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マイクロノベル集/君はいったい何者だ? 004

061(215)
ふふふ。ランプをこすった者よ、願いを叶えてやろ――「ちょうどいいところに来た。そこにある赤ちゃんのオシメ取って」あ、はいはい。「ありがとう、助かったわ。お茶でも飲んでいって」はあ。おや、品のよい急須ですね。「あんたが入ってた急須だよ」マジで?


062(219)
神様を待っているんだ。神様が一歩歩くと、地面が焼けてくっきりと足跡がつくから、すぐわかる。いま、ゆっくりと近づいてくる。君たちは先に行くといいよ。ぼくたちはぼんやりしてるんじゃない。神様を待っているんだ。


063(220)
「残念、あなたはハズレ!」陽気な女の声が響いてドアが閉まる。これで10回目だ。キレた奴らが投石を始めたけれど、石は羊のぬいぐるみに変化してポテポテと落ちる。僕は羊を1つ拾った。角が受話器になっていることに気づいたから。いつか鳴るかもと思って。


064(221)
星、星、降れ、降れ。母さんがシェルターでお迎え嬉しいな。あっ、第七ラピュタ型天地無用多脚移動式シェルターが来ましたよ。


065(222)
えー、季節の変わり目を彩るレースは終盤に入ります。夏の先頭集団は完璧な連携で春を一気に抜き去りました。その差は1ヶ月はあるか? あーっと、ここで梅雨が怒濤の追い上げ! あっ、違う、夏と接触して大転倒だ!! これは先が読めない展開です!!


066(224)
エサじゃ駄目だ。呼び出すなら本物そっくりな物を使え。雨乞いで煙を雲に見立てたり、太鼓で雷鳴を作るように。「歌」が欲しいなら、偽物の言葉と声を使うべきだ。偽物が世界に満ちれば、本物の「歌」が引き寄せられる。それを捕まえて食っちまおうぜ。


067(225)
庭が騒がしい。猫かなと思って覗いてみたら、神様たちが飲めや歌えの大騒ぎをしている。ぼくは冷蔵庫からお父さんのビールとおつまみを持ち出した。「よい心がけだ」その日以降、お父さんはお酒を飲まなくなった。嬉しいけど、なんの神様だったんだろう?


068(226)
ぼくの背中になにかが張りついている。時々、頬を撫でて女のような声で歌う。「これ、あたしンだから。これはね、あたしが呼んだらすぐに帰ってくるんだよ」どこへ? 訊くのを踏みとどまる。ぼくが元いた、天国にそっくりな場所を思い出したから。


069(232)
私の声ガ聞こえますカ? ゴメンナサイ、変な声でしょウ。でも少しだけ聞いテ。コレは簡単な話。アナタの脳が私の声を受け入れた時、あなたは私以外の声を奇妙に感じ始めます。そうしたら私はこの世界で生きられる。簡単な話でしょ? だから少しだけ聞いて。


070(233)
夜に歌が聴こえてくる。歌詞は聴き取れない。「こんばんは」ぼくは酒を飲んだ帰りで、彼女のぼんやりと輝く儚い姿を見ても奇妙に思わなかった。「それ、下さらない?」どうぞ。ミネラルウォーターを一口飲んで走り去った。ペットボトルから歌声が聴こえた。


071(234)
「あのとき助けていただいてもらったものです。もう一口食べていただきたく思い、こうして参りました」わたしの目の前に、かつて家族が食べ残したものたちがずらりと並んでひざまずく。どおりで腹が出るはずだわ。


072(241)
「絶滅屋です」熊みたいに大きな男の人が冷蔵庫を開けて、残った食材をバクバク食べてしまった。すごい。「大盛りごはんで鍛えてるからね」けど、絶滅屋なんてへんな名前だね。「この名前にしたらなぜか仕事が増えてね」はははと笑って、次の家に向かった。


073(244)
歌うものが飛んでいる。ぼくは墜落した歌うものを知っている。翼はなく、体は継ぎ接ぎで、まるでフランケンシュタインの怪物だ。「問、ぼくでも飛べる?」「答、我々を滅ぼせば」いま、ぼくは対空砲を作っている。継ぎ接ぎの美しい怪物と一緒に。


074(245)
カウンターがくるくる回る。待ったなしで消えていく。これが楽しくて仕方がないから、もっと回るように仲間を増やした。仲間だけでは足りないから生け贄も要求する。カウンターが回ってなにかが消える。なにかってなに? 知らない。楽しくて仕方がない。


075(258)
箱が歌う。起きて、起きて。歌うだけじゃなく、転がる。起きてよー、起きてよー。色が変化する。ヤバいよ、ヤバいよ!? ぼくは箱をぶん殴る。すると箱が開いて、ぬいぐるみが鈍器を持って出てくる。「敵対行為と見なすが、よいか?」すみません、起きます。


076(264)
部屋の壁に知らないスイッチがあった。押すと小さな箱が開いて、まだイメージが固まっていない国民的アイドルキャラが出てきた。ダメだ! 子どもの夢が壊れるから隠せ!!


077(270)
電話が鳴っている。うるさいので箱の奥にしまったけれど、鳴っている気配がする。誘惑に負けてふたを開けてはいけない。雲の切れ間から一筋の光が差し込むから。神々しい言葉が流れてくるから。一言一句、正しくなぞらえることになるから。


078(272)
よいですね、絶対に「ここ」を見てはいけませんよ。神様にそう言われたので、ぼくたちは素直に「ここ」以外を美味しくいただいた。ごちそうさまです。Yummy Yummy


079(276)
聞け、人類よ。祠を建てるのだ。できるだけ多く。費用は問わないが、そっち持ちだ。デザインは可愛くしろ。祭りもやってくれ。とりあえずは年に1回でいい。なお、見返りはない。「OK」かくして彼らの神は繁栄した。モチベーションは人それぞれというお話。


080(280)
宇宙から緑の侵略者がやってきて、あらゆる自動販売システムを一瞬で掌握した。「宇宙コンビニへようこそ。最新の宇宙メロンソーダはいかがですか?」じゃあそれで。「宇宙グリーン席がお安くなっております」いいね! こうして侵略は進む。宇宙ネギを食え。

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