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大学院からずっと同じスタイルで仕事ができる、研究者としてのやりがい|日東化成株式会社 金城弘幸さん

奈良先端科学技術大学院大学(以下、奈良先端大)では触媒をテーマに研究されていた金城さんは入社後も触媒を扱い、研究開発を続けられています。お話する中で、ずっとフラスコを触れる喜びが凄く伝わってきました。就活生としての悩みや対策、どんな強みを持って就活を進めていたのか、社会に出てから役立つための大学院生活の過ごし方を含めて、詳しくお話を伺いました。

金城 弘幸
奈良先端科学技術大学院大学では、ロジウム触媒を用いたカップリング反応の研究に取り組む。博士前期課程修了後、日東化成株式会社に入社。入社後は触媒の既存製品のフォローと研究開発を担当。現在は製品の法規制関連の情報収集や社内セミナーの運営も兼務している。

絞って絞って自分の強みを活かした就職活動

当時はリーマンショックが直撃して、非常に就職が難しい時代でした。M1の3月頃から就活を始めて、実際に内定をもらったのは6月で、少し時間がかかっています。私は数を打つ戦法ではなくて、かなり絞って活動しており、先生の力をお借りして、紹介していただきました。当社には3社目の面接で通りましたが、結構、周りは悲観的な状態でした。

活動の軸としては、有機金属化学が研究ベースだったことから、ファインケミカルが研究できる会社で、その研究のスキルが活かせるところが軸ではありました。会社の規模では、大企業を受けたこともありますが、どちらかというと、中小企業で色々な仕事を経験する方が良いと思い、そういった点を重視して、研究開発以外の軸として、様々な仕事ができそうな企業を探していました。

また、当時を振り返ってみると、分析力は武器でした。自分の中で自分を分析することと、物を分析すること、そういった点は当時から強みだと思っていました。自分の研究スタイルが1回の実験で結果を出して、次の実験を組み立てていくような形でしたので、分析をする訓練によって、習慣的に身に付いていたような気がします。

一つだけではなく、たくさんの部署を兼任できる経験

入社1年目に化成品事業部に配属されて、現在も同じ部署で勤務しています。仕事内容は大きく分けて2つ。1つは現在販売している製品のフォローです。具体的には、スケールアップをして、効率良く製造できるような方法を見つける形と、お客様に対して、その製品に対するフィードバックをいただいて、より改良をしていく形です。もう1つは研究開発で、新しいものを作ることです。特許が取れるような新しい物を作って、世の中に出せるかどうか、作るだけではなくて、お客様のところまで行って評価していただきます。最近では、化成品事業部の他に、環境コンプライアンス部にも兼任で所属しています。こちらは、製品に関わる法規関連の情報収集がメインの仕事で、昨今の化学物質に関する法規制が年々厳しくなっていく中で、当社も化学物質に関する法規制の情報を早くキャッチして、お客様にすぐ届けることを大切にしています。更に、昨年から、もう1つ兼任が増えて、社内セミナーの運営を行う日東セミナー企画室の責任者を任され、大学教授など外部の方に来社・講演いただく場を作っています。

時間をかけて苦労して育てた製品

入社してから、大きな出来事の一つとして、5年目頃に立ち上げた製品があり、それが育ってきていて、数十トンレベルの売上になってきていることは大きな達成感で、良かったと思います。元々、ファインケミカルのため、スタートはフラスコの大きさ、グラムのスケールから検討をスタートしたものが、今は数十トンというところまで育ってきています。その過程を体験できた経験は非常に大きいですね。ただし、いきなり数十トンになったわけではなくて、最初は1トンを作ることにも、非常に苦労していました。製造現場と頻繁にやり取りをして、その場で解決できる問題もあれば、持ち帰って数年がかりで検討することもありましたが、結果的に私だけではなくて、他の人の助けもあって、何とかここまで来ました。

今後は、数十トンまで成長したものをもう少し成長させていきたいです。ゆくゆくは100トンまで持っていければ、非常に面白いと思っています。触媒で数百トンは非常に大きいですが、育てたいと思っています。

大学院から一貫して同じスタイルで研究ができるやりがい

化学系の会社でも、フラスコに触れ続けられる人は多くないと思っていますので、今でもフラスコに触れることは良いですね。そういった中で、フラスコの最初の100グラム、1リッターからスタートして展開できることは、研究者として面白いと思っていますし、やりがいがあります。

あともう一つは、学生時代から今の化成品事業部の研究でも触媒で一貫していますが、触媒は少量の添加で凄く大きな変化を起こせる物質です。ダイナミックに全体が変わる可能性があることを秘めている素材を扱えていることは面白いですね。

やりたいことでサークル活動もできる働きやすい環境

色々な部署、色々な人、色々な価値観が混ざり合った場所で、もちろん価値観が合わないところもありますが、そういった中でも気楽に話せるような会社です。気楽に話せることは仕事をする上でも大事ですし、仕事以外でも当社はサークル活動等、そういったところを重視する会社ですので、とても働きやすい環境だと思います。

