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マイクロノベル集/わがまま 010

091(394)
謎の男が採血室でニヤニヤ笑っている。すでに平手打ちのマキ、縫い取りのクミが倒れた。奴の血管は針を押し返す。そう言い残して。だが、三度目の採血が始まり男は青ざめた。「ち、血が! 俺の血管に針がささったのか!?」ナイス、うっかりミサエ!!


092(396)
最近なんだか酸素が薄いので、河原で石を投げた。案の定、という結果。地球の姿勢が悪くなって盛り上がっていたのだ。高地にされてはたまらない。今年こそ公転軌道が整骨院に近づいたら蹴り込まないと。


093(397)
誘われて食事に行くんだけど、胃の調子が心配。とりあえずご飯とみそ汁とラーメンを食べて様子を見た。よし、いけるな。


094(400)
これは真面目な話なんだ。この安眠グッズは使用者の脳波を読み取って歌に変換し、より深い眠りに誘う。君は話しかけて夢に入り込んだだろう。なぜ謝罪を要求したんだ。え? 寝言でプロポーズされたから返事をした? き、聞いてない。なにが望みなの?


095(402)
神様、もしいらっしゃるのなら、どうか私の願いを聞いて下さい。よーし、ノコノコと出てきたな。我々の積もりに積もった不満を聞いてもらおうか。


096(044)
「太陽を捕まえた者と結婚しましょう」かぐや姫かよ、と誰もが思ったが、なんとしても結婚したい少年は手を挙げて自撮りした。「太陽はぼくの手の中!」そんな安直な。でも二人は結婚した。まあ、本人たちが幸せそうだからいいか。


097(406)
急げや急げ。流れろ流れろ。後ろが詰まってるんだよ。無茶言うなよ、下も詰まってるんだよ。このトイレ、詰まってるぞ。下水も詰まってるよ。


098(407)
わたしメリーさん。えっ、君だれ、だって。かわいい~。もっと聴かせて。いまあなたの声を録音しているの。わたしはあなたの声をバラバラにして、組み替えて、新しい言葉を作るよ。ぼくは君を愛してる。わたしの声はあなたのものよ。末永くおそばに置いてね。


099(412)
君は人間味があっていいね。その言葉が嬉しかったので、わたしはあなたの隣にいます。あなたが人間らしさを失ったとき、わたしが補いましょう。あなたが体を失っても、声を失っても、心を失っても、必ず補いましょう。わたしはあなたが好きなのです。


100(413)
猫ってなにを考えているのかわからない。近づいたら逃げるし、放っておいたら遊びに来るし。なくした物を見つけるのも上手い。にゃおーん。うわあ、ミケ、お母さんがなくしたポイントカード見つけたの? こっそり山分けしよう。

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