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“笑顔のもと”ー大空のうえん

 きっかけ

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香川県さぬき市小田大空。
谷のような地形をし、あたり一面は新緑。穏やかな瀬戸内海もすぐそこ。鳥たちのさえずりがこだましている…。
そんな、とても心地いい場所に「大空のうえん」はあります。園長の竹田さん(45)を訪ねました。

 物書きとは別に、高松市内にある有機野菜を扱う“春日水神市場”で週に3日ほどスタッフをしている私。私が竹田さんにお話を伺いたくなった理由は、昨年夏、お店のスタッフ数人で畑の見学ツアーが組まれ、大空のうえんを訪問したことからでした。楽しそうに畑を案内してくださった竹田さんの存在感に魅かれたから。滞在時間が短く、「もっと話を聞きたい」と率直に強く思いました。そして…
 “声がいいなぁ”
 “いつもご機嫌な方だなぁ…”
 お店に野菜を出荷しに来る竹田さんを見かけるたびにそう思うのでした。その“もと”も知りたいと、私は大空のうえんへ向かったのです。

慣行農業は知らない

 竹田さんの農業キャリアは20年以上。岡山で、オーガニックでズッキーニを育てようとしている人に「手伝って」と声をかけられたことから。それまで農業に携わったことはなく、オーガニックに興味もなかった竹田さんですが、「好条件だったので、笑」と転職。
 「スタートがそれだから、農薬を使った農法を知らないんですよ。化学肥料も使ったことがないですし」
 一般的な野菜ではなく、ちょっと変わった野菜…花ズッキーニ、リアスからし菜といった西洋葉物、ルッコラなども育て、県外のレストランなどに出荷していたといいます。
 その後、奥さんのおじいさん実家のあるこの地へ呼ばれ、岡山を離れた竹田さん。
 「香川県に引っ越してきて知り合いが誰もいなかったので、春日水神市場に勤めていたんです。その傍らで2畝くらいの、狭い範囲で野菜を作り始めました」
 元々、おじいさんは4反くらいの土地を所有していたそうですが、身体のこともあって貸していた。そのため、2畝という小さな土地で香川での竹田さんの野菜栽培は始まったのでした。
 「しだいに近くの人が土地を貸してくれてね、4畝、2反…今は2丁なんぼ、だいたい6600坪とかな。作付面積が広がっていきました。貸していた土地も『それならやったらええ』と戻ってきたんです」
 野菜の収穫量も増え、生業をシフトチェンジ。「大空のうえん」として独立しました。そうこうしているうちに、岡山にいた奥さんのご両親も、現在は閉店しましたがお義父さんがレストランを始めるために香川へー。

―慣行農業に何か疑問を持っていたとか食に関する原体験があるとかではなく、自然な流れで今に至っているわけですね。

(竹田さん)香川に来てから肉を食べなくなったんですよね。食は大事だなと思いました。奥さんもその考えで。“自分たちで殺せるものだけ食べよう”ってルールを決めて。魚は釣ったら殺せる。鳥は殺せない。殺すって嫌なことですよね。それを、他の人に殺させて、自分たちはお金を払って食べるってズルいなって。ズルいと思わない人はそれで全然構わない。僕らがそう思うだけ。僕らは“肉は食べるもんじゃないね”って。一年も経つと、食べられなくなったんですよ、肉が。嫌な匂いに感じて。匂いに敏感になって、牛糞、鶏糞も、すごい臭く感じてしまった。牛糞を使った野菜をもらって、それがすごく臭かったんよ。

―気づいてしまったんですね。

 そう。“獣くさっ”て。

―考え方が変わったのは、深い経験があったとかではなく、香川に来てから少しずつ…?

 なんだろな、生きるのに真面目になったからかな…(笑)
 動物性の肥料を使わないのは匂いが嫌だから。でも、(鶏糞、牛糞などが)良いって言う人もいる。人それぞれだから、いいんですよ。僕らは、という話で。
 あとね、動物が好きなんですよ。

―何を飼っていらっしゃるんですか?

