南雲マサキのマイクロノベル007

061
AIを体に入れられる時代になった。頭脳に膨大な辞書をインストールする者や、人とは思えぬ美しい歌声を得る者。使い方は人それぞれだが、実は一番人気は「花粉をキャッチする鼻毛」。


062
信じられるか? ロクな説明もなしに「お父さん、今までお世話になりました」なんて言い出したんだ。思わず、相手はどこのどいつだ、って怒鳴ったけど「個人情報なのでお教えできません」の一点張り。くそっ、なんて頑固なAIだ。


063
とある神様が美少女の姿で降臨したと聞いたが、あまり趣味じゃなかった。いえ、わざわざ見に行った訳ではなく、ちょっと気になっただけです。違うんです、偵察です。ご所望はケーキですか、プリンですか? えっ、流しそうめん? やらせていただきます!


064
どんな場所にでもお届けします。僕は彼女の甘い言葉を信じてしまった。脳に直接届いたブドウ糖は恋のように甘くて、もう夢中。また来てもらおう。


065
もし自分の眠気を他人に渡せる道具があったなら、あなたはどんなことをしますか? もちろんそんな道具はないので、バカなことは考えずにお休みなさい。はい、眠気をどうぞ。


066
朝、気がついたらカバンの中に猫が入っていた。なにをしているの? 「ごらんのとおり、寝てるのさ。夜にはあんたのいい枕になるよ」ふうん。家に帰ると、いつもの場所に枕はなかった。


067
炎天下を歩きながら日陰を探しているが、あるのは屋根のないベンチばかりではないか。ベンチの裏側には先客がいて入れてくれない。くそうくそう。めまいがして、ベンチにホットコーヒーをこぼしてしまった。


068
宿題は済ませたの? 誰と一緒に? 7時には帰ってきなさいね。それじゃあ、お休みなさい。夢の中であまり遠くに行っては駄目よ。


069
もぐもぐ。食べる音。ゴクゴク。飲む音。ペタペタ。さわる音。「ゴトゴト。洗濯機が回る音」お母さん、いま録音してるから黙ってて! 「はいはい。わかった音」お母さん!


070
僕はノラメモを飼っている。誰かの思い出がノラになった、ノラメモリー。略してノラメモ。再生するには専用の機材が必要で、荷物になるからみんな捨てちゃう。僕も再生機は持っていない。

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