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エンジニア職から人事へ!新卒採用の担当者が話す就活の裏側|大日本印刷 飯田拓さん

奈良先端科学技術大学院大学(以下、奈良先端大)では、VRを使ったリハビリテーションシステムの研究をされていた飯田さん。博士前期過程を修了後、エンジニアとして、大日本印刷株式会社(以下、DNP)に入社しましたが、そのキャリアはどんどん変わり、現在は人事系の部署で新卒採用や若手育成を担当されています。就活生にとっては、とても興味深い採用の裏側について、そして、入社から現在の採用担当に至るまで、たくさんの異動を経験した話とその時の心境を中心に、詳しく伺いました。

飯田 拓(情報科学研究科 博士前期課程2008.3修了)
奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科を修了後、DNPへ入社。エンジニア職から、新規事業担当を経て、現在は新卒採用や若手育成を担当している。

就活における会社選びのポイント

M1(博士前期課程1年)の年末〜年始頃、就職活動をやり始めたような記憶があります。当時は1月〜2月頃に、各研究科のOBやOGが来校し説明会を開いていました。就活当初はどこかのメーカーに行くものなのだろうと思っていました。ただ、企業の説明会を聞いていく中で、BtoCのメーカーに行ってしまうと、「すべての人に自分が作ったものを体験させることができない」と思い、対象を選ばず自分の作ったものを触れさせるにはBtoCではない企業を探さないといけない、と考えるようになりました。

情報科学研究科だったので、SIerなどのIT系の企業も色々考えましたが、そういうIT系企業に行くと、自分の祖父母の世代の方に自分の作ったものを触らせることができないと思ったんですね。情報系に特化しているわけではなく、でも情報系の業務ができ、幅広い方に何かを提供できる会社はどこがあるかと探すようになりました。

当時、DNPでは新しい美術体験を作るという取り組みをやっていました。ルーブル美術館と共同プロジェクトとしてミュージアムラボという取り組みをしており、美術館で美術作品をただ見るだけではなく、ITを使って、より美術作品について分かる・理解できるようなシステムの研究をしていました。例えば、美術館に行った際に、作品の横にある説明書きを見て美術作品について知るのではなくて、美術作品そのものを見るだけで美術作品を知ることができるような体験を作ろうとしていて、これは自分が作りたいと考えていることに近いと思って応募しました。他にも同様の考えを基準として企業を探し、行きたいところだけを受けて、どこに行っても良いという状態で就活をしていて、最終的に、一番最初に合格が出たDNPに決めて、就活を終えました。

システムのカスタマイズ〜AR・VRの活用、大阪から東京へ

多分、会社内では私は紆余曲折がある方なので、キャリアとしてはあまり参考にならないかもしれませんが(笑)。入社して最初に配属された部署では、体験作りを行っているのではなく、ある程度、形のできたシステムをお客さんに合わせて、カスタマイズして導入していくことをメインでしていました。

その後、4年目のタイミングで、異動を申し出て、大阪から東京の研究所に行きました。そこは入社前に関わりたかった美術作品の新しい体験を作ることを行っている部署ではありますが、その担当になったわけではなく、画像処理やARなど、元々大学院でやっていたところに近いことをやることになりました。ただ、個人的には美術作品に限らず、人をどうやって行動させ、どういった情報を提示したら良いかというところに面白味を感じていたため、美術作品へのこだわりはありませんでした。

AR・VRをどうすれば、人に楽しませるか、利用させるかということを研究していましたが、徐々に人の行動をどうやって変えるか、人にどういうデータを与えれば、人はどう行動するのかという研究に移りました。次第に研究というフェーズから新規事業という形に変わり、実際に人が買い物をしていく中、お店の中で人はどういう行動をしているのかというデータを集めることでどのようにビジネスにつなげるかを考えていきました。また、そこでその人が本当に欲しいものをその人の行動履歴から考えて、お勧めの商品をどのタイミングで、どう勧めすれば買い物の体験につながるか、それが価値のあるものになるかということについて検討を進めていました。

研究部門から採用担当へ

新規事業に邁進しているころ、唐突に採用担当になることになりました。当時のDNPはある程度、最初に入った部署でキャリアを最後まで全うすることが多かった会社なので、年次のわりに企画部門から研究部門、新規事業まで経験し、その上異なる拠点(大阪と東京)にいて、自分で異動も申し出て異動した経験もあることは、今の立場だから分かりますが、レアなんですよね。そういう人が採用担当になることは、それはそれで面白いのではないかと思いましたし、私自身採用はどこかで機会があれば、経験してみたいと思っていた仕事だったので、すんなり受け入れられました。

採用担当の仕事の課題、管理職になって感じる難しさ

2020年度から、管理職になって、その後に新しく採用担当となった人もいる中で、自分は採用担当になった時にどう馴染んだのか、すごく悩みながらメンバーにどう前向きに採用に取り組んでもらうかを考えています。改めて採用のメンバーと自分を比較すると、私は人の行動を作っていくことや人のキャリアや考え方を理解するというところも含めて、人を知ってそこに解決策を出す、いわば人を科学することがやっぱり好きなんだなと思いますね。