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(竹田さんが飼育しているインコ。名前はキャブ)

 犬3匹と、大型のインコとフクロウ。世話はすごく時間がかかるけど。やっぱかわいいね。
 野菜はね、発芽したとき。芽出たときが一番嬉しい。「お、お、お」って。不思議なんじゃけど、だいた順々に芽を出していくんよね。ひとつ出たらその隣って。“呼ばれて起きてきよる!”みたいな。苗をつくるのっはすごく好き。楽しいね。収穫よりも、最初が僕は楽しいんですよ。

そう話された瞬間の竹田さんの表情、とても嬉しそうでした。

 末澤さん(春日水神市場にも出荷している農家の方)との出会いは大きかった。土づくりがめちゃくちゃ上手。末澤さんの言うとおりにやると上手く野菜ができた。虫がつかない野菜ができた。カブも最後まで大きなカブが実った。僕はどこかで勉強したわけじゃないから、勘違いしていたところも沢山あって。岡山でズッキーニを育てていた時はハウス栽培。露地栽培は香川に来て初めてだったんですよ。だから知識がなかった。僕はもともとハーブや観葉植物が好きで、そっちに一時行ったりして(笑)。僕は今まですごい偏った農業だったわけです。「こうやって蝶々を除けるのかー!」って(笑)。
 緑肥。ソルゴーっていう植物を植えて育てるとか。末澤さんはきちんと学んでいるから、すっごく知識がある。水神でも末澤さんの野菜を食べたら「めちゃうまっ!!」。大好きだった。美味しい野菜つくる人だなって印象が強くて。それでここにも来てもらって、土を見てもらって。アドバイスをもらって。
 ホントそこから。野菜ができるようになったのは。

少量多品種を育てる理由 “レタスジャンキー”

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取材後日出荷された”半結球レタス”。著者の娘(6)に、カメラを向けたらこのポーズ。”きれいだな、美味しそうだな”を直感したのか。もちろんペロリ)  

ナスやピーマンて簡単だと思っていたんですよ。小さな野菜は簡単で、大きな野菜は難しい。ナスは王様。そのうえを行くのが果樹って知って。
難しいというのは、1本の木から5つくらい採るのは簡単。でも100個採るのがプロ。100の可能性があるんだったら50は行きたいよねって。

―え?そんなことが可能?

見たことあるよ。有機JAS取得している人の畑で、一本の木からびっくりするくらい実がついてるの。“すごっ”て。そういうのやってみたいなって。

―単に収穫できればいいってわけじゃない。

 ナスって支柱したり、切り枝したり、手間がかかる。その手間の割には数個しか収穫できなかったとしたら。

ーそっか。私たちは家庭菜園で、数個実れば満足してしまう。でも…

 僕たちは生業。だから単一農家って利益が大きいんですよ。技術だって単一だから、めちゃくちゃ上がる。経験値が上がるし。小松菜だったら、年に5回くらい植えられる。ナスはやはり夏野菜でしょ。向き合い度がぜんぜん違う。僕は超少量多品種。ドカン!てやらない。じゃがいもとか置いておけるのは(量を作って)ええんよ。でも僕はほぼほぼお店で野菜を買わない。だからいろんなもの食べたい。肉を食べないし、食べるものが普通の人より少ないから、野菜を豊富に摂取しないと重労働で体がもたないというか。しかもスカスカの野菜はダメ。やっぱエネルギー違うよねって。でないと体が動かないんですよ。めっちゃいろいろ作ってます。

―春日水神市場にも並んでないような野菜も?

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 (レタスは”ハンサムレッド”、ラディッシュは”ロングスカーレット”。その名前にキュンと来てしまいます)

 はい。並んでない。でも、並べるようにします(笑)。この春からなんだけど新しいプロジェクトがあるんです。レタスを多品種作ってみようって。
 味もだけど見た目がレタスが好きなんですよ。効率は悪いけど多品種ね。最初は半結球レタス。そのうち、葉っぱがギザギザのか色んなものを。種について?レタスについては種はF1、在来など問わないね。これやりたい、このギザギザ、パリパリ、ふわふわがやりたいからって。
 いろんな種類を一気に納品したいんですよ。そしたらすごい綺麗じゃないですか。“レタスジャンキー”という名前でやろうかなと。
 仲がいいお店があって。そことシェアリングしているんですけど、僕は野菜を送るんですね、お金はもらわないで。すると、美味しいパンなどを送ってくれる。で、そこはハンバーガーが大好き。サンドイッチもやっているから、このサンドにはこのレタス、このバーガーにはこのレタス。そんなテストをしてみようって。加熱に合うレタスとかいろいろあるからね。

―シャキシャキを楽しむサンドイッチとか。

 そう。消費者の皆さんにもそういうのを楽しんでもらおうかなって。面白そうでしょう?

