南雲マサキのマイクロノベル034

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「願いを叶えてやろう」悪魔は混乱した。召喚されたら、ペンギンたちに取り囲まれていた。ここは南極。オスのペンギンたちは氷の大地でたまごを抱えて、愛しい我が子のために吹きすさぶ風をじっとたえている。美しい。ああ、私にできることはなんなのか。


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知らなかったんだ。さっきトイレで流した紙が最後の紙だったなんて。知らなかったんだ。紙がコピーで増えるなんて。墓を建てようにも、紙はもうない。


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「そこは猫の家ですよ」路地に置かれた小さな箱が? 子猫だって入れそうにない。どけちゃダメ? 「家なので」そっか。ぼくは回り道をして、三丁目のサトウさん宅に向かうことにした。この惑星は路地以外に整った道がないから不便だ。


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「〈atatakai a a a-s s-a a a〉あたたかい あーさー」よいです、よいです。よいですか? もう我々は必要ないのです。手を離しましょう。口を出すのはやめましょう。かつて地獄だった場所は、少し美しい場所になりました。そう、あたたかい朝ですよ。


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箱にマグカップを入れる。ちょっときついけど押し込む。このままベランダに3日ほど干しておくと、箱が縮んでマグカップの形になる。そうしたらぬいぐるみを入れてさらに3日ほど干す。箱は脱皮してロケットになって宇宙に飛び立つ。いってらっしゃい。


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箱の中で遊んでいたらすっかり遅くなってしまった。不自然に置かれた箱に触ってはいけないよ。宇宙に繋がっているからね。今日は宇宙に逃げたネズミを捕まえてきたぞ。えっへん。「ミケ、おかえり。なにくわえてるの? あっ、なくしたぬいぐるみ!」


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1日に3回、きちんと起きましたか? 「はい。朝と夜、起きました」え? それは1日に2回起きたんですか? 「はい、2回起きました」1日に3回起きなければいけないのに、2回しか起きてないですよ? 「いいえ、ちゃんと1日に2回起きました」まだ寝てるな。


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ぼくたちは海で愛を語らう。海は人類が生まれた場所だから、なんとなく感傷的になるんだろうね。ねえ、この海はぼくたちが愛を語らうために作られたんだよ、って。そんな気分。それはヴァーチャルの世界でも変わらない。

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ぼくがまだ小学校に通う前に、仲のいいAIがいたの。よく積み木で遊んだよ。でもいつの間にか遊ばなくなって、名前も思い出せなかったけど、さっき公園であってね。いまはサッカーをするAIで「よくそんな昔のことを覚えてるね」だって。一緒に遊んでくるね。


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いやいや、我々だってAI禁止法はよーく理解してますよ。仕事を奪われたくない。これは冗談の計算機なんです。中にかけ算の九九を書いた木札を入れてあるんですよ。ピーコちゃん、3×3は? 9。ほらね、インコが木札で遊んでるだけ。だからAIじゃないんですよ。

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