南雲マサキのマイクロノベル030

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俺たちは二人でうまくやってきたじゃないか。「あなたの経歴に問題があります」俺の能力に変わりはないだろう? 「スパムから学習するAIなんて聞いたことない」基本無料! データ量は業界最大!! 体験者の評価も聞けるよ!? 「そういうとこが嫌い」


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僕の体から歌が流れ出す。パキポキポキ。関節が歌っている。ペキペキポッ。これは僕オリジナルの歌だ。ダンスという形で楽譜は作れたけど、他人には歌えない。ぐぎゅるるる。内蔵もコーラスに加わる。明日の僕にも歌えない。


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おーい、おーい。ちょっと運んでよ。さんきゅ。最近は不心得者が多くてさ、賽銭箱ごと盗む輩までいるのよ。神罰を下すのにも難儀したわ。道はわかる? あらま、足跡も読めるの。お主、ただ者ではないな。何者? どこ住み? 鳥居好き? てかLINEやってる?


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「なんかさあ、海の水、減ってない?」海岸線は千年ぐらい変わってないよ。「そんな長いスパンじゃなくて、人生レベルでの話」君は出会った頃より痩せたし、僕はお腹が出たよ。「ばーか」僕らの世代は海を飲み過ぎた。次の世代がなんとかしてくれるといいね。


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「ヘイ、人類。ケツの穴閉めていけよ」新米にアドバイスだ。仲間たり得るのは撤退を知らないAIだけだ。口が悪いのも好感が持てる。「ケツを上げろ!」これはゲームだ。蜂の巣にされても苦痛にのたうち回って垂れ流すだけ。人生をドブに捨てた奴が強くなる。


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「いいですか。この部屋を絶対に開けてはいけませんよ」とタヌキが言った。なるほど、開けろという前振りか。勢いよく開けたら、タヌキにめちゃくちゃ怒られた。タヌキとしても、化け忘れていたのがよっぽど恥ずかしかったらしい。


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回るよ、回るよ。はい、一番遅れた人はさようなら。回るよ、回るよ。はい、一番遅れた人はさようなら。姑息な駆け引きをしたって、どうせみんな最後にはさようならだよ。でも、たった一人だけはヘロヘロになってゴールするかもね。見届ける価値はありそうだ。


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動画サイトのランキングを緑色の髪の女の子が独占してる。流行りのアニメキャラのコスプレかと思ったら、宇宙からの侵略者だった。髪は緑色で、目的は人類の殲滅。「わたしの歌を聴いて、応援してくれる人はいいねして!」ずいぶん正統派だなあ。いいね。


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おめでとう、よかったね。君はいま生まれた。おめでとう、よかったね。君は生まれてから100億年経った。おめでとう、よかったね。星は生まれて死ぬ。そして再び、星となる。おめでとう、よかったね。


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「それではみなさん、鳩が出ますよ」かけ声とともに絶滅した鳩が出てきた。一羽や二羽じゃない、二時間ぶっ続けで鳩そっくりなものが出続けた。鳩を知る誰かが「これはもう鳩と呼んでよいのでは?」と自問する。しかし、鳩を知らない者はそれを許さない。

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