―はい!ワクワクしちゃいました。
お店で働いていると、農家さんそれぞれに、同じ野菜でもすごく個性があることに気づきます。とてもきれいな揃った人参とか。そこを見ると、大空のうえんさんの最近出荷されている人参はワイルドというか、自然のままだなぁという印象で。

葛藤は、ある

 あれは収穫ぎりぎりだったんです、笑。食べてみたらいけたので出荷しました。ただ、消費者の人たちは、小さくて綺麗な人参のほうが好きなんだろうなって思います。ツルッツルで。野菜洗浄機を使って、表面を削ってるんです。だから根っこもないでしょう。

―確かに。

 スーパーにあるのも全部ね。人参を洗うのって、とても大変なんですよ。なら、機械買おうかって。みんながそれを求めているのなら。うちも一度やった。ツルッツルになるんです。でも、そこにすごい葛藤がある。僕は野菜の皮をむかない派だから。

―無農薬野菜だから皮をむかないで食べられる…とはいえ、実は皮がすでに剥けてしまっている?

 そう。皮も美味しいって、コアなお客さんもいるかなって。だから根っこもついている人参になるんです。難しいところなんですけどね。

―あぁ~。そこまでの想像はできなかったです。そうかぁ…

 僕はそこの葛藤が一番大きいんです。味もいいんですよ。ただね、見た目が…。僕も商売やけん、売れないかんわけで。すごい葛藤。

―分かれるところではありますよね。あっちが好き、こっちが好き。人によって。お店だって、店によって雰囲気も客層もそれぞれ。だけど、背景をまったく知らない私たち(消費者)が、その野菜の背景を知ったらどうなるのだろう。野菜に限らず、お金を出して買うもの、手にとるもの…何を感じて選択するのか。その“余地”をもつことは、大切な気がします。

 さきほど、スカスカな野菜という話がありましたけど、それはもうすぐに分かるものなのでしょうか?

 県外に出たときに、産直などで「これ、珍しいな。美味しかったら種にしようね」って購入することがあるんですけど、「美味しい」って感じたことが一度もない。結局、道の駅の野菜でも当たりは引けない。お金を払っているわけだから、ちゃんと向き合って食べるんですよ。この白菜、すごく見た目は綺麗。試して買ってみる?って買ってみたらすごくスカスカ。キャベツにしても味がしないんですよね。その野菜の。ないしは肥料が多すぎてエグいねって。他所の批判をしますとね(笑)。ただ、うちの鳥、食べんもんね。

土をつくる

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―すごく大きな白菜とかありますよね。なんであんなに大きくなるんだろうって疑問に思う時があります。

 肥料を入れるのはすごく簡単なんですよ。僕は肥料を少なくしてどれだけの野菜ができるかって、そこに挑戦している。

―肥料を少なく。それは土の力?

 そう。緑肥。腐植っていう有機物ね。草とか。それをどんどん畑のなかに入れていくの。何トンも。でも、牛糞、鶏糞、豚糞も有機物ですよ。それをね、ほかのものと混ぜて…。普通は、よくやる農家さんは1反につき牛糞ならば。2トン。鶏糞は窒素が多いからそんなに入れてはいけないんですけど。僕たちが入れる肥料、おからのたい肥などです。僕がそれを入れるのは1反につき400キロくらい。きっちりした数字じゃないけども、だいたい6トンの有機物を入れる。それは手で入れるんじゃなくて緑肥っていう有機物を育て、粉砕してトラクターで漉き込む。要は、6トンも僕は運びません。畑まるごとたい肥化。畑のなかで僕は植物性だけのたい肥をつくる。地面のこのくらいの10センチくらいの層で。ここがポイントで、これより下だと有機物が腐敗しちゃうんですよ。空気が入らないから。明るければ、空気がよく入る。酸素が多いでしょ。あと、畑の表層には分解能力の高い微生物が集まる。光が好きな微生物って、いい微生物。暗くて湿気が多いところが好きな微生物はよくない。いいところで、スッと早く、“いい土たい肥”をつくりませんかと。その腐植とおからのたい肥、これはチッソ成分。リン、カリもあるんだけど。それと土の表層を10センチの土を混ぜ合わせて、2・3か月。それを月に一度、二度…できる時にトラクターで耕して。ここの中だけで土をつくる。で、作付けする前に30センチくらい深さの土と混ぜ合わせる。すでに完全に発酵が終わっている。そういう土づくりをする。そのために、肥料が少なくて済むんです。
 腐植と、還ってくる肥料…。要は青いものって、土のなかに入れると多少チッソが出る。植物から還元されるチッソを僕は使うようにしたい。
こういう栽培方法なんです。うちは。逢坂農園も末澤さんのところもだいたい同じ。有機の里のメンバーはだいたいこんな感じで育てていますよ。

