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父と私とピアノ

※2018年9月にHP上で書いたものを転記しました。

父は、ピアノを弾かない。楽譜も読めない。好きな音楽は?と聞くと、谷村新司(だったはず)。

そんな父がピアノの発表会には欠かさず来て、いつも車で連れて帰ってくれた。

H先生(長年就いたピアノの先生)の発表会では、ありがた迷惑なことに演奏を録音したカセットテープがもらえる。

自分の演奏が気になって、帰りの車中で聴くのが恒例だった。

言わなきゃいいのに父は言う。

「お、今のところ、間違えただろ?」

「いやそういう曲だからっ」

で、本当に間違えたところは全然気づかない父。

時には、

「今日は2回間違えたか?」

なんで数えてるわけさ……

「間違いなんて、別に大した問題じゃないのっ」

「ほう、そうか」

「私が聴き直したいのは、音楽的に弾けてるかどうかだからっ」

「ほう。それで、どうだった?」

「お父さんに言ってもわからんわっ」

「ほほ〜、そうか」

そんな会話をしていた。

高校生の時は、毎日23時近くまで練習した。家の裏は田んぼ。となりは駐車場。深夜の音出しに苦情がくるはずもない環境だったから。

弾けないところを繰り返し弾いて、やっと弾けるようになって、最後にもう一回、となったら、また弾けず。悔しいからまた最初から弾き直す・・・

夜な夜な聞くに耐えないほど同じフレーズを繰り返し練習した。

練習を終えて、リビングに戻ると、うとうとしながらテレビを見ていた父が、

「おぉ、終わったか。だいぶ弾けるようになったな」

全然わかんないくせに。カチンとくる。

でもそのあと、久米宏のニュースステーション、筑紫哲也のNEWS23を父と見るのが楽しみだった。

何とは無し、父が労ってくれている気持ちが心地よかったから。

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