管理職になってからは、難しいことだらけ。私は採用の部署にモチベーションが低くなく入ることができましたが、モチベーションが低い状態で入ってくる人もいます。今までの分野と全然違うことを担うことになり、思い描いていないキャリアを改めて考え直さないといけない、これまでの業務に戻れないかもしれないということは確かに怖いと思います。その状態の人にどう前向きになってもらうか…。視野の外にあるものは見えず、見えないものに対しては怖さを感じる、それはしょうがないです。狭くなっている視野をどう意識して広げさせるか。その視野が広がった状態が当たり前になると、元々いた部署にこだわっていた自分がすごくつまらなく感じると思うんですよ。私も仕事に対して、やりがいを感じなかった頃を振り返ると「当時はつまらないと感じていたけどもっと楽しめたな」と思ったりしますが、そういうところも含めて視野を広げることは大変ですね。

また、会社の話をすると「紙にインクを塗る」印刷以外のことを行っている会社だと認識している学生としてない学生がいることは本当に悩ましいですね。相手の知識や認識に合わせて話す必要があるため、本当に手を替え、品を替え、どういう風に会社に関して情報を提供することが適切か常に考えています。最初はいかに相手を驚かせるかということが重要かなと思って、全然印刷らしくない話だけをやってみようと思いましたが、どうもそれだと面白かったけど、記憶に残らないみたいなことが発生すると思っていて。少しやり方を変えないといけないとなった時にどうするか。プレゼンはそもそも個性にすごく紐付くものだと考えているので、私が話すやり方を文章に起こしたとしても、他の人には真似できない。聞き手に合わせつつも、自分が好きだと思うことを通して会社を印象付けるしかないと思っています。そのため、印刷がどうとか、会社がどうとかいうことは置いておき、まず仲良くなって「君は活躍できる、面白い経験ができるから、おいでよ」という風に持っていこうとは考えています。会社の事業がかなり幅広く、学生のみなさんの経験を活かしつつ、思い描いたキャリアを進められるような制度も整っているため、活躍の約束ができることはありがたいですね。

仕事の上で大切な、ギリギリアウトに手を出すこと

ギリギリアウトに手を出すことは大切にしています。自分の視野の少し外もそうですし、この人にここまで言って大丈夫かなということも、ギリギリセーフを目指すと、意外とギリギリではない安全な世界で終わるので、世界が変わっていきません。ギリギリアウトを攻めてみて、反応を見て少しアウトな反応をされたら、「それは違うんです」みたいな。アウトすぎると、フォローが効かないですが、ギリギリアウトだったら「誤解なんです」と言って、少し安全圏に戻って、そうやってお互いの世界観や価値観を共有しながら、話を少しずつ広げられます。そういう少しやってはいけないのかなというところにも、勇気を出すことは大切にしていますね。さじ加減が難しいところではありますが。

現在の部署では、個人情報を取り扱うこともあり、法令的にもギリギリアウトになることは許されないので、それは本当に気を付ける必要がありますが、学生のみなさんとのコミュニケーションを一つとっても、ギリギリアウトとなるような一歩踏み込んだ話をしないと、何もオープンにしてくれない。エントリーシートに書ける話はしてくれますが、「そういう話を聞きたいのではない」と言ったとしても言ってくれないので、どうすればそれを言わせることができるかという戦いだと思うんですよね。特に採用担当が学生のみなさんと距離を詰めるために許された時間は会社について説明をする時間を含めて最大一時間。その一時間でどれだけ心を開かせて、本音を話させて、本来わだかまりとなっているようなことがわだかまりではなくなるようにすることをしないといけない。そのわずかな時間を有効に使うには、一歩踏み込まないと無理で、これはDNPが紙の印刷会社だという、学生のみなさんが持ちがちな今までの考え方から外に出てもらって覆すことに対してもそうです。

やりたいことだらけの、人に関わる採用領域

採用という仕事は、やりたいことだらけな気はします。この仕事の良いところは誰も正解を持ってないないこと。採用業務にAIを活用している企業のことを聞きますが、そんなには使えていないだろうと思っていて、それはなぜかと言うと、企業側がどれだけAIを使って賢くなっても、起点は学生のみなさんなんですよね。就活という範囲ではどう頑張っても、企業が無理矢理、「ここにあなたの情報を会員登録しましたよ」というところを起点にすることはできなくて、必ず学生がアクションしないと、採用どころか企業の情報提供にすら、繋げられないのです。やはりAIよりも学生のみなさん自身が賢くなっていかなければ、正しい就職活動や正しいキャリアには繋がらないと思います。そういうところも、私にとって採用というものは手の入れどころが多い未知の領域で、めちゃくちゃ楽しいですね。人は本当に未知の塊なので、人に関わるところを仕事として科学できるという部分は非常に面白いと思っています。