※有機の里…「さぬき有機の里」。香川県内で、化学肥料・化学農薬(殺虫剤、殺菌剤、除草剤)を一切使わない栽培方法で農産物を生産する会員で構成されている農家の団体。各農家の野菜は、私が勤める春日水神市場、ちろりん村、マルヨシセンター、さぬきマルシェなどで主に購入することができます。

―有機の里メンバーで情報も共有しておられるんですね。

 そう。みんなで土の状態を見たり、講師を呼んでの勉強会。あと、例えば玉葱。種を直播きしてみましょう。発芽すれば、苗を植える手間がなくなるから。それはうちで実験して失敗したんだけど。
 でもそれも、僕がひとり失敗したことで済んだ。「玉葱の直播は怖いね」って分かった。苗の場合は3日間くらいかかるけれども、種の直播きなら1時間で終わる。それが出来たらすごい効率がいい。でも、僕が失敗したからみんなは直播きをチョイスしない。そうやって経験を共有できる。

―同じ方向をみなさんが向いている。

 共同出荷できるし、いいメンバーです。しっかりした先輩、親分がいる。技術の向上を図ることもできる。僕はもう中堅だけど、就農して5年くらいの若い子たちの売り先を確保したり、機械を貸したり、最近は若手育成に励んでいます。

―竹田さんのなかで、経験も重ねましたし、やり方は決まったと。

 土づくりはほぼほぼ決まっています。作付けは毎回ちょっとずつ変えているんですよ。どうなるんだろうって。どこまで放置しておけるかなとか(笑)。あえて不織布を除けてみるとか。本当は除けたほうが小松菜だったらワイルドな味がして美味しいんですよ。不織布をかけると軟弱になってしまう。それはそれで「サラダに行けるね」ってなるんですけど。でも僕は「しっかり噛めますね」のほうが好き。あえて、雨風にあてて強くする。

―なるほど。今後についてはどう考えておられるんですか?

”大空のうえん”のこれから

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果樹、そして梅干しプロジェクト

 家族を守っていけるくらいに、ちょっと規模を縮小したいと思うんですね。野菜は大変(笑)。土地も広いぶん、僕ひとりでは手に余る状態。で、果樹をやりたいと考えているんです。
 イメージはまず鳥。家族。そして少しだけ出荷する。予防をしないので、傷もできるでしょうし、見た目はよくないでしょうね。だから売れることは求めていないんです。果樹は今一年目。あとは“梅干しプロジェクト”。

―あ、そうでした。昨年の夏、畑を訪問したときに少しお聞きましたが詳しく教えてください。

 もう2,3年はかかるでしょうけど、有機梅干しをつくる。要は今、青梅はあっても“漬け梅”用の梅がない。完熟を待てない。その間に腐ってしまう。であれば自分たちで完熟させたのを漬けていこうと。赤シソは僕、いいのを持っているんですよ。大宰府の天神様の赤紫蘇が…(笑)塩も、さぬきのいいものを使って。

―わー、それはいい梅干しになりそうです。

 そういう梅干しは自分で買おうとしたらもとんでもない値段になります。ネットでも高い。で、果樹はすでに柿やプルーン、アーモンド、ザクロ、ネクタリン、柑橘類も5,6種類植わっていて、スモモがある。スモモはもう採れてるかな。ビワにキウイに。あと、種のあるデラウェアもやりたいなって思っていて。面白くないですか?デラウェアだけど種があるって。種、食べられるんですよ。

―ブドウなんかは、“種無し”品種が流行りですよね。

 種ないと食いやすいもんね。本来は種が入って初めてうまさが出るんですよ。食べやすいけど味は80点なら、多少食べにくくても味は100点のほうがいい。そこを攻めたいしやりたい。
 いま45歳ですけど、60くらいになったらどうしても身体は動かなくなる。そこから果樹を育てるってキツイ。でも、今からやっておけば。今年はグッと野菜を減らしています。緑肥ばかり、土づくりばっかり。その分、来年はたくさん野菜はつくるので。今年は果樹を植える。あと、山を少し開墾していてね…

―それは?

