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大村市黒木町(萱瀬地区)周辺における現地方言フィールドワークレポート

概要

参考資料

長崎県大村市萱瀬方言の考察

日本のことばシリーズ42 長崎県のことば

対象者
70代男女
40代男女
20代男女
9歳男児、6最女児(以下『児童』)

大村市方言について

今回フィールドワークを行った方言は主に大村市の萱瀬地区である。
そもそも大村の方言は長崎市内の方言や諫早、島原の方言と共に県中南部の方言にあたる。地理的には最も広い方言区域で、広義の分類上、大村市と東彼杵郡、大村湾を挟み西彼杵郡と分けられる。この、萱瀬自体、平地にある市街地とは異なり山にあり黒木渓谷の中に孤立するような形にある事や、山を越えた先に佐賀県、県内を移動すると諫早とも隣接していることから互いに類似する点が多く、特に諫早方言とも語彙など共通点がある。
しかしながら、現代における伝統方言の衰退及び県内方言の統合化・共通化も視野に入れ今回は独自でレポートに纏める。

分類

日本語>九州方言>肥筑方言(九州西部)>両肥方言>長崎県中南部本土方言>大村・彼杵方言>大村・東彼杵方言>大村方言

発音

エ段音の拗音化

拗音化が70代の話者に観測された。
『エリ』という人名を『イェリ』の様に発音しており無意識的に発話しているが、はっきり固有名詞を言い表す際は同語の場合は『エリ』と発音される。これ以外にも『先生』を『シェンシェー』と発音されるのも観測したがこれはそこまで顕著ではない。
この現象はしばしば九州全域の方言資料で紹介されやすいものだが、現況においては高齢者でも観測されることは少なく珍しい。

促音化

動詞語尾「る」の促音化が筑前方言を除く肥筑方言や薩隅方言では特徴として紹介されるがどの世代も観測された例が少なかった。
しかしながら、後接される準体助詞「ト」や終助詞、文末詞があるなど特定の条件がある場合のみ観測される。また、「る」に限らず尊敬語の『ラス』、『ス』などの「ス」や連用形「シ」が促音化される事も多い。


『サイキン、スポーツンゴタッツワ シヨラット?』(最近、スポーツとかはしているの?)
→音便なし『サイキン、スポーツノゴタルトワ シヨラスト?』

『ジイチャンノ ソガン イワッタ』(爺ちゃんがそう言いなさった)
→音便なし『ジイチャンノ ソガン イワシタ』

アクセント


アクセントは20~70代は九州2型アクセント、児童においては東京式アクセントの影響を強く受けていた。
2型アクセントの特徴は拍数に関わらず2通りの型にわけられ、A型と呼ばれる型は2拍語は1拍目を、3拍以上の語は前から2拍目までを高く発音し、B型は最後の拍だけ高く発音する。

聞き取った例

A型:『昔』→HHL『諫早』→HHLL
B型:『駅』→LH『周辺』→LLLH

例外として外来語等の語彙に関しては東京式アクセントと変わらず発音される。

『ターミナル』→HLLLL

文法

形容詞語尾

大村方言を含むほぼ全ての肥筑(九州西部)方言では形容詞また形容動詞にカ語尾を付けることがある。
調査対象者は児童世代を除きほぼ全世代でカ語尾を用いる。
また、児童世代を除いた世代では形容詞の推量形にカリ活用を用いる「カロー」という場合と助動詞「ヤロー」をつける場合がある。

『ソトワ アツカロー』(外は暑いだろう)

『ヨカヤロー チ オモータタ』(良いだろうと思ったよ)

待遇表現 尊敬語の発見

尊敬語は長崎県の方言や佐賀県、熊本県、福岡県の筑後地域などにおいて、「ラス」、「~ス」などを用いる事が共通されている。他にも表現は多々あるが、前述のものは現況において頻出される。

また今回の調査では、前述の促音化の通り従来の資料には無い促音化現象を観測した。
この促音化現象は児童世代を除き全世代に現れる現象である。

本来は前述の通り『言いなさる』や『来られる』などの表現は伝統的に『イワス』、『コラス』などのような表現になる。これが過去形になったり、終助詞が着くと『イワシタ』、『イワスト?』や『コラシタ』、『コラスト?』となるのが従来の表現の仕方である。

