧倒的レベルの知識量で、返答いただけます。学部時代にいた大学はそういう環境ではなかったこともあり、この環境は珍しいのだろうなと感じました。

真夜中のディスカッション

奈良先端大で一番印象に残っていることは、研究内容を同期と夜、22時頃から討論していたことです。頻繁に同期とディスカッションしていましたが、実験が22時、23時頃に終わって、会話をし出した時に、ディスカッションがどんどん盛り上がって、気づいたら夜中3時頃になっていて…。研究生活をする上で、すごく没頭していた、一番印象深い経験です。会社に入ると、こんな経験できませんからね。

また、僕は探求心が強い方です。研究では、想定していなかったことが起きた時に一番面白いと感じます。さらに、僕は色々な人と話をして、意見を共有したい、それによって、お互いにステップアップしていきたいと思うタイプです。ディスカッションは少人数ですることが多いですね。

※この記事に記載した内容は取材当時の情報になり、会社名や役職名等は現在と異なる場合があります。