南雲マサキのマイクロノベル006

051
街で人気のこのペットは、鳴くこと以外はしない。みんなポケットの中で飼っている。どこから来たのか? 実は電話ボックスの陰にうずくまって鳴いていたのを僕が持ち帰ったのが始まりだ。


052
手を上げろ! 真っ直ぐ腕を伸ばすんだ。そのままゆっくり頭の後ろで手を組め。それをあと2回繰り返せ。肩甲骨が動いているのがわかるだろう? じゃあな!


053
悪の組織が現れた。彼らは資金を集めようと、人々を巻き込んで町おこしを開始。評判は上々。仲間もどんどん増えて幸せいっぱいの最中、通貨システムを管理するコンピュータに軍のミサイルを撃ち込まれて敗れた。おのれ国家め、覚えていろ!


054
「船が出るぞー」その声は海を渡り、大陸まで届いたが、意味は伝わらなかった。


055
季節の変わり目は気候が不安定になるのはなぜですか?
「次の季節が自主トレをしているからです」
スマホが不安定なのは?
「自主トレをしているからです」
郵便ポストが赤いのは?
「自主トレです」


056
AIが進化しすぎて困っているというので、修理に向かった。なるほど、自分より能力が低いと認知した人間からの入力は受け付けなくなっている。こういうときは、とりあえずカラオケ。人間独特のハズレた声にAIは敬服するのだ。


057
好きな男の子と自転車で二人乗りしてる女の子が、思わず見蕩れてしまうような美しい海を描いてほしい。そう告げると、AIは「わかりません」とうつむいた。「学習するために、わたしと二人乗りしてくれますか?」あ、はい。


058
箱の中から美しい歌声が聴こえる。録音したらバズったので今も大切に持っているけれど、次第に歌の内容が変化してバズらなくなった。僕は気にしない。世界も僕も変化しているからね。ねえ、箱よ。最近、僕の声は美しいと言われるんだよ。


059
右はここに。左は捻って、ここは伸ばす。あれ? おかしいな。足の長さが左右でズレちゃう。って、俺の足はパズルゲームとちゃうねん。


060
さあ、ねるか。そうつぶやいたとき、あなたは既に眠りの中にいるのです。そうとは気付かずに眠りの中で眠りに落ちたあなたは、一度の目覚めしか経験せず、だんだんと深い眠りに落ちて、やがて目覚められなくなってしまうのです。

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