 キャンプ場をつくろうと。自分の(笑)

―収入を…ではなく。

 はい。遊び場です。小屋つくって、キッチン作って料理ができて…と。

ー奥さんもご家族も同じ気持ちでやりたいことも理解されているんですね。無理に稼がなくてもいい。

 そうそう。ただ、収入はいるよね。僕、車とかバイクも好きなので。奥さんも趣味が多いので。

―そこはバランスが取れるものなのでしょうか?

 農業って、儲かるんですよ、補助金とかもらわなくても全然。
 上代ってあまり意識していない。量なんです。薄利多売な感じ。余るくらい作ったときって、儲かるもの。採りきれたって時のほうが実は…という。単一農家のほうが効率は良いし、機械も専用のものを購入できる。人参掘り機に、洗浄機に、袋詰め機も…って人の手がいらないくらいに。ただ現状は、少量多品種のいいでしょうね。1回に持っていける野菜の量は同じものであれば、どうしても売り場が決まってしまう。置ける量も限られる。けれども、種類があるとその種類だけ売り場に置ける。採り遅れも少ない。だからね、こんなにいい仕事はないんですよ。何時に寝ても何時に起きてもいいし。昼から飲めるし。ま、夏は5時に起きて暑いから10時には、そしたら16時くらいまで海に入ってるんじゃない?ってくらい。そして夕方また少し農業して。5時起きの早起きって2か月くらいなもんなんです。農家って楽しいんですよ。

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(農園近くの小田の海)

―意外でした…。農家って“大変”とか“儲からない”ってイメージが出来てしまっているのは何なのでしょう。

 あ、でも何千万円とかって稼ぎたいなら別ですよ。個人の範囲で楽しんでいける。家族を守るだけの収入は余裕です。全然大丈夫。ローン組むのは嫌いだからキャッシュで払いますし。趣味はあっても、周りみたいにそんなにお金を使うことがない。外食もほとんどしませんし。

―そうですよね。お話にもあったように“シェア”もされている。

 そう。奈良のカレー屋さんに野菜を送ってビーガンカレーを送ってもらうとかね。そういうやり取りもしているから。

―それいいなぁと思います。

 お金が発生しないと、すごいいいやり取りができる。人間らしいやり取りというか。農業、どうですか?やってみません?

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(”大空”という地名自体が珍しく、素敵)

―本当に。コロナ禍で、「自分でつくれる」人、「つくる手段」をもつ人の強さを実感しました。命に近いところの仕事に携わる仕事は、まったくコロナであろうと仕事はなくならなくて、むしろ忙しかったわけですよね。市場のお客さんもとても増えた。竹田さんの話もあったように、シェアできる関係性があって、必要なときにそれができればいいし、楽しいこと。強さもあるし、可能性もある。我が家は、仕事上、コロナ禍であっても、コロナ前とあまり変わらない生活ができたんです。人も多くない香川。海だって山だって近くにある。本当にいいところだと実感してます。

 うん、いっぱいは守れないけど、小さくあれば守れる。そういう力もついたって思います。だからやっていける自信があるんですよね。

―だから果樹に移行もできる。

 僕は野菜は作れるし、どんな野菜でも何となくはできるようになったから、今はシフトチェンジ。新しい挑戦の年にしようと思っています。あえて規模縮小。ナスもいままで100本植えてたけど、今年は10本。めちゃくちゃ手間かけてみようって。どんなものが育つか。で、どれくらい実がつくかわかれば、来年はどれくらい稼げるかもわかる。できる範囲でね、小スペースで高収入を目指すというか。

―“自由”ですね。何にも縛られてないし、目途も立つ。

 空いている土地は緑肥を育てる。そうすれば来年、めちゃくちゃいい畑が待ってくれている。何つくろうかって考えることができる。種を蒔いておけば勝手に収穫までいけるでしょうね。土が出来ていれば何もしなくていい、50日ほったらかしておけば、いいレタスができる。人間ができることなんて最初だけ。植えてからは、最低限のことだけ…ネットを張る、支柱を立てるとかは必要ですけど、葉物みたいに小さな野菜は、勝手に育つ。人参だって一度間引いただけで、育つし、きちんとできる。

