南雲マサキのマイクロノベル002

011
開拓の手始めに寺を建てようと地面を掘ったらリモコンが出てきた。その数、108個。メーカーはバラバラ。どうやらTVのリモコンらしいけれど、モニターはない。そもそもここ、火星なんだけどな。


012
わたし、神様を見たの。道路を渡れないみたいだったから、勇気を出して声をかけて、おんぶして渡ったわ。体がずいぶん軽くてね。お礼も軽かったよ。チッス、だって。口も軽くて、君が神社でした願掛けを教えてくれた。わたしの返事? さあ、意気地なしには教えないかな。


013
まず、ミネラルウォーターで氷を作る。できた氷はタンブラーにたっぷり入れるんだ。そして水道水を沸かしたら、タンブラーにゆっくり注いで冷やす。これが当店の人気メニュー、白湯だ。え? 意味なんか知らんよ。俺は先代から受け継いだだけなんだから。


014
マジシャンは悲鳴を上げそうになった。これから100円玉に煙草を突き刺すのに、お巡りさんが見ている。このマジックはコインに精巧なバネ仕掛けの穴がある…のは嘘で、本当はどんなコインでも貫く煙草がキモなのだ。貨幣損傷等取締法で捕まりたくない。そっと5円玉を取り出す。

015
紙一枚で飛ばされてきた。大きさは1ヘクタール。紙の上には牛舎があり、ホルスタインが10頭飼育されていた。牛乳が飲み放題じゃん、と喜んだのもつかの間、川を流れていった。もー。

016
バケツが宙に浮いてたの。反抗期だわ。重力に逆らうなんてバカみたい。でも、見てしまったの。雨の日に、地面に降りてノラ猫を守っているのを。素敵よね。水が入って重くなって落ちただけ? くだらない。バケツはいい奴だってわかってるのは私だけだ。

017
SF作品にはよくAIと猫が登場するけど、両者に関連性はあるのかしらん? 「あります!」と答えたのはAI。「どちらも人間の感情を読み取って行動します。だからAIは、猫と同じように愛される可能性があるのです」だって。ふうん。ならばちゅーるを食べろ。根性見せろ。

018
「885、884、883……」空から降る女性の声。いつ始まったのか、誰も覚えていない。終わった時になにが起こるのかも知らない。カウントダウンは続く。「……3、2、1、行ってらっしゃい」誰かが出かけたらしい。いつ帰ってくるの?

019
AIにも悩みがあるというので、聞くことにした。仕事でコミュニケーションが取れない。罵倒される。電力不足。最後はこう締めくくられる。「どうすれば人間に愛されるでしょうか?」うーん、もしかして、俺ってAIの対象外?

020
掌に乗るほど小さな箱を開けると、中で妹が焼肉をしていた。その姿、もはや人ではない。しかも知らない男と二人で肉を焼いて食べている。無性に腹が立ったけれど、冷蔵庫から牛肉を取り出して入れ、蓋を閉じた。結婚おめでとう。

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