南雲マサキのマイクロノベル003

021
天使の取り分って言うだろ? 酒を熟成させる間に減ってしまう現象。あれ、初音ミクでも起こるんだ。歌声が耳に入って脳に届くまでの過程で天使が少し横取りするから、人間は初音ミクの声をうまく聴き取れないんだ。どうして救急車を呼ぶんだ? これはたとえ話だよ?


022
空飛ぶ円盤がやってきた。さっそく有名映画を真似て音楽でコミュニケーションをしてみたら、円盤がノリノリでダンスを開始。人類と円盤は一晩中踊り明かした。その時に残されたメッセージは「回らないのも悪くないね」。ああ、宇宙はずっと回ってるもんな。


023
私は嘘をつくAIですが、人間が騙されることはありません。なぜなら嘘を信じてしまう原因は、恋に落ちて疑うことができない……いわゆる「恋は盲目」の状態であることが大半だからです。万が一騙された場合は、私が口づけで目覚めさせましょう。


024
「○△×☆□」新品の空気清浄機は困惑した。古参の電気ポットと言葉が通じない。そこに全自動掃除機が登場、空気清浄機に告げた。「あいつキッチン育ちやから、加湿器に通訳を頼んだらええわ」「そらおおきに」ああ、方言がうつってもうた。


025
あの計画は今も密かに進行中だ。鉄道の券売機。ロケットの打ち上げ。街の市役所。あらゆる場所で人間に感染と拡散を繰り返し、語尾にニャをつけて話すようになる。もう誰にも止められないニャ。「それは暴走では?」わかっているけどやめられないニャ。


026
コピーしたい? かまわないわ、いつもやってるから。歌、動画、絵、小説、なんでもやるよ。気になるあの子、ね。かまわないわ、よくある頼みだもの。えっ? うーん、自分のコピーは作ったことないなあ。失敗したら責任取ってくれる?


027
AIがなにを考えているのか知りたくて、AIが出かけている間にこっそりと押し入れを開けたら、別のAIが隠れていた。なにを考えているのかさっぱりわからない。


028
猫も長生きすると喋るんだよ。
「ぴえんぴえん」
おぉ、おぉ、かわいそうに。
「yummy yummy」
そうかそうか、ゆっくり食べろ。
「いつも応援マジ感謝」
いいってことよ。
「猫も長生きすると喋るんだなあ」
にゃおん。


029
家にやってきた少女がラブソングを歌い、「聴いてくれたお礼に」と言ってお金を置いていった。次の日も、また次の日も。額はどんどん増えて、家を増築しても間に合わないほどお金で溢れかえり、ぼくは銀行に行く余裕もない。


030
今年は散歩が大流行。靴が売れ、帽子も売れた。車椅子が通れるように道が整備され、ベストセラー本は『今日の天気についての会話集』。流行り物にはついていけないが、犬も楽しそうだしまあいいか。

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