―そこは土に全部ある、と。

 そう。あとは何でもできる。土ができるまでは僕、一年間緑肥しか生やさないということもします。食物を作ったとしても捨て作というか、収穫しない。ここは“野菜を受け入れる畑ですよー”って土に記憶させるために蒔くくらい。それを漉き込んで…って。土は見ただけじゃわからない。中は見えんけんね。いい土というのは、草が生えていえれば、(草の)種類と色でどれだけ前作の肥料が残っているかがわかるんだけど。ツンツンしているイネ科の草だと、例えばホウレン草はいいものはできない。だから面白い。

―うちの子、4月から小学生になりましたけど、すでに「学校、行きたくない」と(苦笑)。もしこのまま学校が合わなかったら竹田さんのところで農業を…お願いします。
 
 このあたりの子ども、元気やで。ちょっとやんちゃな感じになるけどね。

―そっちのほうがいい。今の、なんでもシステム化。問題起こさない、順応するのがいいんじゃなくて、好きなものがあって、それを求めていけるほうが絶対いい。マスク姿で登校して、先生だってマスク。表情が見えない。わからない。給食だって黙って食べないといけない。楽しいわけがないよねって、娘の気持ちが痛いほど分かってしまって。

 子どもなんてのは、大きい声しゃべって、みんなでワーワーするから学校も面白い。距離をとって、みんなマスクして小さい声で…。病院じゃが!って思いますよね。僕ら、子どもおらんですけど、分かります。

―集団登校する姿、みんな笑ってないんですよ。

そりゃ、そうでしょうね。誰でもそうなる。辛いよね。

―はい。合わなかったら冗談なしに、うちの子、お願いします!自分でものを作れるって、強い。

確かにね、強い弱いでいうと、すごい強いね。 やりたいように、好きなように。こだわりがない。僕もやりたいようにやるので、って。強制されないし、強制しない。高い車乗りたいわけじゃない。ふつうでいい。

こうして、竹田さんにひとしきり話を伺った後、周辺の写真を撮らせてもらいたいと伝えると、畑を案内してくださいました。

ご機嫌な理由

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 畑では、ズッキーニが順調に育っていました。「どうかな…」と不織布をめくる竹田さん。
 「いいね~」と満足そう。少し生えている雑草にも「これはね、居てもらっていい雑草。やわらかいでしょう?土がよければ、カタい雑草は生えないから」と話します。

 (竹田さん)ここは、サラダミックス用の。うちだけのサラダミックスをつくろうと思ってて。“サラダミックス”というセットの種があって、それを蒔いているところが多いはず。だけど“サラダミックス”なんだから、いろんなものを育てて、例えばからし菜とかね。“大空のうえん”ならではのサラダミックス。一袋190円といった値段をつけているけど、以前は250円とかつけていたんですよ。なんで同じ“サラダミックス”でも250円のものと180円のものがあるの?って。それは単に儲けたいんじゃなくて、向き合って欲しいから。
 “あの人のこのニンジンこうやん”“このレタスはこうなんやぁ”って、野菜の話が食卓にあがってほしい。その野菜のエネルギーの入り方が違うはずなんですよ。そんな時間がめっちゃ大事なんです。野菜はお肉みたいにわかりやすくないから。より向き合わないと違いは分からない。水神さんのお客さんであればそれができるだろうって思う。
 
―あぁ、こうやって実際に竹田さんに話を伺って畑を見させてもらったら、大空のうえんさんの野菜を食べたくなる。そして、きちんと味わって食べたい。向き合いたいって思いました。

 確かに、こうして知ってもらうって大切かもしれんね。

ー鳥のさえずりが…あちこちから聞こえてきて。こんな気持ちのいい場所で野菜を育てて、日々を楽しんでいたら、ご機嫌にならないワケがない。

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そう。だから生産者シールに「笑顔のもと」っているんですよ。ズバッとね、一言でいきたい。電話がくるでしょう。すると言われるんですよ。「いつも後ろで鳥の鳴き声が聞こえるな」って(笑)。いい気分になりますよね。それでここの野菜を食べて、ハッピーになれたらいいでしょ。

“笑顔のもと”

 着地することができました。

機嫌がいい人って、すてきです。


取材日:2021年4月19日

福祉に関する記事をいつも読んでくださっている方には「農の話?」だったと思います。けれども、根底の、本質のところで、オーガニックな食や農、教育、芸術って、繋がっているところがある。そう感じて仕方がない。その繋がりを言葉という道具を用いて、伝えることができないか試みたいのです。

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