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大学院からゲーム業界で働くということ|カプコン 山田憲さん

奈良先端科学技術大学院大学(以下、奈良先端大)の時に学んだことを活かしながら、ゲーム業界にて、非常に働きやすい職場で、好きなことで仕事ができているとおっしゃっていた山田さん。同じように、大学院と同じ研究テーマで雰囲気の良い職場で働きたい人にとっては、何かのヒントになるのではないかと思います。どのように現在の会社に入社されたのか、振り返って感じた就職活動の改善点、プログラマーとして苦労していることなど、詳しくお話を伺いました。

山田 憲
奈良先端科学技術大学院大学では、金属をカメラで撮影して形状を測定するコンピュータビジョン系の研究に取り組む。博士前期課程修了後、株式会社カプコンに入社。入社後はゲームエンジンの開発を担当。

就職活動の軸と業界に興味を持ったきっかけ

この界隈で就活したいと感じたのは大学院に入ってからで、コンピューターグラフィックス(CG)界隈への就職に興味が湧いた影響が大きいです。所属していた研究室はCG技術との親和性の高い研究を行っていたので、読み物の一環として、それ関係の技術書や業界雑誌が置かれており、大きな刺激を受けたことを記憶しています。以前より、この手の技術に興味があったものの、技術者としてそこで働こうという発想はなかった自分にとっては、この業界を考える非常に大きなきっかけになりましたね。最終的に、大学院でこのまま研究するか、就職するかは悩みましたが、6月〜7月頃に、カプコンに内定をもらって、入社することになりました。

スタートが出遅れた経験と面接の準備不足による後悔

大学院大学という環境はかなり珍しく、特に研究では、大学と異なったテーマに取り組む場合、そこから学んで成果を出さないといけないので、就活との両立はやっぱりタイトになりますね。就活は2年生になってから始めたので、用意周到だったわけではないですが、何にせよ、早めに始めておく方が良かったと、今思うと凄く後悔はあります。特に、面接が準備不足でした。自分のことを答えるだけといっても、本番の質疑応答でそれを適切にアウトプットするのはかなり難しく、相当準備しないとひどい目に逢います。その上で非常に助かったのが奈良先端大のキャリア支援室で、同じ内容でも第三者に見て指摘してもらうことや、それを実際に噛み砕く過程を経ると、見せ方は全然違って来ることを痛感しました。せっかく学校にあるサービスなので、恥ずかしがらず、出来るだけ早めにこれらの方々に頼ってみた方が良いように感じます。

内製エンジンを作ると言う仕事

入社前にカプコンに惹かれた理由としては、やはり内製でゲームエンジンを作っているという点が大きかったです。外販のゲームエンジンとは違い、内製ゲームエンジンと言うものは基本的に社内のタイトルを作成するための物なので、あまり表には出にくいのですが、RE ENGINEは内製にも関わらず、私が入社する以前より積極的にブランディングがされていて存在感を放っていました。技術的な分野からゲームに携われるという点は、まさに自分が就活で希望していた部分となるので、この会社に入りたいと思う非常に大きな動機となりましたね。

内製エンジン開発と一言で言っても、いわゆる特定のタイトルを開発するための専用ゲームエンジンと、あらゆるタイトルの開発での使用を想定した汎用ゲームエンジンというものに分けられると思い、RE ENGINEは後者にあたります。そのため、私たちの業務は社内で開発しているタイトルに包括的に絡むという形式となり、必ずしもすべての開発者が特定のタイトルにアサインされて活動するというわけでは無いです。

ただ、入社後のイメージとしては汎用かどうかにかかわらず、内製エンジンの開発現場と言うのは、タイトルとの距離の近さを強く感じる環境になると思います。例えば、新機能を作る時は大体タイトル側の需要から始まる部分などですかね。自分の作った機能は直接何かに使われることが想定されているので、作っている実感に繋がりますし、どんなニーズがタイトルから出ているか、どういう部分を改善すべきかといった部分も非常に良く可視化されます。こういう部分はやはり研究だけだと実感しにくかった「やりがい」に直結してくるので、凄く面白いところですね。また、エンジン側の機能刷新で大胆な移行が必要になった際も、タイトル側での対応を入れてもらうことが出来るため、タイトルとの関係も製造から顧客といった一方通行ではなく、二人三脚で良い開発環境を構築していけるのは内製エンジンならではの良さだと感じました。

不安や苦労を見てきたからこその嬉しさ

自分が関わったゲームが店頭に並ぶことは、この業界において、一番冥利に尽きるポイントだと思います。ゲーム開発は数年かかることが多いため、無事発表できるまでこぎつけて「これを作っているぞ!」という情報を共有できる瞬間は楽しいですし、技研という立場でも、やはり関わってきたゲーム開発現場での酸いも甘いも知っているため、いざ発売されてプレイヤーの楽しんでいる声を頂けると、やはり非常に嬉しいですね。

入社後に感じた働きやすさというギャップ

このような業界の印象として、やりがいは大きいけれど、非常にハードワークなのだろうと覚悟していたのですが、実際に入ってみたら、ライフワークバランスを守って働いている人が多く、個人的にも働きやすい環境だと感じたのは意外なギャップでした。「業界全体が非常に働きやすくなった」というのも非常に大きい思うのですが、社内で積極的にインフラを改善しようとする人がいて、それが出来るだけの技術基盤を作っていて、また会社側もそれに手間を惜しまない環境であることという、実際に制度だけでなく、体質としても今のカプコンは働きやすい会社となっているように感じます。