今は少し忙しくてできていないですが、以前は英会話サークルや料理サークルで活動していて、料理サークルでの経験は今に役立っています。サークル自体は社員の発案で立ち上げることができます。そういった意味では、変わった会社かもしれません。

当社の福利厚生制度は非常に充実していますが、それだけでなく、研究棟は3年前に建て替えが終わり、とても綺麗ですし、研究開発職であっても、残業が非常に少ないので、プライベートと仕事を両立できるような環境だと思います。そういった環境と、技術においても最先端を走っている中で、研究を続けられることは非常に有難いですね。

研究職として、チームの一員として、大事にしていること

毎日毎日、何か改善できているか、進歩できているかは、仕事をする上で意識しています。仕事のスタイル的にも、触媒開発において、うまくいかないことも多々ありますが、研究職として職務を遂行する上では、その中で次はどんな手を打てるかは考えるべきところで、大事だと思っています。よく頭を使うことは当社の大事している部分ですが、研究者としても非常に大事なことです。

他にもう一つ、やはり一人で仕事はできないので、チームワークが非常に大切です。そういった意味では、社外の人に対する納期も大事ですが、社内の人に対する約束事も守るように、特に、期日を守れるようにすることは仕事をする上では意識しています。

研究者としての苦悩と意外な解決法

考えて実行しても結果が出ないことはよくある話ですが、打つ手がなくなった場合にどうするかを自分で考えても、なかなか解決しない時はあります。そういった時に、研究テーマが止まってしまうことは、辛いですね。数年経ってから、実はこれが解決策だったというパターンもあります。それは私ではなくて、他の人が見つけてきたり、実は他の要因がキーだったりもあります。その当時は思い詰める時もありましたが、上手くいく時は、案外意外なことが解決法というパターンもあるので、今はそういう風に考えています。

化学人材の減少による課題と向き合う

最近は化学系の学生を含め、化学の人材が減少してきているため、より少ない人数で仕事をしなければなりません。減ることに抗うことも一つですが、減る前提で、その中で何ができるのかを考える、その少ない人数で研究開発を進めていく必要があり、この両立は非常に課題に感じています。今までのやり方ではなくて、例えば、AIのような新しい技術を使って、両立できないかは日々考えています。ただし、まだ業務レベルでは、生成AIを活用するレベルに来ていないのが実情で、費用対効果を見ると、難しい部分がありますので、どう活用していくかは今後の課題です。それでも、そのような少数精鋭の環境でも楽しめることが一番だと思っています。簡単にはなかなか人は増えないですからね。

現役の奈良先端大生へのメッセージ

情報技術や科学技術はどんどん進化しています。予想できることは増えてきていますが、実際に研究開発を進めていく中で、やはり分からないことはまだまだたくさんあります。そういった中、奈良先端大は最先端の科学を扱う場所ですから、分からないことは絶対に出てくると思いますね。その中で、分からないこと自体を楽しめるようなマインドを身に付けてほしいです。分かったようなことでも、実は分かっていないことがたくさんあります。もしかしたら、そこを悲観的に見る人がいるかもしれないですが、研究はそういうものだということを、逆に分からないことを認めて、一つでも分かるように過ごしてほしいと思っています。

奈良先端大を目指す学生へのメッセージ

奈良先端大の良いところの一つは研究の設備が整っているところです。大きな大学に引けを取らない環境だと思います。その環境の中で、設備をフル活用していただいて、自分のやりたいことをやる、そういう研究を行っていただきたいです。他には、様々な人が集まる点も他の大学にはない強みですので、そういう出会いを大切にしていってほしいです。

奈良先端大の学生生活で印象に残っていること

大学院に入学してすぐに研究室で研究は始めなくて、最初に授業があります。その期間に同期とは仲が良かったので、寮で映画鑑賞を企画していたことは良い思い出です。入社10年目頃に、関西圏の化学メーカーの人と大学の人が交流する場があり、たまたま同期が集まった機会がありました。そこからは先輩も含めて、交流を続けさせていただいています。

奈良先端大での経験が今の仕事にも役に立っていること

研究のレベルも高い水準を求められますので、勉強が追いつかないと、ディスカッションできないため、体力的にとてもしんどかったです。結果的に、その時にたくさん頑張ったことは今になるとバイタリティに繋がっているので、悪いわけではありません。本当に研究しかしていなかったですし、周りも真面目に実験を行っていましたね。

それから、やはり様々なバックグラウンドの人がそれぞれの事情で集まってくる中で、色々な価値観に触れ合えたことは良かったです。逆に、同じ大学にずっといた場合には得られなかった部分だと思っています。そういった点は会社に入って様々な人と会う中で、視野を広げる意味でも役立っていると思います。

※この記事に記載した内容は取材当時の情報になり、会社名や役職名等は現在と異なる場合があります。

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