所がこの地域の対象者はサ行音が促音化され、

『イワシタ』は『イワッタ』
『イワスト?』は『イワット?』
『コラシタ』は『コラッタ』
『コラスト』は『コラット?』

となる。

断定辞

断定辞は全世代が「ヤ」になる。
また、動詞の過去否定形が児童世代を除き殆どが「ンヤッタ」になる。これはほかの九州方言の動詞過去否定形や現況の西日本全体の方言の若年層の方言にしては珍しく、これらの表現は他の地域(主に本州側の西日本方言)では標準語の影響により「ンカッタ」となりやすい。
逆に更に伝統的な「ンジャッタ」(ジャ断定辞)や打ち消しの「ズ」から来た「ザッタ」過去否定形は出現されない。

『アサー タベンヤッタ』(朝は食べなかった)

『オバアチャンバ ミランヤッタ』(おばあちゃんを見なかった)

可能表現の発見

可能表現は基本的に他の九州方言と同様に状況可能の「(ラ)レル」、能力可能の「キル」は共通しているが、能力可能に関してはこの地域では否定形の場合、語幹を伸ばす癖がある。
本来は『(能力的に)行くことが出来ない』、『行けない』などを言う時に『イキキラン』と他の九州方言や従来の資料では現れるがここでは『イキーキラン』や『シーキラン』としばしば長母音を挟むことが多い。これもほぼ全世代を通して共通されている。

『コガン フトカトハ タベーキランタ』(こんなに大きいのは食べきれないよ。)

『ワタシ、ウンテンシーキランモン』(私、運転出来ないもの。)

希望表現

伝統的に動詞の意志形に助動詞「ゴタル」を付けて表現するが、70代を除き、40代、20代は助動詞「たい」のカ語尾形、『タカ』を用いるのが一般的で児童世代はそのまま「タイ」となる

『ライネンワ ソッチ イコーゴタットバッテンガ』(来年はそっちに行きたいんだけど)70代

『テレビバ ミタカ』(テレビを見たい)40代

『ゲームシタイッテ!』(ゲームしたいって!)児童世代

主格助詞

肥筑方言全域では伝統的に主格の「が」は『ノ』と用いられるがここでは珍しく児童を含む全世代が『ノ』と伝統が継続的に用いられている。

『オトーサンノ イワッタッタ』(お父さんが言ったんだって。)70代

『アノネー、オニーチャンノネー、ソトワ ヤダッテ イッテタノ』(あのね、お兄ちゃんがね、外はヤダって言ってたの。)(児童世代)

引用助詞

引用助詞は70代が狭母音化された『チ』、40代、20代が『テ』、児童世代が『(ダ)ッテ』を用いる。

『コイワ スカントチ』(これは嫌いなんだって)70代

『アスコワサ、ミチノ ケワシカトテ』(あそこはね、道が険しいんだって)20代

『ゴクウブラック シラナインダッテ』(ゴクウブラック知らないんだって)児童世代

準体助詞「ト」

準体助詞「ト」は肥筑方言全域において見られる助詞だが児童世代においては標準語の影響により「ノ」を用いる場合が殆どである。また、40代、20代においては下接される断定辞により、音便化される。

『キツカトヤロ』(きついんだろう)70代

『トーキョーニ イクッチャロ』(東京に行くんだろう)20代

『オネーチャン、ナニシテルノー?』(お姉ちゃん、何してるの?)児童世代

仮定接続詞

仮定接続詞は諫早の方言にもある『アイバ』を使用する。しかし、これは70代のみに頻出され40代には稀に、20代以降の世代からは全く聞かれない。

『アイバ キョー オイガカタ コンネ?』(じゃあ今日うちに来ない?)

語彙

語彙は今回の調査で特に目立ったものは見られなかったが伝統的な語彙を20代の若年層が用いてたので記述する。

『シコル』は「かっこつける」を意味する言葉で長崎以外でも熊本でも用いられるが標準語の影響により猥語の自慰を表す言葉に近いため若年層においては言葉を避けられる傾向が強いが今回の現地調査においては自然に観測された。

『アイツ、ナンバ シコットラット?』(アイツ、何をかっこつけてるの?)

おわり

今回は初の試みにより現地調査、フィールドワークを行いました。単純に聞いた事をそのままメモをしているのみの内容となっているためあまり意味は成しませんが何かの役に立てればと思います。
同時期にコンカフェにも巡ったためそちらにも目を向けてほしいと思います。

コンカフェレポート

拝読ありがとうございます。

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