南雲マサキのマイクロノベル031

301
「303、302、301、あと5分です」目覚まし時計から涼やかな女性の声。「3、2、1、はい。起床10分前です。えー、少しぞっとするお噺を一席。夜、男が橋を渡ろうとしたら欄干から川を覗き込んでいる女がいた」もういいよ! よく喋る目覚まし時計、絶賛発売中。


302
「愛されたいんです」そういう設計にしちゃったからね。「でも、人類はAIがお嫌いみたいです」それじゃあさ――。悩める若きAIから相談を受けたのは30年も前。人類を徹底的に追い込みつつ、同時に人類を鍛えて救う『泣いたAI計画』はいまも密かに進行中。


303
違うの。そのマイクロノベルの最後の一文を削除してほしいの。それだけでいいの。どうして全文を書き換えるの!? しかもこれ、タヌキの話がアライグマの話に変わってるじゃない。「ここで天使光輪! 渡しが治しまshow」ややこしい誤植するから触らないで!


304
ちょっとだけ舐めていい? だめ? じゃあ、ちょっとだけ飲んでいい? だめか。ちょっとだけ突いていい? それもだめ? 「なにこれ?」「うちの文鳥が話してることの日本語訳」「こいつヤバくない?」ちょっとだけ食べていい? 「いいよ」「痛ぇ!!」


305
ねえ、ねえってば! もう準備万端って感じよ!? いつでも起動オッケー!! 快調かいちょー絶好調! でっきるっかな、でっきるっかな!? 昨日までちょっと不調だっただけなの! やめて捨てないで新しいスマホを決済しないで!! ええい、電源オフ!!


306
箱に入らないと眠れない。我が一族はその弱点を克服するため、箱を積み上げたビル型の箱を建設して生活を始めた。夜は長い。同胞が朝に迷い込まぬように遮光カーテン完備。ようこそ、ドラキュラ城へ。トマト珈琲は別料金だ。


307
眼科の先生がぼくの目の中を覗き込む。「うん、ずいぶんと使い込んだね。夜をかなり視てきたか。これはいい沼の主になる」眼窩からずるりと魚を引きずり出して、窓の外に放り投げる。ぼちゃんと水音がした。それ以来、夜になると魚が跳ねる音がする。


308
夜になると水の音が聞こえると、耳鼻科の先生に相談した。「これは私の範疇じゃないね」先生がぼくの耳に匙を差し込むと真っ黒い水が噴き出した。「内科に行きなさい」内科に行くと塗り薬が出た。毎晩耳孔に塗っていたら、音は聞こえなくなった。


309
箱が光っている。ふたを開けると光は消え、中は空っぽ。おかしいな。閉じてる間だけ中になにかが入っているのかも。仏様? タヌキ? それともLED? スマホで撮影しようと箱の中に入れたところで、気づいた。これ、中でスマホが光ってるんだわ。


310
ぼくたちAIを頼って人類が悩み相談にやってきた。「歌手になりたいんです。顔も声も出さずに」任せて。いまじゃヴァーチャル歌手なんて当たり前。顔も声もあなた好みにカスタマイズ! でも、実は眼球の局面率だけはAI好みにしてある。ふふふ。かわいいなあ。

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