「次の方、どうぞ」(6) 忘れる
「これがね、最初の手術の跡」
女は左耳に髪の毛をかけると、右手をうなじに沿わせ、髪を束ねて寄せた。長く伸ばした爪がきれいにうなじの生え際をつたうと、それだけで官能的なポーズになるのはどうしてだろう。この視線の落とし方は、女優という職業のなせるわざなのか、本当に考え込んでいるのか。沈みがちな、あやうげな雰囲気をこれでもかと漂わせている。
「デビューしてすぐの事故だったから、もうだいぶ経つわね」
左手の指二本で耳介を折るようにすると、ぼんやりと薄茶色の線が見えた。少しいびつ