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恥じて隠すものなど無き 無花果 ヌチグスイ*㉓

まだまだ残暑厳しいが、朝夕集く虫の音に秋の気配?と思ったら、ほぼ時を揃えたかのように、ご近所さんからイチジクが届き始めた

そしてこれは、スーパーのフルーツコーナーで見かけ始めたタイミングとも同時だ。日持ちが短くデリケートな果皮の果物なので、店先には近隣の成果物を並べるためだろう。

頂き物を早速、そのまま皮をむいて、今年の初物をぺろりと頂いた。口の中にねっとりとした触感とふうわりとした甘さ、鼻孔に独特な香りが広がる。種のプチプチとした歯の感触も個性的なイチジク。実は、我が家の裏庭にも1本植わっている。その木の枝にも小さめな実がいくつか赤く色づき始めているのが部屋の窓から見える。そのままに置いておけば、多分さいしょにそれを味見するのは烏にちがいない。

イチジクを味わいながら、母とイチジク談義を始めると、彼女は「ジャムにするのがいい」と主張してきた。わたくしは、シロップ煮が好みなので、この果実が今後どのくらい我が家に届くか次第で、ジャムかシロップ煮か、はたまた両方を作ることになるかが決まるだろう。とりあえず、第一陣は夕食に、小さめにカットしたイチジクとちぎったリーフレタス、薄切り胡瓜にオリーブオイルとハーブソルト、調味酢を合わせてサラダでいただいた。可愛い薄ピンクと淡いグリーンが目にも楽しいサラダになった。初めて口にした母は、驚きながら「きれいで美味しいね」と喜んでくれた。この人は、新しいものに抵抗感が少なく、それが食の好みにも反映されているので、食わず嫌いがほとんどない。おかげで、わたくしの食事の用意は自由度が広がって、ありがたい。生ハムが入手できれば、次はイチジクを巻いて食べたいな、とわたくしは秘かに企んでいる。きっとワインと最高に合うんだろうな、と思いつつ。

ところで、イチジクと言えば、わたくしはかねてから、その葉っぱについて疑問があった。アダムとイブが楽園を追放される時、身に着けていた唯一のアイテム。「なぜイチジクの葉?」キリスト教徒でもない、東洋人のわたくしには知りえることがなかった謎が、ここでやっと氷解した。↓

他でも調べてみると、絵画の世界では、罪人などが裸体で描かれるようになり、辱めを受ける象徴がイチジクの葉とされていて、現代でもキャリアの恥部を英語圏では「イチジクの葉」と表現されると知った時は、なんだかイチジクが気の毒で切なくなってきた。まるで濡れ衣を着せられているような扱いではないか?

実際には、イチジクは超一級の栄養抜群果実であり、おいしさも兼ね備えている優れものである。干したイチジクはさらに甘味が強く、おやつにもおつまみにも最適品である。そして晩夏の今、旬を迎えた状態のよいイチジクをゲットすべく、良品ポイントを知ってから、お買い物に出かけてほしい。↓

そして、普段のショッピングシーンではそうお目にかからないかもしれないけれど、その葉っぱは、恥ずかしいどころか、効能もすごい、イチジクは、誇れる果樹だったのである。↓

この記事を参考に、入浴剤やお茶を手作りしてみるのもいいなと、イチジクの無罪が確定したような心持ちで考えた。そんなご機嫌な気分で探すと、イチジク押しの素朴なミュージックビデオまで見つかり、さらに明るさが増量中のわたくしである。

イチジクの発音は、中世ペルシア語で呼ばれていた「anjir」が、中国に渡って、「映日果」となり、その「イェンジェイクォ」が、日本人には「イチジク」と聞こえたとされているそうな。伝言ゲームのような呼び名の変遷の末に、この動画の歌のように、一字一句と当てはめるのは意外性溢れる面白い言葉遊びだ。きっとイチジクもご満悦であろう。

西洋文化の罪人がらみの暗いイメージなどどこ吹く風で、滋養ある果樹として、この国で誇り高くたわわに実を結んでほしい。イチジク同様に、人間にだって本来罪などなく、自分と他者を同じだけ大事にしながら、それぞれの目的に真摯に向かっていけば、自ずと皆が笑顔で暮らせる世界になるのだと、単純でお気楽なわたくしは思うのだ。ひとには元々恥ずべきものなどないし、それを隠すものも必要なかったはずである。同調圧力という名の息苦しい束縛の副産物が、恥じ入り隠すことなのではないか。

だからこそ、自分の本意からではないマスク装着の人々には、隠したものが見られてしまう不安か怯えのようなものを纏うイメージが感じられて、わたくしは、なんとも落ち着かないのだ。

イチジクがその大きな葉をのびのびと日の光に向けて拡げ、甘い果実を結ぶように、自由闊達な雰囲気がこの社会に今こそ必要だと痛感する。今の混乱した疫病騒ぎのなか、暑さや災害でへたばりそうなわたくしたちは、ここ数年ずっと抱えたままの疑義や異議を、そろそろオープンに表現してもよい頃合いなのでは?と思うのである。ただ素直な真情を吐露することは、恥じることでも、隠すことでもないのだから。

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最後までお読みくださり、ありがとうございます。和風慶雲。


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