現役の奈良先端大生へのメッセージ

特に今に始まったことではないですが、学生のみなさんが奈良先端大生に限らず、フォーマット化されていますよね。特に奈良先端大生は、私自身もそうだったのであまり強く言えませんが、大学や高専の専攻科から違うところに行く選択を自分で下している人たちだと思うので、その選択を間違いだった、その選択が実はあやふやなことであるということをあまり認めたくない方が多い印象があります。わざわざ奈良先端大まで行って、この研究をやりたくて、この研究室に今いるから、この研究室の先にある仕事をすべきだと考えている人がすごく多いと思います。それは自分を疑っていない、自分がずっと正しいことをし続けているという感覚で。批判されたくないことはすごく分かりますが、聞いてみると、ただの食わず嫌いだったり、たまたまうまくいっているけれど、第三者から見ると正直向いていないと思ったり…それを言われたくないのだろうなと、すごく感じます。ただ、社会人になってみると学生時代以上に、自分がやっていることが正しいか、進む道が問題ないかは周囲の誰かに決められることの方が多いです。あまり尖っていないのに、尖っている感を出す感じも結構あるので、他の大学の方よりも、せっかく大学院で頑張っていても、社会で働くという観点では危ういと取られてしまう場合もあるため、もう少し何らかのフォローができるといいなと個人的には思います。

奈良先端大を目指している受験生へのメッセージ

私自身は大学院を変えて良かったと思いますし、奈良先端大での生活が絶対楽しいことは間違いないと思います。特に私にとっては入学前に思っていた通りとはなりますが、世界が、視野が広がったということがすごくあります。視野が広がることは経験してみないとわからないことが多いです。もし奈良先端大に入学せず経験しないまま過ごしても、多分出身の大学から大学院に進学してそこから就職ということもできていたとは思います。ただ、やはり大学院が変わったことで、その視野はすごく変わりました。学部がない大学院なので、みんな初めましての状態で新たな経験をお互いに共有して、視野がどんどん広がっていく、バックボーンもおそらく在学中に感じたことも全然違うからこそ、奈良先端大で同じ研究室にいた友人であっても就職先はみんなバラバラです。

また、奈良先端大に限らず、すべての大学院生が在学中に得なければいけないこととして、学問や、人とのコミュニケーション、研究成果を発表する経験など、色々ありますが、奈良先端大は優秀な先生方がいて、本当にプロフェッショナルの方が多い。その筋で言うと、超一流の先生達もたくさん集まっている中で、自分がきちんとやればやるほど、身に付くことが非常に多い学校です。それは大学から大学院にそのまま進んでいるだけだと得られない緊張感の中で、加えて超一流のプロフェッショナルの方との多様性の中で得られるものが多いので、柔軟性も知識も知恵も身に付くため、進学先として奈良先端大という特殊な大学院に視野を広げることは一つの選択肢として良いのかなと思います。

楽しくて最高だった研究室の環境

やはりみんな「初めまして」で会えるため視野が広がったことはもちろんですが、私自身の経験で言うと、IVRCと言う国際バーチャルリアリティコンテストがあり、それに研究室のM1のメンバーで参加したという経験は大きかったと思います。みんな知り合ったばかりなのに5月、6月にはアイデアを出さないといけないんですよ。研究室に入ってすぐ、そこから1〜2週間で、みんな本当に誰かも分からないような状態でアイデア出し合って、それを企画書という形にして提出する。もうそれだけで、みんなと話す機会も増えますし、それぞれが何を面白いと感じている人なのかも伝えないといけないため、自然と仲良くなりました。コンテストでは一般の方が経験できるようにシステムを作って展示しました。その経験がなかったら、多分、今の会社にも来ていなかったでしょう。当時、そのコンテストの成果として、お台場にある科学未来館で展示して、一般の人にも経験してもらったことは、私自身が分け隔てなく色んな人が楽しめるようなものを作りたいと考える礎になっていると思います。

研究室の居心地はめちゃくちゃ良かったですね。家にもほとんど帰ってなかったです。泊まるというレベルではないくらいで、家にはシャワーをしに帰るだけ。ずっと夢中で研究していました。自分が考えていることを形にしてみて、修正して、また形にしてみてと集中して実践できる。本当に最高な環境でしたね。

人生的な役に立っていることで言うと、同じ研究室の人と結婚しました。役に立っているというより、人生への大きな影響と言った方がいいかもしれませんが。結婚相手以外でも、今では修了して10年以上経ちますが、研究室の人との付き合いは長く続いています。コロナ直前にはなりますが、同じ研究室出身の同期が結婚するタイミングで、小さいクルーズ船を借りてみんなでお祝いしたりもしていました。

※この記事に記載した内容は取材当時の情報になり、会社名や役職名等は現在と異なる場合があります。