タイトルに近い開発という現場で学んだこと

タイトルとの距離の近さは良い面もありますが、その分、綺麗事ではうまくいかない部分も多いとは感じています。タイトルに近いということは、それだけタイトルで実現したい事情をこなせることがエンジンの良さそのものの評価となります。プログラマー側ではどうしても避けたいと思っていた機能でも、実際に使っているところを見ると、どうにもそれをしなければ要件を満たせないというケースは頻繁に発生します。綺麗なツールで綺麗なワークフローが必ずしも実現するとは限らないし、指定した運用ルールを守ってさえくれれば、ワークフローにエラーが起きないとしても、やはりヒューマンエラーは起き得るので、そのための対応策は重ねて用意しておく必要があります。自分の考えたロードマップで最強のツールを作るよりまず、カプコンが開発しているタイトルを正しく作れるためのツールにしないといけない。そういった部分は入社して今までで非常に多く学ぶ機会を得ました。

日々意識している、分かりやすく伝えること

仕事を進める上で、しっかりと分かるように情報を伝達しないといけないとは常々思っています。内製となると、情報を残すという点がおざなりになりがちなので、機能を要望した人と対応した人たちの間だけで、知識が完結してしまっていて属人化を招いていたり、自分が分かりやすいと思って作ったものを自分の解釈の中だけで話していると、全然相手に伝わっていなかったり、逆に全く自分が相手のやりたいことを理解していないといったことがよく起きます。現場では多くの人がそのワークフローを見ていますが、振り返って自分が違和感を覚えたタイミングが、設計がこじれることを防ぐ最後のチャンスだったと気付くという機会は少なくありません。「コミュニケーションが面倒臭い」、「誰かが気付いてくれるだろう」という理由でこれを放置すると、後で物凄い泣きを見ることになります。そのため、先に分かりやすく図式化する、テスト版で作って動いているところを見せ、それをドキュメントとして残すなどして、本当にこれで良いのか、しっかりとすり合わせを行うという点に最近は手間を惜しまないようにしています。

ルーキーを卒業してからの課題と目標

今年で入社4年目となり、カプコンでいう「ルーキー」卒業となります。今まではガムシャラにツールを作ってきました。しかし、今後はもう少しツールのスケールが大きくなってきます。そうなると、自分のセクションで良いものを作るだけの状態ではなく、チームで1個を作り上げないといけない状態にはなってきます。そういう意味では、人をまとめるという方向、マネジメントの方でも力を付けていかないといけないと感じています。

また、内製エンジンは使いやすさで、直接利益を上げられる外販エンジンほど、手広くユーザビリティにコストをかけられるわけではありません。ただ、この会社でツールエンジニアとして働いている以上は、使いやすさで選んでもRE ENGINEと言われることを目標にしています。そういう意味では、他所にも「これは真似してみたい!」と思わせるようなツールを作っていきたいです。

現役の奈良先端大生へのメッセージ

奈良先端大に入学して、研究のプランは自分で決めることになるので、私生活が乱れると研究の計画も乱れます。自己管理もしっかりとする。その裁量は大事で、計画的に色々とできるように進めた方が良いです。授業で何時何分に教室に着けば良いということではなく、長期の計画を立てて実行できるようになった方が良いですね。自分を持って、研究に取り組んでください。そういった姿勢が、社会に出てからも役に立つと思います。

また、社会に出たら、その職に就くまでの過程は非常に多くあったことに気づかされると思います。特にゲーム業界では専門学校などからゲームを作るためのキャリアを構築し、私たちより若くしてこの業界に入ってくる方が同期にも多く居ます。専門分野が活かせれば越したことはありませんが、そういう人たちと比べて自分たちの学生生活に無駄がなかったかと悩む時期もあるかもしれないです。でも、ここでやったことは大体無駄にならないというのが私の結論です。

仕事で発生する問題に関わろうとすると、大体は新しいことをイチから学び直すことになります。なので、別分野でも意外なものが頭の片隅にあるだけで立ち回りが変わることは本当にたくさんあります。また、それを学ぶまでの過程、例えば、英字論文を読んだ経験やプレゼンを行った場数のようなものは社会に出ても、そのまま有用なスキルになっていることに気付くはずです。例えば、私の研究室だと毎週プレゼンの発表がありました。クオリティはもちろん大事ですが、速度面とのバランスを取る上でかなりの場数を踏んだことは、振り返って大きなプラスになっていると感じますね。そのため、今自分がやっていることはとても高い価値があるということを知っておいてほしいです。

奈良先端大を目指す学生へのメッセージ

大学院の設備は本当に凄いです。新しいことをする時に、設備が揃っていることは非常に大きいポイントです。また、モノだけでなくヒトにも恵まれた環境だと思います。一緒に学ぶ人にはやはり影響を受けることとなるので、とても重要です。この大学院はあえて「大学院は奈良先端大に行く」と決めて進学して来る人たちで構成されています。やはりモチベーションや知識でレベルの高い人たちに囲まれていると感じましたし、留学生の割合も多く非常に国際色が豊かです。振り返っても珍しい環境だったと思います。立地こそ大変な所にありますが、そこで得られる環境には非常に価値があります。

※この記事に記載した内容は取材当時の情報になり、会社名や役職名等は現在と異なる場合があります。

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